東京財団政策研究所 Review No.04

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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06返し強調していた。要するに、「経済さえ発展すれば人民は共産党を支持してくれる」というのが鄧小平の論理だった。逆に経済が発展しなくなった場合、人民は共産党を支持しなくなる。一刻も早く豊かになろうとする中国人の特性からこの描写は間違っていないが、近代経済学の教えでは、自由な市場経済においてプライスメカニズムというアダム・スミスが定義した「見えざる手」による資源配分こそもっとも効率的といわれている。専制政治において政府が資源配分を行うと、経済効率は自ずと低下していくと思われている。これまでの40年間、中国の経済政策の基本的なトレンドは、一貫して経済成長の促進に軸足が置かれている。長い間、8%の経済成長が目標に設定されていた。最低でも8%成長を実現しないといけないというのは中国のポリシーメイカーの間のコンセンサスとなっている(図表3参照)。過去40年間、中国の実質GDP伸び率は年平均9%を超え、世界でも奇跡的な経済成長といわれている。逆にいえば、9%以上の成長を維持できたからこそ、中国社会は安定していたともいえる。では、なぜ中国共産党は8%以上の経済成長を実現しないといけないのだろうか。それに関するもっともオーソドックスな解釈として、中国では毎年約1000万人の雇用機会を創出する必要があり、その目標を達成するには、最低でも8%成長が必要であるといわれていた。習近平政権になってから、経済成長率は著しく減速する局面に差し掛かっている。それを受けて、習近平政権は中国経済は従来の高成長から「中高成長」という「新常態」(ニューノーマル)になったと指摘されている。このような方針転換の背景には、少なくとも、2つの理由がある。一つは、世界で2番目の規模になった中国経済にとり、8%成長を維持することはできなくなった。もう一つは生産年齢人口が減少に転じているため、雇用の圧力がかつてほど強くなくなった。しかし、7%前後の成長を目標として、ポリシーメイカーたちは政策を策定し実行に移すが、図表3に示す通り、中国経済の減速は7%前後に止まらず、さらに6%近辺に下げている。実は、中国経済の課題は短期的な経済成長率を押し上げるよりも、国有度改革と経済政策ならびにエネルギー政策のトレンドなどを提案することである。加えて、1994年以降、毎年秋に「共産党中央経済工作会議」が開かれている。この経済工作会議は中国共産党中央委員会と国務院による共催で役割は短期的な経済情勢について討議し経済政策のトレンドを決定することである。現在、習近平国家主席は「中央財経領導小組」の組長を兼務している。そのほかに、習近平政権になってから、習近平国家主席自らを組長とする新たな「小組」が3つほど新設された(図表2参照)。具体的に、①「中央深化改革領導小組」、②「中央網絡安全と情報化領導小組」、③「中央軍事委員会深化国防と軍隊改革領導小組」である。これらの「小組」を設立した狙いは次の通りだ。①の「中央深化改革領導小組」は人事権の掌握、②の「中央網絡安全と情報化領導小組」はマスコミとインターネットの管理強化、③の「中央軍事委員会深化国防と軍隊改革領導小組」は人民解放軍に対する指導権の掌握である。この4つの小組の組長に就任したことから、習近平国家主席は共産党指導体制の核心的存在になったのである。中国の経済政策の決定4中国では、民主主義の選挙制度が導入されていないため、共産党はその統治体制の正当性を立証できないという欠陥がある。この欠陥を回避するために、最高実力者だった鄧小平は「発展こそこのうえない道理だ」(発展才是硬道理)と経済発展の重要性を繰り構造問題を解決しなければ国の安定は維持できない。図表2●習近平国家主席が「組長」を兼務する「領導小組」名称設立時期役割中央財経領導小組1980年財政、金融、エネルギーなど経済全般の制度改革と政策決定を司る中央深化改革領導小組2013年共産党組織と行政改革ならびに人事を決定する中央網絡安全と情報化領導小組2014年インターネットの管理体制と情報化政策を決定する中央軍事委員会深化国防と軍隊改革領導小組2014年国防戦略と人民解放軍組織改革を司る資料:中国共産党中央委員会注:中央財経領導小組は前政権からの継承以外、残りの2つはいずれも習近平政権になってから新しく設立されたものChinaWatch3


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