東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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04被害はそれだけでなかった。農業が荒廃し、1950年代末に中国で大飢饉が起きて、数千万人の餓死者が出たといわれている。このような大惨事はまさに間違った政策決定とその過ちを是正することができなかった結末といえる。原因は、専制政治ゆえのトップダウンの政策決定メカニズムにあり、現場に近い官僚はトップダウンで決められた政策に対して異議を唱えることができないことにある。大飢饉をもたらした大躍進政策を決定した毛沢東を批判した劉少奇(元国家主席)や彭徳懐(元国防大臣)はいずれものちに粛清されてしまった。専制政治の最大の欠陥は、自浄能力の欠如である。1976年9月、毛沢東が死去したあと、江青女史をはじめとする「四人組」が実質的なクーデターによって追放され鄧小平は復権を果たした。その後、鄧小平は専制政治の弊害、とりわけ個人崇拝の是正を目的として、集団指導体制を提案し、同時に一人の指導者が長期にわたって権力に君臨する独裁を回避するために、指導者の任期制(定年制)が導入された。共産党の指導体制を維持しながら、その弊害の一部を克服する鄧小平の提案は中国国内で高く評価されている。冷戦終結後の制度選択21990年代の初頭、ソビエト連邦が崩壊するとともに、東西冷戦が終結した。その背景には、東側の社会主義国の経済運営が一様に失敗したことがある。ただし、社会主義国のその後の針路は同じものではなかった。ソビエト連邦と東欧諸国は民主化の道を選んで歩んだ。東アジアでは、ベトナムが選挙制度を採り入れた。北朝鮮は依然として鎖国した独裁体制を続けている。中国は市場開放を推進しながら、経済発展を促す半面、共産党指導体制を堅持している。冷戦の終結について、米国スタンフォード大学のFrancisY.Fukuyama教授(政治学)は歴史の終焉と予言した。むろん、その後のロシアと東欧諸国の歩みをみると、民主主義体制に移行したものの、ロシアのようにプーチン大統領による実質的な独裁体制が続いている。それに対して、中国では、鄧小平によって提案された集団指導体制は、習近平政権によって完全にひっくり返された。以降、共産党中央委員会総書記兼国家主席である習近平への個人崇拝が急ピッチで進められている。2018年3月の全人代では憲法が改正され、指導者の定年制が廃止されてしまった。では、集団指導体制と個人崇拝の政治体制の最大の違いはどこにあるのだろうか。鄧小平によって提案された集団指導体制は、共産党の指導体制を堅持すると同時に、共産党内の民主化の実現が期待されている。問題は、共産党一党支配体制において権力が最高指導者個人に集中しすぎることにある。毛沢東が死去した直後の中国で長老指導者のほとんどは毛政治の被害者だったうえ、鄧小平自身も毛沢東と同等の権威を確立することができなかった。結果的に、集団指導体制は当時の中国政治情勢でもっとも座りがよかった。そこから40年の歳月が経過した今の中国政治情勢をみると、習近平国家主席の権力のバランスをとる政治勢力も指導者も実質的に存在しない。習近平政権が誕生する前には、生まれてくる習近平政権の正当性について異議を唱える政治家、たとえば薄熙来元重慶市共産党書記などがいたが、そのほとんどはその後の反腐敗キャンペーンで追放されてしまった。習近平政権にとり、反腐敗キャンペーンは政敵を追放する絶好の口実であり、ツールとなっている。中国国家監察委員会の発表によると、これまでの6年間、合計200万人以上の腐敗幹部が追放された市場開放の推進で経済は急成長したが共産党指導体制は堅持。ChinaWatch3


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