東京財団政策研究所 Review No.5

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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08業のルール違反行為に対するトランプ政権のいら立ちがあるのだ。長い間、中国政府は自中国の発展をpeacefulrise(平和的台頭)と主張してきた。中国から経済援助を受けている途上国はともかく、先進国および中国から経済援助を受けていない新興国は、果たして中国の発展が平和的台頭とみているのだろうか。この設問に答える必要はないが、この問題の本質を明らかにしておく必要がある。価値観の共有をなくして利益の共有はありえない習近平政権のグローバル戦略といえば、アメリカの覇権的地位に挑戦する意思はないとしながらも、人民に対して強国復権の夢を提唱している。その実、習近平政権は強国を目指しているのだということである。中国が強国になったとしても、アメリカの国益を脅かすことにならないという前提を、果たして論破できるのだろうか。習近平政権が強国を目指すならば、既存の覇権国家であるアメリカとり合わせする必要があると思われる。オバマ政権のときには、G2、すなわち米中が協力して世界をリードしていく構想が議論されていた。議論としては魅力的なものだったが、現実的に考えれば、イデオロギー的に真っ向から対立する二つの大国は価値観を共有できない。それをせずに、一体どのようにしてリーダーシップを共有するというのだろうか。目下の米中対立は、明らかに参加者のほとんどが負けるマイナスサムゲームである。そもそも「文明の衝突」という議論には、イデオロギーを含む価値観の違いが含まれている。国際協力といった場合、当然のことながら、利益の共有が重要である。しかし、価値観の共有をなくして、利益の共有はありえない。おそらくこれまでの40年間、アメリカは中国との価値観の共有を期待しながら、中国社会と中国経済の国際化に協力してきた。しかしトランプ政権以降、米中関係の最大の変化は、米国の保守系の政治家や評論家だけでなく幅広い人々が、中国経済が発展しても、アメリカとの価値観の共有は期待できないとみるようになった。この点は米中の対立が長期化すると予想されるゆえんである。先進国に比べて緩いルールの適用を許してもらった。しかしトランプ米大統領は、WTOが果たす役割について失望感を表明している。なぜなら、トランプ大統領の目には、途上国のステータス付与が恣意的になっていると映っているからだ。虎視眈々と狙う国際社会のルール変更一方、中国の立場からすれば、今の国際社会の種々のルールはいずれも先進国によって作られたものであり、新興国にとって不利であると主張している。そこで中国の狙いとしては、既存の国際ルールを自国にとって有利に作り直すことである。もっとも、中国一国で既存の国際ルールを作り直そうとしても、簡単にはできない。だからこそ、中国は東南アジアとアフリカ諸国を取り込み、近い将来チャレンジするルールの書き換えに備えているのだ。新たなルールは、新興国と途上国にもっと配慮するものでなければならないと中国は考えている。しかし、中国と国際社会の衝突は国家レベルのものだけとは限らない。中国企業は海外に進出しても、国際ルールに従おうとする意識は明らかに欠如している。先進国の多国籍企業において、コンプライアンス(遵法精神)を順守する意識はかなり定着しているが、中国企業においてはほとんどない。遵法精神の欠如こそ、中国企業が海外進出する際に直面する「文明の衝突」である。米中対立の背景には、中国企米中の価値観の共有をなくして、利益の共有はありえない。ChinaWatch4


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