東京財団政策研究所 No. 8

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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04米中対立の3つのステージ1対立激化によるもっとも深刻な影響は、両国の信頼関係が完全に崩れてしまったことである。ただし、そもそも米中関係がここまで悪化したのは、中国がアメリカを知らなすぎるからともいえる。本来、中国の外国研究のなかで、アメリカ研究はもっとも力を入れられてきた領域である。しかし、中国は伝統的に諸外国に関する研究よりも自国の文化に関する「国学」研究に力を入れてきた。かつて、孫文の側近だった戴季陶は中国屈指の知日家として有名だが、1904年に日本に留学したとき、日本人による中国研究の凄さに感服させられたと自著に記している。さらに、「我が国の日本研究は実に浅薄なものである」とあきれている(『日本論』戴季陶著)。このような「内外の温度差」は、今もほとんど変わっていない。このことは、中国外交に混乱をもたらしている。米中対立を時系列で整理してみよう。トランプ政権が誕生した当初、中国政府のトランプ大統領に対する基本認識は「価値観よりも利益を重視するビジネスマン」であるとみられていた。したがって、トランプ政権に対する中国外交の初動は、利益外交というべきものだった。それに関する一つの実例は、トランプ大統領の娘・イヴァンカ氏のファッションブランドに中国政府がありえない短期間で営業許可を出したことだ。中国からすれば、アメリカと利益で結ばれれば、対立する可能性はほとんどなくなると思っていたのだ。今となっては、中国から見れば、トランプ大統領は間違いなく「気まぐれな大統領」である。2018年にトランプ大統領は突如として対中貿易赤字を理由に対中制裁関税を課した。これこそ、米中対立の第1ステージの幕開けだった。国際収支の観点から、貿易はできるだけ均衡していなければならないとされている。だが実際には、それぞれの国の産業構造と貯蓄・投資バランスが国際貿易に大きく影響することから、貿易不均衡は非貿易収支によって補われることが多い。それよりも問題なのは、貿易不均衡をもたらす原因として、産業構造と貯蓄・投資バランスに加え、商習慣が公正なものか不透明な点にある。米中貿易摩擦のきっかけは貿易不均衡だったが、本質的な原因は中国市場の不透明さと知財権侵害などにある。2001年、中国は世界貿易機関(WTO)に加盟したときに、市場の全面開放を約束したが、いまだに市場開放は不十分とみられている。「孫氏の兵法」には、「兵不厭詐」という計がある。これは、戦いにおいては偽りをいとわないという意味である。現在の国際社会では、このようなやり方こそ中国に対する信頼を破壊してしまっている。国際社会の基本は国際ルールを守ることである。結果的に、世界主要国のほとんどは中国を市場経済国と認定していない。アメリカ政府が中国との貿易不均衡について不満を漏らしたのは、実ははじめてのことではない。中国はその都度、アメリカの飛行機、自動車、農産物などの製品・商品を大量に購入してガス抜きするという「対策」をとってきた。トランプ政権に対しても、中国は今まで通りの「対策」を講じようとした。しかし、それはトランプ大統領には通用しなかった。実は、米中間の火種はそれだけではない。トランプ政権が仕掛けてきた米中対立の第2ステージは、中国とのハイテク技術の覇権争いだった。その代表格は、次世代インターネット通信網、通称5Gをめぐる覇権争いである。トランプ政権の言い分は、ファーウェイをはじめとする中国企業がインターネットの安全性を脅かす恐れがあるということであった。アメリカはハイテク技術に関して優位性をキープしているが、中国のインターネット企業はネットサービスの強化に専念し、データを集めることに長けている。もし、中国企業がハイテク技術についてアメリカを凌駕できれば、アメリカはインターネット関連産業における覇権を完全に失うことになる。トランプ政権が5G技術を握るファーウェイを叩き潰すだけでなく、テンセントやバイトダンス(動画投稿アプリ「TikTok」提供元)などのネットサービス企業の排除に乗り出しているのは、このためだ。そして、米中対立の第3ステージとして、貿易やハイテク技術をめぐる利益相反を背景とするものから、在外公館(総領事館)の閉鎖にまで発展してしまった。これこそ、米中対立が「新冷戦」といわれる最大貿易、5G技術、在外公館の閉鎖……。火種の絶えない米中両国ChinaWatch6


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