東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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11融のリスクも払拭することができない。景気が減速するにつれ、中国内の社会不安もますます増幅していくものと思われる。非常に残念なことだが、習近平政権になってから、学校教育においてリベラルな教育内容が禁止され、共産党への忠誠を強要する内容が植えつけられている。半オープンな中国社会で毛沢東時代のマインドコントロールのような教育がどこまで機能するかは明らかではないが、改革を邪魔しているのは明白である。中国の発展はGDPの成長率で図れるものではなく、制度の進歩が必要である。とである。アメリカをはじめとする先進国は、経済成長を成し遂げた巨大な人治国家を見たくないはずである。近年、中国国内のリベラルな憲法学者たちはconstitutionalism(憲政主義)を主張している。中国の憲法の第35条には、「中華人民共和国公民は言論、出版、集会、結社、デモの自由がある」と規定されている。憲政主義の主張はまさにこの第35条が規定している権利を保障することである。しかし、中国共産党はこの第35条を改正しないが、その権利も保障しない。中国社会が民主化していく可能性があるとすれば、まず法治国家に転換する必要がある。法治がなければ、自由も人権も絵に描いたに過ぎない。残念ながら、向こう10年ないし20年、中国が法治国家になる可能性は極端に低いといわざるを得ない。前述のように、現在の指導部もそうであるが、向こう数世代の指導者はいずれも文化大革命のときに毛沢東思想教育を受けた元紅衛兵の世代になる。彼らは権力を崇拝するが、法治、自由、人権、民主をほとんど理解していないのが実情だ。元紅衛兵の世代が引退してはじめて中国社会は法治国家になる可能性が出てくる。それまでには、人治がむしろ強化されると思われる。2019年5月、北京でアジア文明対話大会が開催された。途上国を中心に二十数か国の指導者が参加した。中国政府はイデオロギーの違いを超越して、文明間の対話を呼びかけようとしている。それに対して、同月上旬、米国国務省政策立案局局長KironSkinner氏は「米中の対立は文明の対立である」と指摘している。仮に米中の対立が文明の対立であるとすれば、単なるイデオロギーの違いだけでなく、共存できない二つの文明ということになる。この問題提起はどこまでの実証に基づいて行われたか定かではないが、中国研究者にとって重要な宿題を残した。制度の枠組みを改革しなければ中国の社会不安も増幅する中国を巡るさまざまなリスクをすべてリストアップすることはできないが、その必要もない。既存の制度的枠組みを改革しなければ、債務のリスクや金参考文献と補足解説●*1…2009年のリーマンショックのとき、胡錦濤政権は金融危機による中国経済への影響を心配して、4兆元(当時の為替では、約56兆円に相当)の財政出動を決断した。しかし、巨額の財政資金とそれと同時に進められた金融緩和の国有銀行の融資のほとんどは国有企業に流れ込み、国有企業は巨額の財政資金と国有銀行の融資をもとに民営企業を買収すると同時に、市場の独占をさらに強化していった。これらの現象を国進民退という。●*2…RichardHaass,“HowaWorldOrderEndsAndWhatComesinItsWake”,(ForeignAffairs1-22019)●*3…2003年、ボアオウアジアフォーラムではじめて提起されたもの。●*4…「工農兵学員」とは、文革のとき、大学入試が廃止されたため、国有企業の労働者、農民と人民解放軍の兵士のなかから、共産党への忠誠心の強い若者が共産党幹部の推薦で大学に進学する大学生たちのことである。彼らの多くは学力がなかった。●*5…毛沢東元秘書・李鋭氏は、習近平国家主席が浙江省の幹部の時代、共産党中央組織副部長として中央政府の幹部に抜擢するかどうかについて習近平の適性審査を担当したとき、彼を推薦したのは父親の習仲勲元副総理の人柄がよかったからだと証言している。●*6…MichaelPillsbury[2015]TheHundred-YearMarathon:ChinaʼsSecretStrategytoReplaceAmericaAstheGlobalSuperpower,St.MartinʼsGriffin(和訳:野中香方子訳『China2049秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』、日経BP社)●*7…ElizabethC.Economy[2018]TheThirdRevolution:XiJinpingandTheNewChineseState,OxfordUniversityPress●*8…AngusMaddison[2004],TheWorldEconomy:HistoricalStatistics(DevelopmentCentreStudies),OECD法律は共産党の国家統治の道具となった。


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