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2011年5月26日 現代アメリカ研究会報告

June 27, 2011

2011年5月26日に現代アメリカ研究会(外交安全保障チーム)の第1回研究会が開催されました。今回は、本チームのリーダーである高畑昭男氏(産経新聞編集委員兼論説委員)に『米中戦略・経済対話(SED)と米中関係』について報告していただきました。

概要

本報告では、米中戦略・経済対話(SED)の変遷、及び、どういう結果が得られたのかについて論じながら、米中関係全般についての現状を明らかにした。

SED第一回(2009年7月)においては、アメリカは軍事力・経済力などの面で相対的に中国に対する十分なカードを擁していたとはいえず、また就任したばかりのオバマ政権は「前向きで建設的で包括的な関係を構築する」(オバマ大統領)などと、中国との建設的な対話と協調の可能性に大きな期待を抱いていた。しかしながら、こうした期待感に反して、結果的に成果は少なかったといわざるを得ない。「期待と同床異夢の始まり」が第一回の特徴だったといえる。

第二回(2010年5月)は、台湾武器売却、北朝鮮による韓国哨戒艦撃沈事件、人民元改革問題などを通じて相互不信が高まった中での「失望と不信」の対話であった。
こうした不信と潜在的な対立点の増加を踏まえて、第三回(2011年5月)は、いわば「相違と対立の管理のため」の対話であったと総括できるのではないか。

2011年1月14日、ゲーツ国防長官が「中国の軍部と文民指導部との間に意思疎通の欠如がある」(東京での記者会見)と、文民統制に対する懸念を指摘しているように、文民統制に不安を覚えたアメリカは、「誤解・誤算がもたらす危険リスクを回避し、信頼を構築する」(クリントン国務長官)ために、今回(第三)のSEDにおいて、軍民高官による戦略安全保障対話(SSD)を新たに発足させた。このことは注目に値する。また、同じく新設が決まり、年内開催が予定される「アジア太平洋協議」も、日本にとって、また日米関係にとっても大変重要なものになるとみられる。

なぜなら、この協議の創設でうたわれた「アジア太平洋の平和、安定、繁栄維持を共通目標とし、米中が広範な利害を共有することを認識して」という表現は、これまでアジア太平洋の秩序の主軸とされている日米同盟に関して主として使われてきたものだからである。

一方では、東日本大震災や、それ以前の民主党政権下の普天間問題迷走などによって日米同盟の空洞化が進み、日本外交の存在感が極度に低下している。そうした情勢下で、いわば日米同盟の大義ともいうべきものが米中関係の新たな協議枠組みにも用いられることになれば、同盟国日本の位置づけや存在感が低くなるような懸念もなしとしないと思われるからである。日本不在のままで、アジア太平洋における米中関係が進展していく懸念がある。

この協議がいつ、どのような陣容で開催され、また日本がどのような形で関わっていくことができるのかどうかが、日本外交と日米同盟にとって今後の重要な関心事となるだろう。

最後に、今回のSED前の4月には、米中人権対話も行われたものの、対話終了直後に中国の人権活動家がこれ見よがしに当局に拘束されるなど、人権対話は見るべき成果はなかった。というよりも、「人権対話には一切拘束されない」という中国の挑戦的姿勢が強調されたというべきかもしれない。

これ以外にも、アメリカは様々な対話の開催(女性指導者交流対話、下部対話(政策企画、アフリカ、中南米など))を仕掛け、対話攻勢を強めたのが特徴的だったが、これは裏を返せば、米中両国の潜在的対立点がグローバルな規模で拡大し、深化しつつあるということでもあろう。

全体評価については、一回目はオバマ政権が米中協力に過剰に甘い期待をかけ、南シナ海などの海洋権益拡大と覇権的行動の容認を意味することになるところの「核心的利益の相互尊重」に乗せられ、さらには気候変動や人権問題などでも裏切られる結果になったといえる。新設のSSDや「アジア太平洋協議」も互いの行動を強制的に縛る機能はなく、双方が目指す方向にも変化がなく、「同床異夢」の状態が継続していることになる。また1回目の米側議題(核不拡散、ミサイル防衛、サイバー安保、宇宙軍事利用)にみられるように、米中の対立するテーマは多い。

今後の米中関係については、三つほど重要な要素を指摘できる。第一に、米中の経済的相互依存関係である。米中は互いに第二の貿易相手国である上に、中国の米国債保有高は2年間で3割強も増加した。現在は米債務総額の1割近くに相当している。貿易、投資、金融などの利害を考えると、双方ともに「船を揺らすのは危険だ」という認識を共有しているといえよう。

