東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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04利するものであり、中国がいかなる外国とも軍事衝突を望んでいないということだった。この平和的台頭のコンセプトは最高実力者だった鄧小平によって提起された韜光養を踏襲したものとされている。韜光養とは実力を覆い隠し、時期を待つことという意味といわれている。鄧小平のこの言葉は中国の外交政策の神髄とされているが、問題となるいつまで実力、すなわち国力を覆い隠すか、そして、待つ時期(タイミング)をどのように判断するかについては、指導者個人の主観的な判断によるものになりがちである。鄧小平の世代は戦争をよく知る世代だった。そのうえ、彼本人は毛沢東時代において繰り返し迫害を受けた人生を送ってきた。言い換えれば、鄧小平の人生そのものが韜光養の人生だったといえる。江沢民元国家主席と胡錦濤前国家主席は戦争こそ経験していないが、毛沢東時代の文化大革命(1966-76年)の残忍さを十分に分かっているはずである。問題は習近平指導部のほとんどが文化大革命のとき、毛沢東思想教育を受けた元紅衛兵であることだ。元紅衛兵は毛沢東が引き起こした政治キャンペーンの被害者であると同時に、加害者でもある。彼らは造反有理の信条を信奉し、権力を崇拝する傾向が強い。とくに、現在60代後半の習近平世代は中等教育を終えないまま、毛沢東の号令によって農村へと下放されてしまった。習近平国家主席自身も、副総理だった父親が文化大革命のとき追放されたのを受けて、貧しい西北の陝西省の農村に下放された。その後、推薦で「工農兵学員」*4として清華大学に進学したが、正規の教育を受けていないといわれている*5。客観的にみれば、向こう数世代の指導者は、いずれも元紅衛兵になる可能性が高い。この歴史的な偶然性と重なって、中国では民主主義、自由と人権に関ナポレオン曰く、中国は眠れる獅子のようなものである。中国が目覚めれば、世界を震撼させるだろうといわれている。今の中国は目覚めた獅子というよりも、暴れる巨竜―。アメリカをはじめとする先進国はそうみているはずである。米国外交問題評議会RichardHaass会長はForeignA(cid:31)airsに寄稿した論文で、戦後の秩序は衰退から終焉へと向かっており、秩序の劣化をきちんと管理しないといけないと警鐘を鳴らしている*2。Haass会長が提起したこのテーマこそ、中国問題の難しさを言い当てている。おそらく長い間、ワシントンは中国のことをリスクとみなしておらず、不安要因の一つに過ぎなかった。1997年のアジア通貨危機のとき、人民元を除くほぼすべてのアジア通貨が大きく切り下がったが、中国政府は人民元安を容認しなかった。そして、2009年のリーマンショックをきっかけとする金融危機により、国際経済は深刻なリスクに晒されるなか、ピッツバーグで開かれたG20サミットに参加した胡錦濤国家主席(当時)は突然、4兆元(当時の為替レートでは約56兆円相当)の財政出動を宣言した。このサプライズこそ、中国は責任のある大国であることを演出したのだった。では、中国はいつから責任のある大国からトラブルのもとになったのだろうか。拙稿では国際社会で注目されているチャイナリスクをその制度的な要因から分析を試みることにする。政治改革の停滞と経済自由化の後退1中国では、自らの発展をpeacefulrise(平和的台頭)と性格付けている。このコンセプトを最初に発案したのは、胡錦濤政権時代の中国共産党大学校・必堅校長だったといわれている*3。胡錦濤国家主席(当時)によると、平和的台頭は中国の発展が世界の発展に中国はなぜトラブルメーカーになったのか?チャイナリスクを生み出す5つの制度要因を全解剖中国社会の空気は文化大革命時代に逆戻りしている。ChinaWatch2


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