東京財団政策研究所 Review No.02

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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09増しに高まっているようだ。中国の国家主席は毎年の正月に発表する新年のあいさつのなかに、台湾統一の文言を必ず盛り込む。ただし、今年の習近平国家主席の談話に、「一国二制度」による統一、台湾の種々の団体との対話強化と台湾独立に対する武力行使の可能性を否定しない、などの諸点が含まれ、注目が集まっている。なぜ習近平政権は台湾統一を急ぐのだろうか。一つは前述したとおり、習近平政権は三期目を続けるために、その正当性を立証しないといけない。台湾統一を実現すれば、習近平国家主席は歴史に名を残すことができる。しかも、台湾経済が完全に大陸に依存しているため、EPAなどによる経済統合を軸にして、将来的に台湾を完全に統一することができる。もう一つは、前述したように、「一帯一路」プロジェクトと「中国製造2025」がトーンダウンするなかで、習近平政権にとって結実できるのは、台湾統一となる。ただし、現在の蔡英文政権は独立志向の強い民進党政権であるため、それに対する揺さぶりとして「武力行使の可能性を否定しない」と強調したのではないかと推論される。むろん、この一言は誤算の可能性が高い。なぜならば、2018年末に行われた地方の首長選挙において蔡英文総統が率いる民進党が大敗を喫した。しかも、民進党内からは蔡英文総統の辞任を求める動きも出ていた。ところが北京からいわれた一国二制度による統一と武力行使の可能性に対して、蔡英文総統は「一国二制度による統一を断固として拒否する」との談話を発表した。これにより、蔡英文総統への支持率が一気に高まったようだ。現状において、ロシアがクリミアを併合したように北京が台湾に対して武力行使を行う可能性はそれほど高くない。アメリカを中心に国際社会は、台湾海峡の戦火を容認しない。習近平談話のなかにもあるように、「中国人は中国人を殺さない」といわれている。要するに、台湾政府は独立を宣言しなければ、武力行使はないとみて間違いなかろう。とくに、トランプ政権は台湾旅行法を成立させており、台湾への武器輸出も再開している。アメリカと台湾との連携が強化しているとみていいはずである。習近平談話の大半は国内向けのものとみるべきかもしれない。中国で、もっとも重要な5Gのサプライヤーは「華為」(ファーウェイ)とZTEである。とくに、ファーウェイは上場しておらず、その資本関係はのままである。表向きは民営企業といわれているが、政府開発や人民解放軍との取引などに深くかかわっている。報道によると、ファーウェイの端末にスパイチップが組み込まれているといわれているが、今のところ、その証拠が提示されていないため、定かではない。米中貿易不均衡から始まった対立はここに来て、5Gを軸とする技術覇権に発展している。アメリカに呼びかけられ、G7を中心に先進国のほとんどでファーウェイを排除する動きが出ている。表向きでは、ファーウェイが排除されるのはその技術の先進性よりも、既存の国際ルールを順守しない商習慣によるところが大きい。しかも明確な証拠が提示されていないが、ファーウェイの製品を使う危険性(容疑)だけが指摘されている。ファーウェイにとって都合の悪いことが相次いで暴露されている。一つはファーウェイの副会長兼CFO孟晩舟がカナダで逮捕されている。その容疑はイランとの取引とそれにかかわる金融詐欺行為だ。もう一つは、ファーウェイポーランドの責任者がスパイ行為の容疑で逮捕された。しかも、逮捕されて間もなく、ポーランド司法当局がまだ見解を示していないなか、ファーウェイ本社はこの責任者の解雇を発表した。ファーウェイの立場に立てば、この処理は明らかに拙速すぎるといわざるを得ない。一連の事件を通してみると、ファーウェイが四面楚歌に遭遇しているのは間違いないが、その背景にトランプ政権による中国包囲網の引き締めがあることは容易に推論できる。結論的に米中貿易の不均衡は、簡単に是正されない。2018年、トランプ政権は対中制裁関税を課したが、それにもかかわらず中国の対米貿易黒字は2006年以来の最高を記録し、3233億ドルに達した(中国の税関統計)。しかし、技術覇権争いは、アメリカに軍配が上がる可能性が高い。台湾に対する武力行使の可能性7習近平政権は台湾を統一しようとする気持ちが日関税を課してもアメリカの対中貿易赤字は増え続けている。


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