東京財団政策研究所 Review No.01

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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04政策研究所の所長として―理論的な視点で現実をとらえる伊藤あるセミナーで松山さんが話されたことで印象的なことがありました。欧州連合(EU)統合における中心と周辺(centerandperiphery)についてです。2つの仮説があって、1つは域内で貿易が進むので、賃金が安いポーランドやポルトガルなどの周辺が得をして、全体として収れん(convergence)が起こる。もう1つは、人や情報が自由に動く中では最適な資源が中心にいって、むしろ周辺は厳しくなる。理論をどう組み立てるかによってどちらも出てくるのだろうけれども、今まさにそういう問題が起こっている。欧州統合の重要な問題を突いています。シンクタンクの役割としてはそういうところがあると思うのです。調査結果を発信することも大事ですが、世の中に視点を提供する。例えば、日本の金融政策あるいはEU統合などの論点はどこにあるのか。理論的な視点をしっかり持っている中で現実をとらえることは重要です。松山先日、北京大学の新研究所設立イベントに出席しました。そこであるポーランドの経済学者がこういっていました。ポーランドはEUに統合されたことによって、経済成長を遂げた一方、欧州全体の経済産業構造の中の一つの歯車になってしまった。つまり、ドイツの下請けというかたちで雇用が増えて、経済成長したけれど、本当の意味での下請けになってしまい、才能のある技術者や企業家はドイツに移ってしまった。中所得国の罠(middle-incometrap)に陥る危険性があるということです。自分の理論的枠組みが頭の中にあると、いろいろな話を聞いても整理しやすい。伊藤そもそも、経済学の目的の一つはコミュニケーションです。ふだん同じ土壌で考えているから、より早く、深くいろいろなことが議論できる。国際的に活躍されている松山さんには、所長ご就任を機にぜひ海外での議論を日本に伝えてもらいたい。3カ月ほど前に出席したモロッコでのフランス主催の会議で、ジャンクロード・トリシェ(前欧州中央銀行[ECB]総裁)と、アショカ・モディ(元国際通貨基金[IMF]、現プリンストン大学客員教授)が登壇しました。モ小林彼は実証研究ではないのですか。理論もなさっていたのですか。松山政策提言で有名ですが、理論立てて物を考えます。まず理論があって、それをどれだけ現実に適用できるかを試すのではなく、現実の問題にあわせて、どういう理論がふさわしいかを考えるタイプです。伊藤サックス夫人は医師だそうです。病気を治すには理論が大事。病状にあわせて必要な措置をしないといけない、とあるセミナーで話していたのを覚えています。まさにそういうことですよね。松山彼は理論を理解した上で違った角度から、政策に落とし込んだときに考えなくてはいけないこと、自分では気づかないようなことを助言してくれました。私は理論が専門ですが、イントロダクションでは幅広い人が興味を持ってくれるように問題提起するようにしています。それができているとしたら、サックスのおかげです。松山公紀/まつやまきみのり東京財団政策研究所所長/ノースウエスタン大学経済学部教授1980年東京大学教養学部国際関係学科卒業。1987年ハーバード大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。同年ノースウエスタン大学経済学部助教授、1991年同准教授、1995年より同教授。2018年12月より東京財団政策研究所所長。現在、EconometricSociety終身フェローのほか、CentreforEconomicPolicyResearch(CEPR)リサーチフェローを務める。これまでにマサチューセッツ工科大学(MIT)客員教授、シカゴ大学客員准教授、スタンフォード大学フーバー研究所客員フェローを歴任。日本は課題先進国。日本での議論を海外へ発信していく。―松山特別対談


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