東京財団政策研究所 No. 7

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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10基幹部品製造と戦略物資生産は中国以外の国で展開することは考えにくい。ここでグローバルサプライチェーンの新たな形について、二つのポイントを指摘しておきたい。一つは、キーコンポーネント(基幹部品)の製造を中国に集中させる現体制を改め、東南アジアやインドなどへ分散させることである。特に米中貿易戦争が長期化するなかで、キーコンポーネント生産ラインを分散化させることは、経営的な合理性が認められるといえる。インドやベトナムにおける「生産コスト」と「物流インフラ整備」などは、中国に匹敵するほど改善されつつあるのだ。もう一つは、主要国にとっての「戦略物資」生産を、中国に完全に依存するリスクについてである。今回の新型コロナウイルス危機では、あらためてそれを認識させられたはずである。戦略物資の生産は、いざというときに備えて、安定供給体制を維持しておく必要があり、そのためには、中国以外の国を念頭に、サプライチェーンの補完システムを新しく構築する必要がある。ただし、戦略物資をどのように定義し、指定するかは科学的に行われなければならない。例えば、医療用マスクは感染症のときには戦略物資になるが、普段はそれほど需要が多くないはずである。そのリスクを管理するもう一つの考えは、機械的に新しいサプライチェーンを構築する代わりに、通貨スワップ協定と同じように、グローバルな国際協定を結ぶことである。これは、あり得ることで、この点に関する現実的な検討は、新型コロナウイルス危機が終息したあと、あらためて真剣に行われるものと思われる。外国企業は、中国に集中させていた生産ラインを、中国国外に分散させていく可能性があるといわれている。例えば、上記に述べた優位性のなかでも「中国における人件費」という観点では、過去20年間、急速に上昇しているのだ。それによって低付加価値製造業の企業は、すでに中国以外の東南アジア諸国などへの移転をはじめている。とはいえ、高付加価値製造業はいまだに中国に集中しており、それらの企業では、ファクトリーオートメーション(FA=生産ラインの自動化)が進められている。国際協力銀行(JBIC)のアンケート調査では、中国に進出している日本企業の半分は、「中国ビジネスを拡大し、FAを進める」と答えている※注。ただしこの調査は、新型コロナ危機発生前に行われたものである。冷静に考えれば、新型コロナウイルス危機のような感染症が、中国以外のどの国で発生したとしても、それが世界的に広がった場合、サプライチェーンの寸断は免れることはできない。また感染症のようなケースでのリスク管理についても、個別企業としてできることは限られている。再び中国において、新型コロナウイルスと同じような感染症が発生・拡大した場合、中国が今回同様に情報を隠し、感染症対策も怠るとしたら、被害は今回と同じか、それを大きく上回るものになるだろう。しかしそれでは、中国にとって何のメリットもない。そのときにはまた、違った形の危機が起きることがあるかもしれないが、今回と同じような形での感染症危機が起き、中国の対処が大幅に遅れる●注…国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」2019年)ChinaWatch5


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