東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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10すなわち、法制では、法律は共産党の国家統治の道具であり、共産党が法律を凌駕する立場になる。つまり、たった一文字の違いで意味は真逆になってしまう。目下の米中貿易戦争でアメリカは、中国政府に対して知的財産権の保護を要求しているが、なぜ中国政府はアメリカ政府の要求を受け入れないのだろうか。知的財産権の侵害は、中国企業にとってもマイナスであるのは事実だ。しかし、知財権侵害を根絶することを考えるならば、そのための法律を執行する必要があり、中国社会は法治国家へ一歩踏み出すことになる。このことは共産党統治を揺るがす可能性がある。今後10年ないし20年は法治国家になる可能性は低い結論をいえば、チャイナリスクを議論する際、その出発点となるのは法治か法制かを明らかにするこ2018年3月の全国人民代表大会で「法治」が「法制」に変更された海外の中国ウォッチャーは、中国の法制度の整備が不十分と指摘している。それに対して、中国外交部スポークスマンは、中国は法治国家であると外国記者に反論する。確かに中国の法律の条文は先進国には及ばないが、新興国のなかではかなり整備されているといえる。問題は法律が額面通りに執行されているかどうか、司法制度の有効性が問われているということである。2018年3月に開催された全国人民代表大会では、憲法が突如として改正された。そのなかで注目を集めたのは、国家主席の10年間の任期制限が廃止されたことであるが、もう一つ重要な項目が改正された。それは法治(theruleoflaw)が法制(therulebylaw)に改められたことだ。法治の意味は「共産党も法律によってガバナンスされる」ことである。一方で法制は「共産党は法律をもって国家を統治する」ことである。結論/制度的枠組みの改革が必要な理由とは?債務や金融のリスク払拭できず社会不安がますます増幅する●中国では、奇跡的な経済成長が成し遂げられたが、その構造上の最大の問題は資源配分のミスマッチに起因する非効率性である。中国経済の非効率性をもたらしたのは政府による恣意的な市場介入である。●40年間にわたる「改革・開放」にもかかわらず、自由な市場経済の制度作りが大幅に遅れている。同時に、政治改革も遅々として進まず、政府に対するガバナンスが欠如している。●中国経済は高度成長期を終え、これから徐々に減速していくと思われるが、構造転換が遅れている。とくに、人口ボーナスがオーナスになり、ルイスの転換点を過ぎた中国経済はさらに減速する恐れがある。このままいけば、長期にわたって停滞していく可能性が高い。●経済成長は共産党統治の正当性の唯一の証左であり、経済成長の減速は共産党統治を動揺させる可能性がある。習近平政権は社会不安に対処するために、言論統制を強化しているが、逆効果になると思われる。●アメリカのトランプ大統領が仕掛けた米中貿易戦争は共産党統治体制に致命的なダメージを与える可能性がある。中国社会の不安定化は東アジア域内の地政学リスクの増幅を意味するものである。政策的インプリケーションChinaWatch2


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