東京財団政策研究所 Review No.01

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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06境にある人との間に結構大きな断層があって、これまでのように楽観論を広げていけばいいわけではないように感じています。松山コミュニケーションは一方向ではまずい。一般の人に経済学の見地から丁寧に説明するとともに、民間の実際に現場をみている人たちの意見を聞いて、それを自分たちの経済理論の枠組みの中に取り入れていくことも大事です。そこには学者が気づいていない貴重なレッスンがあるかもしれない。そういう面でサックスは上手ですが、最も素晴らしいのはポール・クルーグマン(元MIT教授、現ニューヨーク市立大学大学院センター教授)です。以前は新古典派の貿易理論で貿易の利益を訴え続けていた。しかし、現場からすると、理論の世界と乖離があるという。そこでクルーグマンは現場の意見をうまく取り入れて理論に組み込み、実務に近い人たちにも説得力をもって説明できるようになったのです。伊藤シンクタンクは一般大衆や社会、政策コミュニティに発信するだけでなく、アカデミアに発信してアカデミアを再教育する面も必要かもしれませんね。たしかに、クルーグマンの論文などを読んでいると、はっとさせられることがあります。小林日本でもデフレと高齢化についての論争がありました。日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏が「デフレは高齢化に伴う生産年齢人口の減少という人口動態が主因である」と主張すると、経済学者から人口とデフレはなんの関係もないと批判されました。しかし、ガウティ・エガートソン(ブラウン大学教授)らが2014年に発表した論文“AModelofSecularStagnation”(長期的停滞のモデル)によると、ケインジアン的なモデルですが、人口増加率が落ちるとデフレ傾向が強まることが簡単なロジックで理論化されている。標準理論だと「そんなことはありえない」とみんなが思っていることが、実はその通りだったということもある。松山実際、クルーグマンが2008年にノーベル経済学賞受賞講演で述べています。「現実を知っている人たちのいっていることに耳を傾けよ。そこに学者にとって役に立つ新しいアイディアが隠れているかもしれない」と。当研究所が学界と現場を知っている人との接点になればいいですね。ジャーナリズムとじっくり腰を落ち着けて研究するアカデミアの中間的な側面を持ちます。そのときどきの重要なテーマや問題に対して的確な専門的な発信ができるかどうか。ベストなのは、誰も気づいていない重要な問題を提起することです。一方で、ジャーナリズムだけではなく政府を含めた社会との接点を持つと同時に、一定の距離を置きながら、アカデミアの人たちと組んでいくことが重要です。小林経済学上の問題の中でも、特に金融政策、消費税の問題などは、ジャーナリズムをはじめ一般社会の認識と、アカデミアの世界の認識にずれが生じています。伊藤通商問題もそうです。小林まさにトランプ現象のようなことが世間では起こりがちです。それに対しては、シンクタンクがアカデミアのある意味正しい議論をかみ砕いて一般にわかるようにしていくことをコツコツやっていくしかないのか……。松山そうですね。伊藤これまでは「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の動きが一部にあっても、能力の高いジャーナリストや政府の役人、場合によっては経済学を勉強している学生などを通じて議論を少しずつ広げていくことが結果的には社会全体に広がっていく、というある種の楽観論をわれわれは持っていたわけです。だから、激しい反対にあっても農業の自由化などについて一所懸命発信してきた。しかし、トランプ現象のようなものを目にすると、大衆層とある種の知的環現場には学者が気づいていない貴重なレッスンがあるかもしれない特別対談


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