タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/11/27

アメリカ大統領選挙UPDATE 9:「民族宗教要因と2012年大統領選挙」(飯山 雅史)

宗教と民族の側面から2012年大統領選挙を見ると、白人プロテスタントでは、福音派の強い帰属意識に支えられた共和党が一層の優位を固めているのに対して、民主党は、人口比が急増する「無宗教」グループとヒスパニック系カトリックの支持を強固なものとしてきた。社会の主流集団(内集団)である白人プロテスタントを基盤にした共和党に対して、民主党は、外集団であるヒスパニック、黒人、無宗教などに支持基盤が傾斜する傾向が、今後も続くと考えられる。

表 1民族宗教グループ別大統領選挙投票動向
注 Pew Research Center web page
http://www.pewforum.org/Politics-and-Elections/How-the-Faithful-Voted-2012-Preliminary-Exit-Poll-Analysis.aspx#rr 最終確認日付2012年11月17日。

表 1は2000年からの出口調査結果に基づく、各民族宗教グループの大統領選挙投票動向である。共和党のロムニー候補は、福音派が“カルト”視するモルモン教徒だったが、福音派の共和党支持は微動だにせず、2004年選挙と同じ79%の高率となった。2008年選挙の際には若年層福音派の共和党離れ傾向が指摘されたが、今回選挙においても、福音派全体の投票動向には、ほとんど影響していない。

もっとも、出口調査では棄権率が把握されないため、ロムニー候補に失望して投票所に向かわなかった福音派がどれだけいたのかは、今後の調査を待たなくてはならない。宗教右派の選挙活動は2008年選挙から低調で、「教会から候補者に関する何らかの情報提供があった」と答えた福音派は、2000年選挙では20%(主流派は4%)、2004年では34%(同8%)にものぼったのに対して、2008年では16%(同7%)、今回も16%(同8%)と大幅に低下している*1 。宗教右派運動の低迷に加え、マケイン、ロムニー両候補に対する宗教右派の失望が表れたものと考えられ、今回の選挙でも、福音派の投票率は低下していたと推測できるだろう。

白人主流派プロテスタントの投票動向は数値上、全く変化がない。主流派において共和党支持が民主党を1~2割程度上回るのは、1960年代から変わらない傾向であり、主流派の投票傾向はきわめて安定的である。白人カトリックは、長期的に民主党陣営からの離脱が続き、両党支持が拮抗する浮動票とみられてきたが、次第に、共和党優勢の傾向も生まれており、今回選挙では共和党支持が2割近く上回った。

これに対して、黒人プロテスタントは1960年代半ば以来の強い民主党支持傾向に加えて、民主党候補が黒人であることから、今回選挙でも民主党に95%が投票した。無宗教グループの高い民主党支持も定着したと言えるだろう。今回選挙で注目を集めたのはヒスパニック系カトリックで、民主党支持傾向が一層強化され75%まで上昇したことである。

無宗教とヒスパニック系の民主党支持は、人口比の急増と併せて考えると大きな意味を持つ。特にヒスパニック系は、今回初めて投票者総数の10%に達したことで注目を集めた。無宗教グループの人口比は、1960年代にはわずか1%だったが、1990年代から急増し、現在は人口の2割近くにのぼって、白人福音派人口(20~25%)に近づいている*2 。この結果、表 2を見ると、現在の民主党支持基盤では、無宗教が最大グループで、黒人、ヒスパニック、その他(ユダヤ、イスラム、仏教など)を加えると56%で多数派となる。これに対して、共和党は白人(福音派、主流派、白人カトリック)が76%を占めている。

民族宗教的なグループで見た場合、歴史的に民主党は外集団(19世紀のカトリック、20世紀前半の福音派プロテスタントなど)、共和党は内集団(20世紀前半の白人主流派など)の支持を得る傾向が強い。だが、外集団のグループは社会経済的地位が上昇したり、新たに移民の波が起きて彼らが社会の最下層に停留すると、相対的に内集団化していって、共和党支持に転じていく傾向がある。

かつて外集団だった白人福音派やカトリックは強固な民主党支持基盤だったが、次第に内集団化して共和党陣営に移行した。代わってヒスパニックや無宗教グループが米国社会の外集団として台頭し、民主党支持基盤の穴を埋めつつある。その潮流は長期的な流れだが、ヒスパニック票が大きな注目を集めた今回選挙は、潮目の変化が目に見えたことで、一つのエポックとなったのかもしれない。

表 2民主・共和両党支持基盤の民族宗教グループ別内訳
注 American National Election Studiesから筆者集計



*1:Pew Research Centerのウェブページ http://www.people-press.org/2012/11/15/section-3-the-voting-process-and-the-accuracy-of-the-vote/から。最終確認日付2012年11月17日。
*2:American National Election Studiesから筆者集計