東京財団政策研究所 Review No.6

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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03ユース・リサイクルを促進することにつながる。ただし、ここには、開発による環境影響など、鉱物資源のサプライチェーンにおけるリスクの要因情報が整備されていないという課題がある。これまで鉱物資源の供給寸断が起きても、それが経済的要因で発生したのか、環境的要因なのか、または地勢的や社会的な要因からなのかといったデータが国際的に蓄積されておらず、データ解析ができる体制も十分には整っていないのだ。今後は、国際的な連携のもとにデータを蓄積し、共通認識を持って分析していくことが望まれる。鉱物資源リスクに対するこれまでの日本の対応鉱物資源リスクへの日本の対応事例としては、2010年9月の尖閣諸島沖漁船衝突事件に端を発した、中国による「レアアース」の実質的な輸出禁止(レアアースショック)がある(海洋政策研究財団、2011)。中国からの輸入が途絶えたことにより、経済産業省は、その対策として2010年10月に総額1,000億円の補正予算による「レアアース総合対策」を取りまとめた。ここでは、①中国以外の供給源の多元化、②レアアース使用量削減、代替技術の開発、③リサイクルの促進、などに取り組んでいる。レアアースショックは2014年、中国による輸出総量制限などの規制は協定違反とした判断がWTOによって下されたことにより終息を迎えているが、この間、「レアアース総合対策」による施策は、いずれも即効性のある効果を上げるには至っていない。例えば本田技研工業株式会社は、ジスプロシウムを一切使わないネオジム磁石をハイブリッド車用駆動モーター向けとして実用化したが、それはWTOによる判断が出た後の2016年になってからのことである。実態としてレアアースショックへの対処となったのは、そもそも材料として使う必要がなかった製品における需要削減や、通常であれば使用されることの無い「ネオジム磁石」製造工程内の研磨くずなどの再使用などである(田中ら、2016)。つまり効果を発したのは、在庫や企業内備蓄であったのだ。レアアースショックの際は、これらで凌ぐことができたが、もしWTOの判断が出ずに、供給不安定の期間が長引いていた場合は、企業内備蓄だけでは対処できない状況に陥る可能性もあった。数は単純計算で3000万台/年で、EVの車載用蓄電池に必要なコバルトは1年間で約297,000tが必要になる。コバルトの2015年世界生産量が約120,000t(JOGMEC、2016)であることを考えると、EVの普及により、近い将来、コバルトの需給不安定化を引き起こす可能性があるといえる。ジスプロシウムとコバルトの事例はあくまで単純計算による推計であるが、エネルギー転換は、様々な鉱物種において、“需給の不安定化”という鉱物資源リスクを引き起こしかねないのだ。需要増加によるサプライチェーンへの影響こうした鉱物資源の需要増加は、鉱物資源のサプライチェーンにも大きな影響を及ぼすことが考えられる。特にパリ協定が、気候変動という環境問題への対応を目的にしたものであることから、鉱物資源のサプライチェーンの中でも、その開発段階における環境影響という点には注視が必要になる。例えば、本稿著者の一人が、今後拡大していくEV、HV(HybridVehicle)、FCV(FuelCellVehicle)といった次世代自動車について、その製造に必要な鉱物資源の開発が及ぼす環境影響を、関与物質総量(TotalMaterialRequirement:TMR)で推計を行っている(松井ら、2018)。TMRは、採鉱時の天然資源フロー量(土砂などの隠れたフローを含む)を示すもので、直接的および間接的に投入される物質、隠れた物質フローの3つの要素から成り立ち、自然の改変量として、環境影響ポテンシャルを定量的に把握するための有力な指標である。このTMRを用いた評価では、従来のガソリンベースの内燃機関(GasolineVehicle)に比べて、EV、HV、FCVのTMRは2倍から3倍になっている。すなわち、必要資源の開発という点において、従来のガソリン自動車と比較して、省エネ・高効率機器の代表例であるEVをはじめとする次世代自動車は、ライフサイクルプロセスにおける消費段階の環境負荷削減には貢献するが、その一方で、採掘段階、製錬段階における負荷、とりわけ土地改変や水資源への影響といった環境撹乱を増大させることが予想されるのだ。今後のEV、HV、FCVの普及には留意が必要となる。エネルギー転換による鉱物資源の需要増大が見込まれる中では、こうした資源開発における環境影響リスクを正確に公表していくことが大切で、それが、資源使用量を可能な限り削減する技術の開発や、リエネルギー転換は、設備導入量と資源使用量の増加を引き起こす。


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