タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/8/25

2014年アメリカ中間選挙 update 1:エリック・キャンターの敗北と2014年中間選挙と共和党指導部の交代劇(西川賢)

中間選挙だけに限った話ではないが、選挙ではしばしば予想外の出来事が発生することがある。1994年の中間選挙で、現職の民主党下院議長トマス・フォーリー(ワシントン州選出・民主党)が落選した件などは、まさにそのような代表例といえるかもしれない(Gainous and Wagner, 2011, 136)。

同じく、本年6月におこなわれたヴァージニア州第7下院選挙区の共和党予備選挙においても、誰もが予想していなかった結果が生じた。共和党の現職下院院内総務(House Majority Leader)であるエリック・キャンター議員が、新人候補デイヴィッド・ブラットの前に敗北を喫したのである。キャンター議員は2001年に初当選を果たして以来、2003年に共和党筆頭院内副幹事(House Chief Deputy Whip)、2009年には共和党院内幹事(House Minority Whip)、2011年からは院内総務を務めて共和党議員団の統御に手腕を発揮し、共和党指導部内で地位を固めていると思われていた人物だけに、この敗北は大いに話題をさらった。

この敗北を受け、キャンター議員は8月18日付で議員を辞職、その後任としてキャンター議員とは『ヤング・ガンズ:保守派リーダーの新世代』(原著はYoung Guns: A New Generation of Conservative Leaders, Threshold Editions, 2010)を共著で刊行して以来の盟友であるケビン・マッカーシー議員(カリフォルニア州第23選挙区選出)が当選4回という異例の速さで院内総務に選出され、キャンター前院内総務のスタッフをそのまま受け継ぐ形で公務に臨んでいる。また、マッカーシー議員がそれまで就いていた共和党院内幹事にはスティーブ・スカリース議員(ルイジアナ州第1選挙区選出)が選ばれた。

マッカーシー議員は2006年に初当選を果たした後、2008年の大統領選挙時、党綱領準備委員会委員長に抜擢されて注目を浴び、2009年には共和党筆頭院内副幹事、2011年には共和党院内幹事に選出され、人脈も豊富であるといわれている(ウッドワード、2013、99)。マッカーシー議員は共和党指導部内で順風満帆といってよいキャリアを築きあげてきたといってよいであろう。当初、院内総務選挙にはマッカーシー議員の対抗馬として、ピート・セッションズ議員(テキサス州第32選挙区選出)の出馬が取り沙汰されていたものの、セッションズ議員は「この重要な時期に共和党に亀裂を生じさせないため」、出馬断念を表明。しかし、現共和党下院指導部に不満を抱く少数派は、マッカーシー議員の院内総務就任を阻止するため、かつて「共和党研究会」(Republican Studies Group)の委員長を務めたジェブ・ヘンサーリング議員(テキサス州第5選挙区選出)やジム・ジョーダン議員(オハイオ州第4選挙区選出)に出馬を持ちかけるも拒否され、最終的には選挙直前になって、プエルトリコ生まれのモルモン教徒で「リバティ・コーカス」に所属しているラウル・ラブラドール議員(アイダホ州第1選挙区選出)が立候補へ名乗りをあげた。ラブラドール議員は現共和党指導部に批判的なフリーダムワークスの支援を受けるなどしたものの惨敗を喫した。しかし、それでもラブラドール議員は65票から75票程度の票を集めたのではないかとの見方もある(各候補の得票数については、Matt Fuller, “House Republican’s Secret Vote, Deconstructed.”による)。

院内幹事に当選したスカリース議員は2008年から連邦下院議員を務め、170名以上の共和党下院議員が所属する最大の保守コーカス「共和党研究会」の委員長として頭角を表してきた。院内幹事選挙にはスカリース議員の他に、マーリン・スタッツマン議員(インディアナ州第3選挙区選出)と現職の筆頭院内副幹事であったピーター・ロスカム議員(イリノイ州第6選挙区選出)も出馬していた。

37歳のスタッツマン議員の立候補は、将来のキャリアアップ促進を目指すためのアピールプレーとの見方が強いようである。スタッツマン議員は院内幹事選挙に敗れはしたものの、スカリース議員とそりの合わない共和党研究会メンバーを中心に若干ながら(40票足らずといわれている)も支持を集め、敗北は喫したものの将来のキャリアアップに向けて、知名度を上げることに成功したという見方もある(Matt Fuller, “Marlin Stutzman’s Long Game.”を参照)。

これに対して、スカリース議員とロスカム議員は互いに水面下で激しい切り崩し合戦を展開し、イリノイ州選出のロスカム議員は、当選の暁には筆頭院内副幹事を「赤い州」(Red States)から抜擢すると公約して南部議員の取り込みを図ったとされる。さらに、同議員に近いとされる消息筋は「ロスカム議員はすでに90名以上の議員の指示を確保している」としたうえで、「信用できない院内幹事など、誰も必要としない・・・実現できもしない約束を乱発する院内幹事など、誰も必要としない」と暗にスカリース議員を批判した(Emma Dumain, “Roskam-Scalise Whip Race Heats Up, Gets Ugly.”を参照)。スカリース議員はロスカム議員を負かして院内幹事に当選後(スカリース議員が過半数ギリギリの120票前後、ロスカム議員は75票前後を得票数であったといわれる)、デニス・ロス議員を新しく院内副幹事に指名、かくしてクリスティ・ノウム議員、アーロン・ショック議員、スティーブ・スタイバース議員、アン・ワグナー議員、パトリック・マクