東京財団政策研究所 Review No.02

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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03「ポスト毛の中国で実権を握った鄧小平は、政治のパワーゲームに精通する人物である。この『小さな男』と会ったことのある外国の政治指導者は、口をそろえて彼からパワーを感じると振り返る」(『現代中国の父鄧小平』日本経済新聞出版社刊)。鄧の政治理念、あるいは人生観は「できることから実行していければいい」とのプラグマティズム(実用主義)だった。鄧は国民にナショナリズムを吹き込んだことは、ほぼなかったといわれている。しかし、鄧の後継者たちは彼の政治理念をほとんど継承しなかった。逆に毛沢東政治の影響が強い。とくに、今の習近平政権のメンバーのほとんどは、かつて毛時代の紅衛兵だった。「改革・開放」政策によって、中国経済は離陸したが、中国政治の本質はほとんど変わっていない。これこそ中国経済と中国社会発展のボトルネックになっている。江沢民元国家主席と胡錦濤前国家主席はいずれも鄧によって指名された。習近平国家主席だけ鄧に指名されていない。習近平政権指導部のほとんどの幹部は、毛が発動した文化大革命時代(1966-76年)に教育を受けたいわば文革の世代、すなわち元紅衛兵である。彼らには、毛沢東思想のDNAが流れているといわれる。彼らは権力に崇拝し、覇権を追い求める半面、自由と民主主義をまったく受け入れない。かつて米中双方の論客は、米中が連携して世界を統治していくいわゆるG2の構想を提唱していた。習近平国家主席は自らオバマ前大統領に対して、「太平洋は広くて、我々はそれをシェアすることができる」と提案したことがある。中国で習近平政権が誕生してから、アメリカで4年遅れてトランプ政権が誕生した。グローバル社会の勢力図が今後どのように変わるか―。米中覇権争いの政治経済学をここで検証する。中国がドル建て名目GDPでアメリカを超える日が来るのか2018年は、中国の「改革・開放」政策の40年目に当たる年だった。ドル建て名目GDPで測った場合、中国経済は世界二番目の規模であるが、購買力平価で評価すると、中国はすでにアメリカを飛び越え、世界一といわれる(世界銀行)。このまま発展していけば、ドル建て名目GDPでも、アメリカを超越するのは時間の問題だろう。途上国といわれ続けてきた中国の台頭に対して、ワシントンのポリシーメイカー(政策立案者)は、当然、危機感を募らせるわけである。一方の中国では、新華社や人民日報などの官製メディアがプロパガンダを作り上げた結果、若い世代を中心にナショナリズムが急速に広がっている。歴史的に政治が弱体化すると、ナショナリズムが台頭する傾向が強い。かつて、欧米諸国の宣教師を多数殺害した義和団の乱は、まさに清王朝の末期に起きた蜂起だった。しかし、ナショナリズムによって外交が強くなることはほとんどなく、国内政治がさらに弱体化するきっかけとなる。毛沢東時代(1949-76年)、中国で反米と反ソ感情がられたが、国内の権力闘争が激化し、経済も破綻寸前に陥った。第2次世界大戦以降のアメリカの外交において中国を民主主義陣営に取り入れることができなかったことは最大の失敗だったといえる。それがなければ、冷戦はもっと早く終結したのかもしれない。毛沢東は農民一揆のリーダーとして、建前では人民を解放するといったが、実際は彼自身が「皇帝」になろうと思っていただけだった。毛は生涯、帝王学の本「資治通鑑」を繰り返して読んでいたといわれている。性格的に猾な毛はこの本から謀略を栄養分として吸収した。だからこそ国民党のエリート将校の蒋介石は毛と戦争しても勝てなかった。「改革・開放」政策から40年経た今も中国の政治体質は変わっていない。序論/グローバル社会の勢力図はどう変わる?ナショナリズムが台頭する中国は外交が弱体化する可能性がある


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