タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/26

アメリカNOW 第96号 米国における雇用の分極化 (安井明彦)

雇用回復力の弱さが指摘されている米国では、「低技術(低賃金)」「高技術(高賃金)」の職と比較して「中技術(中賃金)」の職が取り残されている様子が見られる。こうした現象は「雇用の分極化(job polarization)」といわれており、その背景に技術革新などの構造的な要因を指摘する向きもある。本稿では、関連するレポートなどを取り上げつつ、「雇用の分極化」に関する議論を紹介する。

取り残される「中」の仕事
9月12日に米国の商務省センサス局が、2011年の「所得・貧困・医療保険の普及状況」に関する年次報告を発表した*1 。この報告では、家計の実質中位所得が4年連続で低下していることが明らかにされている。2011年の家計の実質中位所得は1990年代半ばの水準にまで低下しており、米国の中間層が置かれた厳しい状況が描き出された(図1)。



「中間層の苦境」という意味では、この報告で示された中間層の雇用者数の伸び悩みにも注目される。2010年と11年を比較すると、もっとも雇用者数の伸び率が高いのは、所得階層が最も低い第1分位だった。これに続くのが、次に所得階層が低い第2分位と最も所得階層が高い第5分位であり、これらに挟まれた第3・第4分位は相対的に伸び率が低い。結果として、所得階層別に雇用者数の伸び率を示した図は、中間層を底とした「U字型」の姿となっている(図2)。



職種別にみても、今回の金融危機とその回復過程では、「高賃金」「低賃金」の職に比べて「中賃金」の職が苦戦している。National Employment Law Projectでは、366種類の職種を賃金水準の高低で3つにグループ分けし、金融危機における雇用喪失数と回復期における雇用創出数に占める割合を算出している*2 。この分析によれば、雇用喪失数では6割を「中賃金」の職が占めているのに対し、回復期の雇用創出数では「中賃金」の職が占める割合は2割強に過ぎない。これに対し、「低賃金」の職は雇用喪失時よりも創出時の方が全体に占める割合が格段に大きい。「高賃金」の職の場合には、創出された雇用に占める割合はそれほど高くないが、喪失時とほぼ同程度の割合は確保している(図3)。



危機で加速した「U字型」の雇用環境
こうした「高」「低」に比べて「中」の雇用が出遅れている状況(図に示すと「U字型」になるイメージ)こそが、「雇用の分極化」と米国でいわれている現象の特徴である。一般に賃金水準は技術水準を示す目安とされており、「中賃金」の職の伸び悩みは「中技術」の職の苦境として理解されている。

「雇用の分極化」は、今回の金融危機に始まった現象ではない。概ね1980年代半ば以降の米国には、「中技術」の雇用機会が伸び悩み、賃金水準の伸び率でも「低技術」や「高技術」の職種に遅れをとる傾向が存在してきた*3 。実際に、1980年から2010年までの雇用者数の伸び率を比較したニューヨーク連銀の調査でも、「高技術」「低技術」の雇用者数の伸び率が高いのに対し、「中の高」「中の低」の技術と分類された職種では、雇用者数の伸び率が相対的に低くなっている(図4)。ここでも浮かびがるのは、「U字型」の雇用環境である*4



もっとも、「雇用の分極化」は景気の動きと全く無関係に進んできたわけでもなさそうだ。デューク大学のNir Jaimovichらは、景気後退が「雇用の分極化」を加速させてきた経緯を分析している。これによれば、1990年以降の最近三回の景気循環には、景気後退期には相対的に多くの「中技術」の雇用が失われる一方で、これらの職では景気が回復に転じても雇用者数が回復しないという特徴があった。1990年代前半の景気回復が「ジョブレス・リカバリー」と呼ばれたように、これら三回の景気回復期は雇用者数がなかなか増加しなかったことで知られる。Jaimovichらの研究によれば、こうした状況も「中技術」の雇用回復力の弱さに起因しており、もしも1970~80年代初期の景気回復期と同じように「中技術」の雇用者数が増加していれば、「ジョブレス・リカバリー」にはならなかったという試算も紹介されている*5


