東京財団政策研究所 Review No.01

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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08題がありすぎて、どれから取り掛かるべきかを決めるのに困っている。ですから、優先順位を決めさせてもらう上でも、現場の人たちと話をすることは重要です。小林2008年9月のリーマンショック直後は、今の新古典派の「合理的期待」の枠組みに対して疑念が持たれましたが、その後、今の枠組み内で工夫する方向できている。それでいいのか。根本的な枠組みの変更、あるいは拡張を考えたら面白いのではないかと思うのですが、こうした経済学の大きな方向性についてはいかがお考えでしょうか。松山経済学者は大勢いるのですから、みんなそれぞれに試してみるということです。学術研究はやってみないとわからない。そこが面白いところです。伊藤おそらくすべての現象を説明できる唯一のモデルはない。ロバート・ルーカス(シカゴ大学教授)の合理的期待形成仮説は重要な意味を持ちます。しかし、それでリーマンショックを説明できるかというと、できない。最初のサックスの「現実に理論をあてはめる」話につながりますが、それに合う物を持ってくる必要があるし、あるいはそれがなければつくっていくということでしょう。小林病状にあわせて、どの理論が使えるものかを選びながらやっていくということですね。伊藤最近、行動経済学が話題になっています。現実に即している面があり、ビジネスの世界などでとても反応がいい。それが学問体系全体の中でどの程度正しいのかはよくわからないけれど、フィットするところはあるわけです。経済学が貢献できる分野は幅広い小林ビジネスの世界では情報サービス産業の企業がデータを集めて顧客行動の理解や予測・ターゲティングに利用しています。これはミクロ経済学と行動経済学の融合分野です。こうしたビッグデータの分析から、学問へのフィードバックがあるかもしれません。伊藤ある本で、グーグル翻訳の機能がなぜ飛躍的に発達したのかが紹介されていました。人工知能(AI)が発達したことにより、それまで専門家が扱っしれない。だけど現実は、市場の調整が進むまでに5年以上かかり、そこまでにさまざまな不都合が起こる。金融政策の運営は短期的な対応の繰り返しで、しかし長期的な方向性をみる必要がある。そういう視点をみんなが持っていると、議論が変わってくるかもしれません。小林先ほどのハンクは最新のモデルではあるのですが、その理論には、新古典派ではほとんど顧みられてこなかった、有効需要の原理などケインズの直観を再考しようという発想が入っているように思います。19〜20世紀はじめにいわれていたことが、今、理論的に扱えるようになってきたということかもしれません。松山経済学は日々発展するものです。発展させるのが経済学者の仕事です。問題はどういう方向に発展させていくかの選択です。大学院生からしばしば「何か面白い経済学上の問題はないですか」と質問を受けるのですが、私からすると経済学には面白い問小林慶一郎/こばやしけいいちろう東京財団政策研究所研究主幹/慶應義塾大学教授1991年東京大学大学院工学修士課程修了、1998年Ph.D.(シカゴ大学)取得。経済産業省、経済産業研究所、一橋大学経済研究所などを経て、2013年より慶應義塾大学経済学部教授。2018年より東京財団政策研究所研究主幹。専門はマクロ経済学、金融危機、経済思想など。2001年日経・経済図書文化賞(『日本経済の罠』)、2002年大佛次郎論壇賞奨励賞(『日本経済の罠』)受賞。著書に『財政破綻後危機のシナリオ分析』(編著)、『財政と民主主義ポピュリズムは債務危機への道か』(共著)など。根本的な理論的枠組みの変更、あるいは拡張を考えては。―小林特別対談


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