タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2011/5/11

2011年4月12日 現代アメリカ研究会報告

報告者:島村力(拓殖大学海外事情研究所客員教授)
テーマ:OUTLINE OF THE TEA PARTY MOVEMENT
概略
本報告では、ティー・パーティ運動の概略について、その運動の始まりから次第に知名度と影響力を増大させていく過程を明らかにした後、中間選挙後における運動の評価やその後の動向などを詳細に論じた。

まず、ティー・パーティ運動が力をつけていく過程を明らかにする。この運動を紐解くと、1990年代にまで遡ることができる。当時、反税抗議集会のシンボルとしてボストン・ティー・パーティがしばしば利用されていたのである。その後、2007年12月16日には、共和党下院議員ロン・ポールが、大統領予備選挙資金調達パーティのシンボルとしてボストン・ティー・パーティの234年祭を行った。同時期には、全米の各地で、ローカルにティー・パーティ集会が行われており、主婦の反税闘争の場という側面もあった点は特徴的であろう。2009年2月20日になると、フェイスブックでティー・パーティ運動の専用サイトを立ち上げ、運動の全国化を目指したが、知名度はそこまで高くなかった。この運動が地名と度影響力を増した契機となったのは、2010年1月19日の、テッド・ケネディ死去に伴うマサチューセッツ上院補選であった。本命と目されていたコークリーをブラウンが52%-47%で破ったのである。同州は民主党の牙城で、1972以来共和党候補は当選しなかった。これにより共和党が41名となり、民主党の絶対多数が崩れたのである。2010年5月には、ランド・ポールが上院共和党予備選で現職候補を破るなど、運動はさらに知名度と影響力を増していった。最終的に中間選挙において、ティー・パーティ運動支持の候補者は138人いたが、当選者は44人だった。現時点での支持政治家は下院21名、上院16名、州知事16名である。かなりの程度、運動は影響力をもっていたと考えられるだろう。

こうしたティー・パーティ運動に対する評価には、様々な見解が見られ、定まっていない。民主党サイドは、抗議運動というよりも、反体制活動、ファン・クラブといった評価を下している。一方、共和党サイドは、この運動の抗議については同調するものの、1992年大統領選挙におけるロス・ペローのように共和党に敗北をもたらした保守的「第三党」運動になる危険を指摘する人も見られる。ただ、次の大統領選挙において、ティー・パーティ運動が第三政党になるとは考えにくい。第三政党というきちんとしたまとまりに成長することはありえないだろう。

報告者:細野豊樹(共立女子大学国際学部教授)
テーマ:ティー・パーティ運動はAstroturf説の検証-選挙と統治における影響力の評価-
本報告では、ティー・パーティ運動をグラス・ルーツではなく「人工芝(Astroturf)」だとする説を検証することで、この運動の、選挙と統治における影響力を分析した。

ティー・パーティ運動はグラス・ルーツによる運動だという論調が多いが、ティー・パーティー運動が盛り上げる局面で、民主党首脳はこの運動は人工芝だとするコメントを、メディアで発信した。2009年4月と2009年8月に下院議長ペロシが、また、2009年8月に上院のリード院内総務が、このような主張をしている。同月、ギブス報道官は「造られた怒り」だと強調している。オバマ大統領も、運動を操っている共和党関係者の団体について言及していた。

では、こうした彼ら民主党の人々の指摘にどれほど根拠があるのだろうか。実は、ティー・パーティ運動に共和党関係者が多数いたのである。フリーダム・ワークスのディック・アーミー元下院院内総務、ティー・パーティー・エクスプレスを組織した選挙コンサルタントのサール・ラッソー、グレン・ベックのショーを放映していたフォックス・ニュース・グループ会長ロジャー・エイルズリス元レーガン政権選挙参謀などである。また、運動を支援するリバタリアン系の実業家たちもいた。フリーダム・ワークスの前身であるシティズンズ・フォー・サウンド・エコノミー創設に資金提供した、コーク・インダストリーズは、その創業者がジョン・バーチ・ソサイエティ創設に関与していた。チャールズ(CEO)とデイビッドの兄弟が所有する『ニュー・ヨーカー』誌の報道によれば、現共同所有者のディビッド・コークは運動と密接な関係にあった。

次に、中間選挙における人工芝(Astroturf)の効果はどれほどのものだったのか。選挙結果を見る限り、投票率の低い予備選挙においては、現職候補を敗北に追い込むなど絶大な影響力を発揮したが、そうした候補が本選挙でも必ずしも勝ったわけではなく、本選挙においても強い影響力を持っていたとは言い難い。また、そもそも2010年は民主党が負けて当然の年であった。なぜなら、2010年は2006年と2008年における民主党大勝の反動と考えることができる(落選した民主党現職候補の特性を見る限り)し、大統領の政党は中間選挙で負けるという歴史的構造があるからである。 さらに、ワシントン・ポストの2010/10の調査によれば、この運動の団体のうち選挙活動をおこなったものは29%にすぎず、そのうち名簿に基づいた電話は45%であった。このようにティー・パーティ運動は、2004年大統領選挙のように全米で組織的な投票依頼活動を行える陣容とは言えないのである。

