東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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07界自身が考えることである。政府が産業界に対して直接指示を出すという考え方はない。日本はもともと産業界の連携の強い国であり、また、政府との連携も強い。政府による企業への直接的な補助金はそれほど多くないが、行政サービスと政府の買い付けは産業発展をリードする指南役として予想以上に重要な役割を果たしてきた。中小企業に対する金融支援はその典型だ。2017年、北京大学で産業政策の必要性と有効性に関する激論が展開された。この激論の参加者は、張維迎教授(経済学)と林毅夫教授(同)だった。張教授は英国オックスフォード大学で経済学博士号を取得したリベラルな経済学者(指導教官はJamesA.Mirrlees教授)である。林教授は台湾出身で1980年代、徴兵され大陸に近い金門島に配属されたとき、海に飛び込み、福建省に泳ぎ着き、大陸に亡命した。中国大陸で優遇される林教授は北京大学に進学した。卒業後、シカゴ大学に国費で留学し、同大学で博士号(経済学)を取得した。のちにJosephE.Stiglitzの後任として世界銀行のチーフエコノミストに就任している。当時の世界銀行の総裁は米国きっての親中派RobertB.Zoellick氏だった。産業政策に関する両氏の論争で林教授は戦後日本の鉄鋼政策と自動車政策の成功例をあげ、中国も同様な産業政策を実施すべきと力説した。それに対して、張教授は政府主導の産業政策は、資源配分のミスマッチをもたらすものと指摘する。産業の発展は企業および産業に任せるべきと主張する。2人の経済学者の主張はそれぞれ一理あるようだが、産業政策の必要性と有効性を議論する前に、まず、産業政策を実施する前提を明らかにする必要がある。残念ながら、それに関する議論は十分に行われていない。これまで40年間の「改革・開放」政策を振り返れば、中国では合計13回もの5カ年計画(正式には「国民経済計画」)を発表し実施してきた。これらの5カ年計画の中核的な部分はまさに産業政策である。問題は5カ年計画の実施においてその主役は企業ではなく、政府である。結局のところ、毎年のように計画が発表され実施されるが、その目標を達成できたかどうかについてほとんど検証されることがない。こうしたなかで新たに考案されたのは、「中国製企業改革や過剰設備の削減といった構造問題を解決しなければならないことだ。李克強首相は人民銀行(中央銀行)や財政部などに景気刺激策の実施を指示できるが、それだけでは、中国の景気は上向くことがない。構造問題の解決について、李克強首相にはその権限がない。それはまさに中央財経領導小組の組長である習近平国家主席の権限である。一方、人民銀行は国務院の景気刺激要求に呼応して金融緩和策を実施しているが、中国では人民銀行が利下げを実施する代わりに、多くの場合、預金準備率を操作することが多く、それに、公開市場操作を実施する。問題は国有銀行の改革が遅れ、中小民営企業の資金需要に応える中小金融機関が十分に育っていないため、中小民営企業の資金難が解決されていないことだ。そして、長い間、中国経済が頼ってきたインフラ整備の公共投資と国有企業の設備投資は国家財政、とりわけ地方財政に過剰債務をもたらし新規投資を行う余裕がなくなっているため、景気の牽引力としての力が弱まっている。中国における産業政策に関する論争5いろいろな意味で、戦後の日本経済の発展は中国をはじめとする東アジア諸国にとって良い手本になっている。日本の種々の経済政策のなかで、比較的ユニークなのは産業政策を効率よく実施したことではなかろうか。欧米の先進国では、新古典派経済学の考えにおいて産業の発展は基本的に企業と産業資料:中国国家統計局図表3●実質GDP伸び率と消費者物価指数(前年=100)2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年95120115110105100%実質GDP伸び率消費者物価指数


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