東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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07経済をけん引する新たなエンジンと期待されていたが、なぜ世界にとり脅威となったのだろうか。ナポレオンの予言が間違っていなければ、その根拠はどこにあったのだろうか。AngusMaddison氏の研究*8によると、中国は清王朝まで経済規模(GDP)世界一を維持していた。なぜ清王朝の末期、中華文明は成長力を失い減速したのだろうか。拙稿はこの設問に答える紙面上の余裕がないが、列強に侵されたのは清王朝が弱かったからなのか、それとも列強に侵されたから清王朝が弱くなったのか、という因果関係を明らかにする必要がある。一つの事実として、清王朝の末期、政権が腐敗し、同時に、鎖国政策により、西洋諸国で起きた産業革命の波に乗り遅れたのが体力を失った原因である。今の中国共産党幹部の腐敗は習近平政権1期目の反腐敗の「成果」からその一斑を窺うことができる(図2参照)。習近平政権の反腐敗キャンペーンは大きな「成果」をあげているようだが、問題はいかにして腐敗を防止するかにある。強国復権を目指すならば、国民に支持される清廉潔白の共産党組織を再生させなければならない。これほどに共産党幹部が腐敗したというのは各々のモラルの問題というよりも、共産党幹部に対するガバナンスを担う制度的枠組みが用意されていないからである。リスクを生み出す制度の脆弱性4鄧小平が進めた「改革・開放」は、石橋を叩いて渡るものといわれている。これは鄧小平本人のプラグマティズムによるところが大きいが、なぜ先進国の成功例をそのまま取り入れず、鄧小平はわざわざ石橋を叩くコストを払って「改革・開放」を進めたのだろうか。一つ目の理由は、共産党長老の間でアンチ資本主義の考えが根強くあったこと。二つ目の理由は、鄧小平自身に、資本主義先進国のやり方をそのまま取り入れると共産党統治体制を維持できなくなる心配があったことだ。要するに、「経済発展こそこの上ない理屈だ」と号令した鄧小平にとり、経済発展はあくまでも共産党統治体制を維持するためのツールに2018年、ワシントンの保守系シンクタンク、ハドソン研究所で、中国に宣戦布告するような演説を行ったペンス副大統領にも本書が強く影響を与えたといわれている。繰り返しになるが、本書の長所は分かりやすい描写であるが、短所は中国覇権戦略を過大評価しているところである。本の前半はCIAでの情報収集と分析の経験を踏まえ、コンパクトに書き上げて分かりやすかったが、後半は材料不足気味で中国覇権100年戦略との結論づけに無理があったといわざるを得ない。むろん、習近平国家主席が中国建国100周年を意識して、共産党統治基盤を固めているのは間違いないと思われる。そのために、習近平政権は内部統制を強化しているが、グローバル戦略は粗末なものといわざるを得ない。習近平政権の一番の弱点はその正当性を証明できないところである。だからこそ、習近平政権は自らの理論武装を行うために、習近平国家主席を「核心的な存在」と位置づけ、「習近平思想」を打ち出したのである。習近平政権の1期目(5年間)は政敵を粛清するための反腐敗に全力を尽くした。反腐敗で粛清された政敵には、元共産党中央委員会常務委員の周永康氏と元中央政治局委員・重慶市党書記の薄熙来氏が含まれている。しかし、権力基盤が十分に固まっていないなかで、いかにして世界覇権を実現するというのだろうか。中国の政治指導者は内政が行き詰まったとき、外交政策で点数を稼ごうとする傾向がある。習近平国家主席は自らへの求心力を強化するために、「中華民族の偉大なる復興」を呼びかけた。米国の中国研究の権威的な存在である米国外交問題評議会シニアフェローのElizabethC.Economy氏は習近平国家主席が主導する中華民族の復興を(cid:30)e(cid:30)irdRevolution(第3次革命)と定義している*7。中華民族の復興とは強国復権の夢である。これは明治時代の日本の富国強兵と殖産興業と同じ文脈で語られるはずである。問題は中華民族の復興が既存の国際社会のルールに則って行われるかどうかにある。習近平政権になってから、軍備の増強と海洋拡張戦略の強化により先進国を中心に中国の発展が脅威とみなされるようになった。中国の経済発展は世界習近平政権は国有企業を「より大きくより強く」している。


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