統治に対するティー・パーティ運動の効果はどれほどあったのだろうか。特に、温室効果ガスをめぐる政治において、この運動の影響力が見られた。タカ派の科学者グループと保守・リバタリアン系のアドボカシー・タンクとの間の連携が、コーク・インダストリーズとの接点となり、温室効果ガス規制に反対する強力な勢力となったのである。この点については、上記の『ニュー・ヨーカー』の記事以外に、環境保護団体グリーン・ピースのレポートがあり、アカデミックな研究ではアメリカの温暖化懐疑論全般に関する科学史の研究等がある。このように、ティー・パーティ運動は、選挙よりも統治に大きな影響力を及ぼしていると考えられる。 

質疑応答
Q:コークらは、アメリカン・フォー・プロスペリティを創設し、同時に、エリート層のお金持ちから資金を集めることを始めた。エリート層を束ねているという点でソロスとコークは似ていると言えないだろうか。
A:今までのお金持ちは保守が多かったが、左派の富豪(ITや金融)の集団が生まれつつあり、そういった人たちが民主党の組織として影響力を持ち始めているように思える。そういった意味で、似ているといえるだろう。

Q:日本にティー・パーティ運動をもちこもうとする動きについて。利益追求なのだろうか。アメリカでは、理念追求のように感じたが。
A:地球温暖化懐疑派のメディア・キャンペーンが日本にも広がったことと、関連する可能性をも考えるべきと思うが、証明は難しい。
コメント:ローカルな人たちにインタビューしたところ、個人的な意見として、イデオロギーとしてこの運動の理念を他国(日本なども)にも広めたいと言う考えをもっているようだった。運動の退潮という面は強いのは確かだが、運動支持者の熱意はまだ消えていないように思える。

Q:結局、ティー・パーティ運動は上からねつ造された運動なのか。
A:初めは違ったが、それを共和党の人たちが利用した運動。そういう意味での、人工芝だと論じた。怒りをもっているが、何をしたらいいかわからない人たちに、方向性を与え、組織化したものがこの運動だろう。なぜ今こうした運動が生じたかと言うと、やはりインターネットの影響が大きいように思われる。

Q:?アメリカの運動には象徴的な人がいて盛り上がる運動が多い。マッカーシズム、ヒューイ・ロングなど。だが、今回はそういう人がいない。時流にのる政治家はどの時代でもいるが、この運動ではいまいちだった。その点についてどのように考えているのか。?また、この運動の支持者が議会入りしたのち、予算でシャットダウンを避けるために妥協したことはどのように評価できるか。
A:?ポピュリズムには絶対、指導者がいた。ただ、運動には「ラベル」が重要。それは島村先生ご指摘の「ティー・パーティ」という言葉の力だろう。?削減額が一兆から4000億になった。こうした運動には成功体験が必要で、この運動の弱体化の原因になりうる。また失業率が下がりつつあるので、運動のピークは過ぎたという印象が強い。

Q:コーク・ブラザーズは昔から活動しており、昔から批判されている。民主党の危機感から生まれた批判なのだろうか。
A:『ニュー・ヨーカー』の記事は2009年8月であり、またデータベース検索でそれ以前のコークに関するメディア報道は少ない。注目度が高まったのはティー・パーティー運動がらみと言えよう。

Q:運動がなくても民主党は大敗した、という指摘について。この運動は選挙に関してどういった役割を果たしたということになるのか。
A:投票率を上げることに寄与したという主張もあるが、保守の投票率があがったという現象は94年にも見られた。期が熟すと白人保守層が盛り上がる傾向があるので、それはティー・パーティ運動があっても無くても同じだと考える。
コメント:共和党の性格をよりリバタリアンへと変えていくという役割を果たしたという点が、この運動が果たした大きな役割といえるだろう。もともと2010年に民主党が敗北するのは予期できていた、という指摘は正しい。

Q:地理的に運動支持者は南部に多い。なぜか。
A:リバタリアン的な思想が最も適する保守が、南部に多い。また、黒人大統領に対する反発が根強いのは人種問題に敏感な南部。

Q:『ワシントン・ポスト』によるティーパーティー団体の選挙運動のアンケート調査では、地域性が見られない。この点についてどう考えるか。
A:印象とご指摘のデータとの間にたしかに差異がある。どう解釈するか今後の研究課題である。

Q:経済がよくなったらこの運動は消えるのだろうか。
A:不満の源泉は高い失業率。ただ、すぐに一気に下がるというわけではない。

Q:無党派の支持者が多い点について。
A:無党派はリバタリアン的な傾向がある人が多い。ティ・パーティは共和党寄りが多いだろう。

Q:ティー・パーティ運動で、なぜ社会争点が議論されないのか。
A:中絶問題を扱うことで共和党が分裂してしまう可能性があるため、前面に出していない。

■報告:石川葉菜(東京大学大学院法学政治学研究科博士課程)