東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


>> P.2

02質の高い成長とは、環境に配慮し持続可能な高い効率の経済成長のことであり、それはまさに胡錦濤政権(2003-12年)が提起した科学的発展観の意味するところである。もう一つは経済成長に含まれる付加価値を高めることである。それは技術力の強化を意味するものである。さらに、国有企業による市場独占を抑制し、民営企業の活力を発揮して、市場メカニズムによる資源配分に委ねることである。この点の改善は遅々として進まず、否、胡錦濤政権の後期から「国進民退」*1といわれるぐらい逆戻りしている。こうしたなかで、2018年5月から米国トランプ大統領が仕掛けている貿易戦争によって中国景気が一段と押し下げられる可能性が高い。拙論は、中国経済モデルがサステナブルなものかどうかに焦点を当て、現行の制度と構造に起因するリスクを明らかにするものである。中国経済のサステナビリティ中国のこれまでの40年間にわたる「改革・開放」政策による経済成長は“中国の奇跡”と描写されている。一方、中国崩壊論も常に提起されている。同時に、中国の台頭は世界にとって脅威であるとの見方も少なくない。中国経済をめぐる極論は、各々の論者の個人的な期待に基づく主張がほとんどである。たとえば、中国崩壊論が提起されて久しいが、未だに崩壊するどころか、成長を続けている。むろん、今までの成長を奇跡と描写するのも言い過ぎであろう。後述する中国経済の発展モデルは、冷戦終結という大きな枠組みのなかで、「改革・開放」という看板を掲げる中国は外国資本をselective(選択的)に取中国のドル建て名目GDPはアメリカに次いで世界で二番目の規模であり、日本のGDPの3倍近くになっている。世界銀行が購買力平価(PPP)で試算したところ、中国のGDP規模はすでにアメリカを上回っているといわれている。ただし留意すべき点は、ドル建て名目GDPの上昇は2007年以降の急激な人民元切り上げによるところが大きく、購買力平価による試算もそのときに使う物価のコンポーネントによって結果が大きく異なることがある点だ。それでも、中国経済の規模とその影響力の大きさは否定できない。結論として、中国経済が世界経済をけん引するエンジンになりつつあるからこそ、中国景気が減速した場合、世界経済に与える影響は予想以上に大きくなる(図1参照)。目下の中国経済を考察すれば、その減速傾向が顕著になっている。ただし、かつての前年比10%前後の高成長に比べれば、目下の6%台の成長は確かに減速しているようにみえるが、中国経済の規模拡大と世界経済の動きを鑑みれば、決して低い成長とはいえない。重要なのは経済の量的拡大を追い求めるのではなく、質の高い成長を目指すことなのである。序論/6%台の経済成長をどう評価する?量的拡大から質的向上を目指す持続可能な成長に注目すべき図1●中国実質GDP伸び率の推移(前年=100)1980年1982年1984年1986年1988年1990年1992年1994年1996年1998年2000年2002年2004年2006年2008年2010年2012年2014年2016年2018年100120118116114112110108106104102%資料:中国国家統計局ChinaWatch2


<< | < | > | >>