東京財団政策研究所 Review No.01

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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07う考え方が主流でした。それに対して、英経済学者ジョン・メイナード・ケインズはピーターパンの「ネバーランド」に譬えて「古典派の世界はネバーランドのようにどこか遠くにある夢のような存在である。現実は短期の連続である。目の前の問題に対して大胆な政策が必要だ」と指摘しました。最近のいわゆるリフレ派の人たちの議論は、貨幣を増やせば物価が上昇する、つまり金融政策で物価の変動をコントロールできるというものです。ひょっとしたら、ネバーランドでは正しいのかも経済学理論の最近の潮流小林今、日本が直面する課題として、高齢化とデフレにある中でどう金融政策を行っていくかということがあります。昨年末の当研究所主催の座談会(巻末コラムを参照)で、斎藤誠一橋大学教授は「答えのない難問」と指摘されましたし、経済学的にも答えがみえてこない。こうした問題についてはどうアプローチしたらよいのでしょうか。松山経済学の枠組み自体を変えていくしかないでしょう。最近のマクロ経済学理論に、ハンク(HeterogeneousAgentNewKeynesianModels:HANK)があります。年齢構造や貧富の差などを考慮して組み立てる理論です。特に、年齢構造は非常に重要です。例えば、40代は住宅ローンや子どもの教育への支出、60代になると自分の健康への支出が中心になる。状況が異なるわけです。以前は年齢の分布をはじめとするさまざまな条件を考えてモデルを解こうとしても無理があったのですが、コンピュータの進化により、今、それが可能になりました。そういう方に研究が進んできていることは事実です。伊藤そうした学問の新しい領域を取り入れることは大事です。一方で、学生のときに経済学の古典で学んだことが、今になって重要な意味を持っていることに気づかされることもあります。例えば、学生の時にデフレや流動性の罠を勉強したときには、自分の一生の中でこんなことが起こるとは思わなかった。けれども、実際に起きた。そこでまたもう一回考え直す、というように。外部媒体(2018年10月21日付「日経ヴェリタス」)にも書きましたが、古典派経済学では、物価はいずれ調整されるので、市場の調整機能に委ねるべきだとい経済学はどこへ向かうのか「やってみなければわからない」そこが面白い伊藤元重/いとうもとしげ東京財団政策研究所評議員/学習院大学教授、東京大学名誉教授1974年東京大学経済学部経済学科卒業、1978年ロチェスター大学大学院経済学研究科博士課程修了、1979年Ph.D.(ロチェスター大学)取得。1982年4月東京大学経済学部助教授、1993年同教授、1996年同大学院経済学研究科教授などを歴任し、2016年より学習院大学教授。この間、2006〜14年総合研究開発機構(NIRA)理事長。税制調査会委員、経済財政諮問会議議員など多くの要職を務める。著書に『伊藤元重が警告する日本の未来』伊藤元重が語るTPPの真実』ほか多数。経済学の古典が今、重要な意味を持つことも。―伊藤


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