第二に、対立分野・地域の拡大とグローバル化の進展が指摘できる。たとえばビンラディン殺害の結果、パキスタンと米国の関係が悪化したことを受けて、中国がパキスタンに接近を強めた。こうした中国の動きにインドは警戒感を強め、今後さらに緊張が高まる可能性がある。こうした例は今後も生じる可能性が十分にある。

今後の米中関係について重要な三つ目の要素として、2012年にかけてアメリカは大統領選、中国は政権交代の時期にあたることが指摘できる。オバマは今年秋から本格的に再選の季節に入ると同時に、アフガンやイラクを抱えている。一方の中国は、指導者交代の時期で経済成長を維持したいため、いずれの側も衝突を好まないと考えられる。そうしたことから、米中両国は対立のエスカレートを回避する「対立管理」・「紛争管理」モードに入ったという印象である(国際関係論でいうconflict managementとは少し違う)。

ただし、中国は着々と軍事、政治、経済面での権益拡大行動を展開し、その結果、対立範囲がグローバル化している。つまり米国は、「対話縛り」、すなわち数多くの対話や多国間枠組み協議などをできるだけ網の目状に張り巡らせることによって中国の行動の抑制を狙っている。しかし、そうした対話の効果は疑問であり、あるいは限定的といわざるを得ないし、またアメリカが擁するカードもそう多くはない。現在のところ最大の懸念事項は、中国軍とその行動である。中国軍が文民によって正しく統制されているのか?ということに対する疑義が強まってきている。

質疑応答

コメント:2009年9月にスタインバーグ国務副長官は戦略的(再)保証(Strategic Reassurance)をせせら笑われたが、オバマ政権の失敗はここにあるように思える。今年1月、胡錦濤が訪米してようやく失地回復した。結局、人材・アイデアがないまま、ずっと引きずっているだろう。

コメント:2000年のときのブッシュはネオコン的な対米観を基本としており、中国は「戦略的ライバル」であると言う認識であった。ブッシュは当初、その姿勢でいこうとしたが、9/11同時多発テロなどを経て、現実的な対応を取り入れていくようになった。逆にオバマ政権は、「G2」型の米中協力が可能だと考えたり、期待したりしていたが、現実には修正が必要だということになった。双方ともにスタートは正反対だが、結果としてどちらも失敗している点は一緒である。

冷戦期においては、ソ連の場合、単純に敵といえばよかった。しかし米ソ関係とは異なり、米中関係においては巨大な共通利益の存在があり、すぐさま軍事的な脅威だというわけではない。こうした挑戦にどのように対応すればよいのかというのがアメリカにとって経験のないことである。

これまでアメリカの対中外交政策は、次第に関与していけばよいというスタンスであったが、今は過去からかなり断絶しているといえる。

A:冷戦期はネオコンが武力を行使してでも中国の不適切な行動を抑えつけるという気構えをもっていたが、そういう人は現在いない。クリントン国務長官が初めて訪中した2009年には、「人権よりも経済」というようなことを言って、初めから人権問題をスキップしてしまったように、中国に足元を見られている側面が少なからずある。

Q:軍と軍の関係は、表向きは衝突を防ぐことだが、本当のところは、中国の文民と話しているだけでは中国の軍人にアメリカが何を考えているのかなどの意図が伝わらないため、中国軍人に意図を直接伝え、また逆に中国の軍がどのように考えているのかを知りたい、というのが核心だろう。

A:レーガンのときのソ連のように自国が今落ち目だと思っていたのと違い、中国、特に軍部は強気になっている。

コメント:レーガンのとき賢明だったのは、スター・ウォーズ計画などをやることで『ソ連を焦らせ、経済的に打撃を与えることができる』と考えて実行したこと。しかし今の中国には使えない。外から見る限り、アメリカは軍事費を削る方向に進んでいる。これは中国にとって喜ばしいことだと受け止めているだろう。

コメント:SSDについてだが、日米関係をアピールするような文書がレターとして在日米国大使館から配布された。内向きになるな、という日本へのメッセージだろう。

Q:中国の脅威の増大に対して、アメリカにとって韓国と日本の役割はより重要になっているが、日本はなかなかそこに気付いていないのでは?またベトナムやフィリピンもアメリカに近く、彼らも中国に対する脅威を感じている。昨年のASEANの地域フォーラムでもクリントンは積極的だった。

A:ただ、東南アジア諸国は中国を前にすると弱い。頼れるのは日本くらいか。

Q:アメリカの人事がかなり変わりそうである。ヒラリーが二期目はやらないとどこかでいっていた。対中専門家がいない中、どうなるか?

