東京財団政策研究所 Review No.03

公益財団法人東京財団政策研究所のリーフレットです。非営利・独立の民間シンクタンクとして、外交・安全保障、経済・社会保障、環境・社会分野の政策提言・普及活動と、国内外で実施する各種人材育成プログラムを行っています。


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08に進出している外国企業には、共産党支部の設立が義務付けられている。習近平政権の基本的な考えは国有企業を「より大きくより強く」するということである。むろん、そもそもこれは自己矛盾の考えである。大きいものは強いものとは限らない。企業経営の基本はそのアセットの規模を最大化するのではなく、効率を最大化することである。共産党統治の強化は市場に対する縛りの強化となり、中国経済に内在する活力が強く抑制されている。したがって、目下、中国経済の減速は米中貿易戦争によるものだけでなく、共産党統治体制に起因するところが大きいといわざるを得ない。振り返れば、2012年11月に開かれた第18回共産党大会では、「市場メカニズムによる資源配分」が決議文章に盛り込まれていた。それを受けて、中国内外において習近平政権による市場経済改革に対する期待がさらに高まった。しかし、その後の習近平政権の政権運営をみると、市場経済を大きく逆戻りさせている。目下の米中貿易戦争でも問題になっている中国政府による国有企業への補助金は、習近平政権が国有企業を大きく強くするための目玉の措置である。GDPと雇用の創出にもっとも寄与している民営企業が所有制差別を受けている現状において、中国経済が減速するのはやむを得ない。そのうえで人件費が上昇しており、米中貿易戦争によりサプライチェーン(供給網)が再形成され、一部の外国企業は中国を離れていく可能性が高い。大胆に展望すれば、中国経済は高度成長期を終え、これから長期停滞期に突入する可能性が高い。社会矛盾の激化と社会の不安定化5これまでの40年間の「改革・開放」は、鄧小平の言葉を援用すれば「発展こそこの上ない理屈だ」といわれるように、経済成長を促進するいわゆる成長至上主義だった。政府共産党にとり経済成長こそ自らの統治の正当性の証左となっている。そのなかで、経済統計を粉飾するなど信ぴょう性の問題もあるが、経済規模が拡大し、中国人の生活レベルが向上したのは間違いない事実である。過ぎないということである。結局のところ、鄧小平が主導した「改革・開放」は共産党統治体制を維持する前提で部分的に経済の自由化を進めた。その目玉として民営企業の市場参入が認められたが、民営企業はあくまでも国有企業の補完的な存在に過ぎず、国有企業と公平に競争できない。前述したように、民営企業は市場参入や銀行から融資を受ける際など所有制差別を受けている。ある調査では、民営企業が設立されてから倒産するまでの平均寿命はわずか4年半といわれている。むろん、「改革・開放」当初、中国政府と有識者は共産党統治そのものが経済発展の妨げになっていることを認識していた。だからこそ、当初国営企業の経営を改善するために、政府機能と企業の経営機能を分離する「政企分離」の改革が試みられた。1998年に朱鎔基首相(当時)は、政府(主に地方政府)による国有企業経営への介入をなくすため、国有企業の所有制改革を試みた。その狙いは国有企業経営に対するガバナンスを強化することである。その結果、ほとんどの国有企業は株式会社になり、中小国有企業の多くは民営企業に払い下げられた。このまま行けば、国有企業の大半は民営化される可能性があった。しかし前述のように、胡錦濤政権は国有企業改革をさらに深化させなかった。それだけでなく、2009年に実施した4兆元の景気対策は「国進民退」をもたらした。胡錦濤政権の10年間は、中国国内でもlostdecade(失われた10年)といわれている。2012年、習近平政権になってから、共産党統治がさらに強化されている。一定規模の民営企業や中国所得分配の不平等を表すジニ係数は警戒レベルに達する。図2●習近平政権によって処分された腐敗幹部の人数の推移(2013-18年)0万人資料:中国共産党中央規律検査委員会2018年2016年2017年2015年2014年2013年70605040302010ChinaWatch2


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