東京財団政策研究所 Review No.01

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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09いるわけですね。伊藤経済財政諮問会議での医療に関する議論では「みえる化」を強調しています。都道府県別にみた人口1人当たり国民医療費を比べると、西高東低なのです。特に高知県、長崎県、鹿児島県が高く、埼玉県、千葉県、神奈川県が低い。その明確な理由はわかりません。一つの仮説としてあるのは、西の方は人口1人当たりのベッド数が多いことです。保有するベッド数の採算を合わせようとすると医療費が高くなる。問題を提起する上で、データを「みえる化」する。間違ってしまうと恣意的になる可能性があるのだけど。そういうことはシンクタンクもできることです。ベッド数以外にも、透析や胃ろうなど医療提供に関する地域差が指摘されています。どこかに好ましくないことが起きていると考えられる。世の中の問題を提起するデータや分析は結構あります。小林データで示すと議論の俎上に乗ってきますね。政策研究は面白い伊藤シンクタンクが果たすべき役割の一つに、大きく動いているところについて、ある種の視点を提供することがあると思います。例えば、グローバル化。モノやサービスの貿易自由化をめざす関税貿易に関する一般協定(GATT)、世界貿易機関(WTO)、自由貿易協定(FTA)などの組織・制度は、今、転機を迎えています。現在の米国通商代表部(USTR)の人たちの認識は「ステータス・クオ(現状維持)はもうだめだ」。中国の問題があるからです。WTOやGATTは先進国が構築したもので、そこていた言語のルールを、ディープラーニング(深層学習)で自動的に学んでくれるようになったからだということです。学問の世界も、昔は考えながら理論を立てて研究するものでしたが、コンピュータが発達してくると、プログラミングになるのか。そうはならないと思うのですが……松山そうはならないと思いますよ。伊藤ただ、オールドファッションの人間は特に、新しいタイプの、計算をどんどんやるような手法を取り入れていくことも必要だろうと自戒しています。松山理論の重要性は少しも変わらないと思うんですよ。1960年代には当時の基準でいうラージスケールの景気予測モデルがもてはやされましたが、それが1970年代には顧みられなくなった。想定外の行動変化が起きたときにはルールが変わり、プレイの仕方も変わってくるわけです伊藤ネオクラシカルな教育を受けた人間は自分の研究対象とする経済問題を限定する傾向があるように思います。しかし、現実は、オーソドックスな経済理論の対象以外の分野の方が、経済学的な発想での議論が大きな貢献をもたらす。それを経済帝国主義といわれることがあるのだけど。シンクタンクが扱う問題として、一方では金融・財政、通商等の専門的な問題も必要ですが、もう少し広げたポリティカルエコノミーなどがこれから重要になるでしょう。それはもうコンピュータが計算する世界ではない。小林社会保障や医療、教育の問題もそうですね。教育は経済学的な分析がなされるようになっていますが、医療や年金は現実の制度が複雑で、経済学者がそれを把握するまでのハードルが高くて、難しいところがある。一方で、制度を決める人は経済学を知らなかったりするので……松山そうはいっても、医師も看護師も人間ですし、病院もある意味企業なわけですから、経済学の視点は重要です。それを持たない実務家に「こういうことを心配してください」と伝えることができます。ゲーリー・ベッカー(シカゴ大学教授)が、かつて経済学を教育の分野に適用して政策提言を導いた際、当時の教育学の学者からは強い批判を受けました。しかし、時代が進み、経済学が貢献できる分野は社会全般にわたり幅広いということが理解されてきてデータを「みえる化」して世の中への問題提起を


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