技術革新で置き換えられる「ルーティン型」雇用
なぜ「雇用の分極化」が進んだのだろうか。この問題についての研究が豊富なマサチューセッツ工科大学のDavid H. Autorは、最大の理由として技術革新の進展を指摘する。技術革新が進んだために、これまで「中技術」の雇用者が従事してきたようなルーティン型の仕事がコンピュータ・プログラムなどに置き換えられるようになり、これが「雇用の分極化」を進めてきたというわけだ*6 。具体的には、事務・管理補助的なオフィスワークや、反復の多い製造関連の作業、機械操作などが、置き換えられ易いルーティン型の職種としてあげられる。

技術革新の他には、グローバリゼーションの進展も「雇用の分極化」を促進している理由とされる。ルーティン型の職種は雇用コストの安い海外からの競争にさらされやすく、海外への雇用のアウトソーシング(いわゆる「オフショアリング」)の対象になり易い職種も含まれる。ただしオフショアリングについては、そもそも情報関連などの技術革新がなければ実現できなかった形態であるのが現実であり、大きな意味ではこれも技術革新の影響とみることが出来るかもしれない。

こうした説明に従えば、雇用環境が「U字型」を示すのは、現時点では全ての作業がコンピュータ・プログラムなどに置き換えられ易いわけではないからだ。研究職などの抽象的な問題解決能力が必要とされる職種や、対人サービスなどのように状況に即した対応が欠かせない職種は、技術革新によっても置き換えられにくい。総じて前者が「高技術(高賃金)」の職種、後者が「低技術(低賃金)」の職種であり、「中技術(中賃金)」の職種と比較すると、良好な雇用環境となっているようである。

もちろん、いつまでも「高技術」「低技術」の職が安泰であるとは限らない。マサチューセッツ工科大学のErik Brynjolfssonらは、近著「Race Against the Machine」で、情報通信技術の人工知能的な能力が進み、「Machine(機械)」に置き変えられ難い職種が急速に少なくなっていく未来を描いている*7 。その対象は「高技術」の職種に限らず、トラックの運転手や施設の清掃人などのように、「低技術」に分類される職種も例外ではないという。
Brynjolfssonらは、「機械と対抗する」のではなく、「機械と共に戦う」ことが必要だと主張する。「雇用の分極化」は米国に限った現象ではなく、例えば欧州の先進国にも似たような状況が生まれているといわれる*8 。できるだけ多くの国民が技術革新の果実を利用できるように教育水準の底上げを図ることなどが、「雇用の分極化」時代の当面の処方箋なのかもしれない。



*1:U.S. Census Bureau, Income, Poverty and Health Insurance Coverage in the United States: 2011, September 12, 2012.
*2:National Employment Law Project, The Low-Wage Recovery and Growing Inequality, August 2012.
*3:David H. Autor, The Polarization of Job Opportunities in the U.S. Labor Market, Center for American Progress and the Hamilton Project, April 2010.
*4:Federal Reserve Bank of New York, Regional Economic Press Briefing, May 30, 2012.
*5:Nir Jaimovich, Henry E. Siu, The Trend is the Cycle: Job Polarization and Jobless Recoveries, August 2012.
*6:David H. Autor, The Polarization of Job Opportunities in the U.S. Labor Market, Center for American Progress and the Hamilton Project, April 2010.
*7:Erik Brynjolfsson, Andrew McAfee, Race Against The Machine: How the Digital Revolution is Accelerating Innovation, Driving Productivity, and Irreversibly Transforming Employment and the Economy, Digital Frontier Press, January 23, 2012.
*8:Daron Acemoglu, David Autor, Skills, Tasks and Technologies: Implications for Employment and Earnings, June 2010.

■安井明彦:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、みずほ総合研究所調査本部政策調査部長