タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/7/2

アメリカ大統領選挙UPDATE 6:オバマ大統領の同性愛結婚支持「」(飯山 雅史)

オバマ大統領は5月、現職の米国大統領として初めて、同性愛結婚支持の姿勢を打ち出した。これまでにも同性愛者の軍入隊問題や結婚擁護法など、宗教的争点でリベラル姿勢を強めてきた同大統領だが、焦点である同性愛結婚を明確に認めたことで、2012年大統領選挙を宗教的リベラルの立場から戦う姿勢を鮮明にしたと言えるだろう。オバマ戦略は、宗教保守票の奪還を目指して2000年代後半から続けられてきた民主党の宗教的穏健派路線を軌道修正し、伝統的なリベラル派への回帰を示したものなのだろうか。

オバマ戦略は、同性愛結婚の容認世論が短期間に急上昇したことを背景にした、政治的決断であることは間違いないだろう。2004年に、同性愛結婚を支持した米国民は22%にすぎない。これに対して、「婚姻と同じ権利を容認すべきだが正式な結婚合法化は反対」という中間派は33%で、すべての同性愛結婚反対派が40%だった。中間派と反対派を合計すると、「結婚」合法化には73%もの反対があったのである。同性愛結婚が焦点の一つとなった同年大統領選挙では、大量の宗教保守票がブッシュ大統領に流れて“福音派の勝利”とまで言われたのは、記憶に新しい。

しかし、わずか8年後の2012年には、賛成派が38%で16ポイントも増加した。一方、中間派は24%、反対派は33%に減少し、世論の潮流が同性婚容認に流れているのは明白である*1 。現在、米国民の7割は同性愛をオープンにする家族や友人を持っているとされ、同性愛への理解と、彼らの境遇に対する同情が広がっている。同性婚問題は宗教・倫理的問題というよりも、人権問題としてとらえられるようになり、それが容認世論の広がりにつながったと言えるだろう。大統領による同性婚容認は、依然としてかけであることは間違いないが、大きな福音をもたらす可能性も低くないのである。

福音の一つは、民主党に対する献金の増大だ。小口献金を束ねて民主党に50万ドル以上の献金をした支援者の6分の1は、自分がゲイであることを公表している人々である。ゲイやレズビアンの団体は、オバマ大統領の資金集めパーティーで、常連の受け入れグループでもある*2 。大統領が5月10日、テレビインタビューで同性愛結婚支持発言をした数分後から、献金申し込みは急増していったという*1

もちろん、福音は資金面だけではない。同性愛結婚の支持は、リベラル派の支持層を活性化し、特に若者の支持獲得にインパクトを与えるだろう。両者は2008年のオバマ当選に大きな貢献をしたにもかかわらず、その後の政策展開の中で、大統領に失望したり熱意を失ったりしたものが少なくない、彼らの目を覚ませ、民主党支持層の核心の活動家集団であるリベラル派グループを活性化することが、オバマ発言の大きなねらいである。

だが、賛成派が上昇したとはいえ、未だに微妙なバランスの上にある同性愛問題でリベラルな姿勢を鮮明にすることには、大きなリスクも存在する。2012年でも、中間派を含めて同性愛結婚に反対する人の合計は57%にのぼり、依然として多数派である。

また、オバマ発言が宗教保守層を刺激することは間違いない。彼らは、共和党のミット・ロムニー候補に微温的な支持しか与えておらず、選挙当日の棄権率が高まると考えられているが、オバマ発言は、彼らに危機意識を持たせ、より多くの人を投票箱に動員することになるだろう。すでに南部バプテスト連盟など多くの教派、団体がオバマ発言に対する抗議の声明を出している。

無視できない影響は、黒人である。民主党への忠誠心が最も高く、民主党の中核的な支持層である黒人は、一方で社会、倫理問題に関しては保守的だ。常に8~9割に上る彼らの支持率に微妙な影響を与える可能性もあるだろう。6月に南部バプテスト連盟初の黒人会長に就任したフレッド・ルター牧師が、同性愛問題を人権や公民権の問題としてとらえるのは過ちであると、就任挨拶で述べたのは象徴的だ。