A:確かに、キャンベルもやめるというような記事(本人は言ってないが)もあった。知日派に対中政策をやってもらうという可能性はある。日本を知らないと、対中外交でいざというときに日本に頼れないだろう。

Q:2012年選挙があり、オバマは表向き、中国に厳しい対応を迫られる局面もあるように思えるが、どうだろうか?

A:人権問題について触れることはあるだろう。

Q:人権以外に、通商、通貨などについてはどうか?

A:アメリカは全般的に中国に足元を見られているような状況だ。対抗するカードも少ない。

Q:どの程度、相互確証破壊があるのか?金融面の相互確証破壊はあるだろうが。

A:中国とパキスタンの関係を見てみると、中国は積極的に対パ経済援助を人民元ベースで行っているなど、人民元の地域拡大を図っている面がある。直ちに人民元がドルにとって代わるというわけではもちろんないが、少しずつ人民元の国際化を狙って動いている印象がある。

コメント:スターリンがこれほど悪いとは思わなかった、というように、アメリカは人がいいところがある印象がある。

Q:アフガニスタンはもういいというのがアメリカの認識。無意味な占領をやろうとしているという認識。急速に撤退していく可能性がある。これについてどう思うか?

A:他に、カルザイに対するアメリカ側の不信もあるだろうと考えられる。

コメント:そういう意味では、アフガニスタンの重要性は減っており、かなりの規模の撤退はありうる。

Q:中国は2014年以降くらいまでは変わらないだろうという説と、2012年に指導者が変わって大きく変わるという説がある。どちらか。

A:明言することは非常に難しい

Q:中国は南シナや尖閣で暴れすぎたという認識がある。ただ、 文民と軍がどれほどその認識を共有しているかわからない。また今は、近隣諸国は中国を脅威に感じている。こうしたかい離をどう考えるか?

A:指導部は少しなだめようとするかもしれないが、軍を懐柔するには予算をつけないとならない。空母を建設させられれば、今度はそれを使って航海をさせたがる。つまるところ、軍を共産党指導部がきちんとコントロールできるのか、そして次代の指導者は強気に出られるのかという懸念はある。

コメント:だからこそ、より次代の指導者が軍への依存が進むという説がある。

A:夢のような、冗談のような話で恐縮だが、私個人の夢想では、もしも中国指導部がまともな存在になったならば、「米中共通の敵は人民解放軍」という図式になるのではないか。アメリカと中国政府(文民指導部)が連携して、人民解放軍の暴走を阻止するというような話になる。

コメント:中国の国防部長が10年目にして始めて会議にでてくる。その意味がいったい何なのか、議論になっている。軍が影響力を持つようになってきたのではという見方がある。最近、軍が表に出てきている。明らかに方針転換だろう。

コメント:ただし、これがいい方向に行くか悪い方向に行くかはまだわからないだろう。

Q:アメリカからすると、中国の軍備増強が妥協せずに進むことは、間違いないと考えているだろう。アメリカ側の中国観はネガティブなもので固まったのでは?

A:その通り。ペンタゴン側は以前からそのような認識で固まっているように思える。

コメント:クリントンはようやくその立場になってきたように思える。

コメント:台湾の国民党の人が、中国の指導部が参列している中で、台中の直行便が増加することで台湾の安全が確保される、と話し、中国の軍事的脅威について話をしなかった。台湾が中国に科をつくっている。

コメント:中国の軍拡に刺激され、アジアの大軍拡が進んでいる。インド、シンガポール、フィリピン、オーストラリア、日本。世界的にみても注目に値する。

Q:今回の地震で米軍がきて、あれだけの規模を米軍が展開し、日本を助けるということを示したが、中国はそれをどのようにみているのか?

A:1万8千人も動員してあれだけ対応したというのは、確かに中国にとっては驚きであるだろう。アジアでの被災者をどうやって救うかという緊急作戦シナリオを今回の事例に援用して適用したらしい。

コメント:米軍のハイテク能力が大きな睨みとなり、また自衛隊との協力も見られたことも、中国は脅威と映っただろう。

報告者:尖閣の時、クリントンが共同防衛の対象だと言っていたが、日本が手に負えないときに初めてアメリカがでてくる、というもの。また仮に漁船で来た場合、日本が独自に排除しなければならない。

コメント:漁民が難破したとして尖閣にきて、それを助けるために人民軍がやってきて上陸するという難破船シナリオが存在する。海自はそれを最も恐れている。

コメント:普天間について日米がぎくしゃくしていることが問題だろう。

■報告:石川葉菜(東京大学大学院法学政治学研究科博士課程)

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