東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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05ら権力集中を図った。その手法として、反腐敗キャンペーンを大々的に繰り広げたわけだ。もともとガバナンス機能が欠如している専制政治において、幹部が腐敗するのは必然的な結果である。1989年6月に起きた天安門事件は、学生と市民が民主化を求めると同時に、反腐敗を求めた。天安門事件で趙紫陽総書記(当時)が失脚したのを受け、上海市書記だった江沢民氏が抜され、総書記と国家主席に就任した。しかし、江沢民政権で共産党幹部の腐敗が加速していったのは事実だ。江沢民国家主席(当時)は部下の幹部に「悶声発大財」(黙って金を大けしよう)と繰り返して訓話したといわれている。この鶴の一声で政治家と役人はいっせいに金けに走った。2016年10月、共産党第18回大会中央委員会が開かれ、習近平総書記を核心とすることが決議された。前任者の江沢民元国家主席と胡錦濤前国家主席はすでに高齢となり、習近平国家主席を牽制する力はもはや持っていない。反腐敗は彼らのブレーンたちにまで及んだ。たとえば、胡錦濤前国家主席の秘書官・共産党中央委員会弁公室主任だった令計画が腐敗によって追放され、無期懲役を宣告された。習近平国家主席の権力基盤固めは予想以上に順調に進んだ。残りの問題はいかに継続的に強化していくかにある。そのために、有効な政策を決定し、それを実行に移さなければならない。日本でも、政府の省庁間の縦割り組織は政策執行の妨げになることが多いといわれている。それだけでなく、大企業内部においても縦割りの組織づくりによって、組織間の連携が妨げられるのは周知の通りである。中国でも政府部門は縦割りとなっているため、政策決定と政策執行の効率化は実現されない。さもなければ、間違った政策が決定されてしまう。習近平政権になってから、政策実行力を強化するために、省庁間の連携を強化し、異なる省庁に跨る「領導小組」を設置し、省庁間の隔たりを是正しようとしている。「領導小組」は日本でいえば、審議会や委員会のようなものであるが、日本の審議会と委員会よりも権限が遥かに強い。1980年に「中央財経領導小組」が設置された。役割は財政、金融およびエネルギーなどにかかわる制といわれている(図表1参照)。これまでの40年間の経済政策は、基本的に鄧小平がプラグマティズムの考えに基づいて、経済成長のみ目指した。それに対して、ロシアと東欧諸国は、ショック療法により国有企業を含むすべての国有財産を民営化していった。市場機構と市場環境が十分に整備されないなかで性急に民営化を進めたため、短期的に経済は大幅に減速し、混乱に陥った。習近平指導体制の政策執行3胡錦濤政権の時代、国家主席として政策を決定しても、額面通りに実施されないことがあったといわれている。これに対し当時の官僚が「政令不出中南海」(政令が中南海の外へ出ることがない)と感嘆したといわれている。胡錦濤前国家主席は鄧小平が生前指名した最後の後継者だった。ただし、胡錦濤が国家主席に就任したあとも、その前任者の江沢民元国家主席は影響力を残し、胡錦濤政権の政策執行を牽制していた。習近平国家主席が就任した当初、中国内外の専門家は改革の加速を期待していた。胡錦濤政権の10年間は改革が遅れた、いわゆる「失われた10年間」を喫した。習近平政権の誕生でそれに終止符が打たれ、改革が再スタートすると予測されていたのだ。胡錦濤政権が改革を続けられなかった背景には、権力を十分に掌握していなかったことがあるといわれている。したがって、習近平国家主席は就任したときか図表1●習近平政権によって追放された腐敗幹部の人数(2013-2018年)資料:中国国家監察委員会2013年習近平政権発足2018年2017年2016年2015年2014年万人70506040302010018.210.233.641.552.762.1


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