オバマ大統領は初めから宗教的リベラルの姿勢を鮮明にしていたわけではない。2008年の大統領選挙では、同性愛結婚についての立場を問われ、「結婚は一人の男と一人の女の間に結ばれるものだと信じている。・・・一人のキリスト教徒として、それは神に関わる聖なるものだ(と受け止めている)」と述べている。さらに、選挙運動の中では「我々はこれまで、アメリカ人の生活で信仰が持っている力を理解してこなかった」など、宗教保守層にアピールする発言を繰り返していた。

こうした宗教的穏健派姿勢の背景にあるのは、2004年の大統領選挙後に民主党内部で高まった、「宗教保守票が共和党の独占状態にある」という強い危機感である。これを受けて、「民主党指導者評議会」や民主党系の知識人などから宗教票の重要性が主張され、宗教保守層の奪回が民主党の優先課題となった。2008年のオバマ候補の立場もその潮流を反映したものだ。

だが、オバマ大統領は就任後、次第に宗教的リベラルの方向へ軌道修正を行ってきた。2010年12月には、クリントン政権が定めた同性愛者の軍入隊に関するルールを廃棄して、公式に入隊を認める方針を発表、2011年には、やはりクリントン大統領の署名で成立した結婚擁護法(Defense of Marriage Act)を、違憲だとして否定した(クリントン元大統領も、現在は否定している)。そして、今年初めには、健康保険による無料の避妊薬処方を義務付ける方針を発表し、5月には同性愛結婚を承認したのである。

これは、民主党の潮流が再び逆転して、宗教的リベラルな方向に向かい始めたことを示すのだろうか。その可能性は高いだろう。民主党の宗教票奪還戦略は宗教保守層へのアピールに失敗してきた一方で、民主党支持基盤は加速度的に世俗化が進んでいるからである。表 1は、民主党と共和党それぞれに対して、宗教に友好的な政党と思うかどうかの回答を求めた結果である。これを見ると、民主党が宗教に対して友好的だと考える人は、すべての年で共和党より大幅に少ない。そして、2004年以降でも格差は縮まらず、宗教保守層(白人ボーンアゲイン)の民主党への好感度は、かえって減少傾向にあるのだ。近年の民主党候補は、演説に聖書の言葉をちりばめて宗教保守層へのラブコールを続けてきたが、人工妊娠中絶に反対するような核心部分での政策変更があったわけではない。そのような微温的な変化では宗教保守層は納得しないのである。

表 1民主党、共和党が宗教に友好的だと考える人口比率
注 Religion and Public Life Survey 2001~2010, Pew Research Center for the People and the Pressから作成。

一方で、この間に、民主党の支持基盤は世俗化が加速している。図 1は、「日常生活において祈りは重要だ」「審判の日に我々は神に呼ばれる」「神の存在を疑ったことはない」という質問にすべてイエスと答えた宗教保守的な人の比率を、共和党、民主党支持者別に集計したものである。これを見ると、ブッシュ政権、オバマ政権期に、民主党支持者で宗教保守的な人が急速に減少したことが印象的である。一方で、共和党支持者では宗教保守的な人が着実に増加しており、両党支持者の宗教的信条における格差は、拡大する一方である。

オバマ大統領が同性愛結婚の容認発言を行った背景も、ここから理解ができる。中途半端な姿勢で宗教保守層におもねってみても、その層の支持拡大が期待できないのであれば、民主党の中核にある世俗的な支持基盤を大切にしたほうが理にかなった戦略だ。彼の決断は、選挙戦の一時的な便法にすぎないのかもしれないが、民主党が宗教保守層へのラブコールを続ける意欲を失ってきたことの現れと言うことも可能だろう。

図 1宗教的信念の政党支持者間格差
注 Trends in American Values: 1987-2012, Pew Research Center for the People and the Pressから引用
(http://www.people-press.org/2012/06/04/section-6-religion-and-social-values/、最終確認日付 2012年5月24日)



*1:The New York Times and CBS調査。5月11~13日。同紙のウェブページhttp://www.nytimes.com/interactive/2012/05/14/us/americans-views-on-same-sex-marriage-poll.html?ref=politics から(最終確認は6月25日)
*2:Dan Eggen, “The Influence Industry: Same-sex marriage issue shows importance of gay fundraisers,” The Washington Post, May 10, 2012
*3:Dan Eggen, “Obama’s gay marriage announcement followed by flood of campaign donations,” The Washington Post, May 11, 2012