東京財団政策研究所 Review No.5

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


>> P.10

10中国社会を一気にパニックに陥れた。習近平政権は中国国民に強国復権を提唱しているが、強い中国の夢を実現しようとすれば、中国政府の統治能力を強化しておかなければならない。公式統計によると、2019年の経済成長率は、すでに29年ぶりの低水準に落ち込んでしまった(図2参照)。実際の経済成長率はこの公式統計を大きく下回っているとみられている。ちなみに、2019年の自動車販売台数は前年比-8.2%だった。2019年の個人所得税税収も前年同期比-25.7%と大きく落ち込んでいる。マクロ経済の統計の関連性から中国経済が6%前後の成長を続けていると見るには明らかに無理がある。前述したように、中国共産党にとり経済成長は自らの統治の正統性を立証するよりどころである。経済成長率が大きく落ち込むことは深刻な社会不安を意味するものである。中国国家統計局は経済成長率を改ざんすることができるかもしれないが、経済成長の実態は芳しくないため、家計のバランスシートが大きく壊れる可能性がある。同時に、中央政府のバランスシートと地方政府のバランスシートは、すでに巨額の債務を抱えているため壊れかけている。このように冷静に分析すると、習近平政権は強い中国の夢を実現しようとする考えはともかく、その針路については、まさに分水嶺に立たされているといえる。本来ならば、まったく議論する余地のないことだが、統制された経済は持続して成長していけ企業グループにおいて資源を再配分する新たなassetallocation(戦略)を実施している。その結果、グローバルサプライチェーンが大きく変化していくと予想される。中国は世界の工場の役割を徐々に退き、世界の市場としての役割を果たしていくものと期待されている。しかし、世界の市場になるには、自由で透明性が高く、法による統治をされた市場であることが求められている。習近平政権はこれ以上中央集権と国民に対する監視を強化していくと、多国籍企業は中国でのビジネスをダウンサイズせざるを得ない。これからの10年間を展望すれば、きわめて不安定な時期になると考えられる。高度経済成長期の終焉と不安定期再来の予感2019年の年末から中国社会は突如として新型コロナウイルスの感染による大混乱に見舞われている。感染病の発生そのものについては病理学的な分析に委ねられるが、今回の新型コロナウイルス感染の対処法をみると、習近平政権の統治能力とリスク管理能力の弱さが如実に露呈してしまっている。まず指揮命令系統が予想以上に混乱し、新型コロナウイルスの感染は、あっという間に国内はもとより海外にも広がってしまった。また、地方政府の初動が遅れ、感染者情報を隠したことなどによって2020年、習近平政権を維持できるか正念場を迎える。ChinaWatch4


<< | < | > | >>