東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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05のだった。中国は中国自身の道を歩み、先進国の期待通りにはなっていない。中国外交にみられる変化2中国の外交政策の基本的な枠組みは、毛沢東時代に提起された三つの世界である。それによると、アメリカとソ連(当時)は第1世界であり、中国などの発展途上国は第3世界である。それ以外の「中間派」、たとえば、日本、オーストラリア、カナダなどは第2世界である。現在、中国の一人当たりGDPはすでに9000ドルを超えているが(2018年)、中国共産党は依然として中国のことを発展途上国と定義している。三つの世界の枠組みが提起された背景には、1970年代当時、米ソの二つの超大国に板挟みにされ、中国共産党指導部の孤立感が日増しに強まったことがある。毛沢東は自らが執筆した論文「中国社会各階級の分析」において、「誰が我々の敵なのか、誰が我々の友なのか、この問題は革命におけるもっとも重要な問題である」と指摘している。要するに、当時、国内の経済建設が行き詰まった中国にとり、外交上の孤立感も強まり、その閉塞感を脱却するために、国際社会で一国でも多くの同盟国を作る必要があった。毛沢東の三つの世界理論が世界に対して発表されたのは、1974年の国連大会で鄧小平によって行われた演説のなかだった。振り返れば、当時、中ソ関係が冷え切っていたため、米中が急接近した。米中が接近するきっかけは、ソ連(当時)の覇権を抑制するためだった。1970年代、する国民の啓蒙活動がほとんど行われていないため、中国社会の空気は文化大革命時代に逆戻りしているのではないかといわれている。元紅衛兵の指導者たちは、毛沢東時代を彷彿とさせるイデオロギー教育を強化している。2019年5月4日は、反帝国主義の「愛国五四運動」の100周年にあたる日だった。習近平国家主席は談話を発表し、若者に「愛党愛国」(共産党を愛し、国家を愛する)を呼びかけた。このコンテクストにおいては「共産党=国家」というロジックになっている。このように歴史的にみれば、中国の台頭は一貫してナショナリズムの高まりと相乗的に高まるムーブメントである。昔から欧米諸国において中国の台頭を警戒する動きがあった。中国の経済が発展して、国力が強化された場合、欧米諸国を敵視するナショナリズムが台頭するのではないかと心配されている。とくに、かつての欧米諸国による中国に対する侵略行為を清算しようとするナショナリストたちは世論の支持を得て、今後、欧米諸国と対立する可能性があるのは事実である。2019年4月、フランス・パリのノートルダム寺院が火事に見舞われ、歴史的な文化財の一部が焼失した。そのとき、中国のウェブサイトでは「それはかつて北京の円明園を略奪したフランス帝国主義者に対する天罰だ」との書き込みが少なからずあった。本来、ノートルダム寺院の火事と100年以上も前の列強の中国侵略行為とはまったく無関係のことだが、ナショナリストたちはむりやりそれを関連付けて、火に油を注ぐように愛国(ナショナリズム)のムーブメントをっているのである。ここでの暫定的な結論を述べよう。冷戦時代、欧米諸国にとり、中国はソ連(当時)の覇権を抑制するバランスの役割を果たすため、中国に対して経済協力を行ってきた。そのシンボルとして、2001年に中国は念願の世界貿易機関(WTO)加盟を果たした。アメリカを中心とする先進国の賛同がなければ、中国はWTOに加盟できなかっただろう。先進国が中国に経済協力を行った狙いとして、経済発展とともに、中国が徐々に民主化していく期待があったからである。しかし、アメリカとEUが毎年取りまとめる人権報告をみるかぎり、中国の人権状況は期待外れのも習近平国家主席は中華民族の偉大なる復興を目指す。


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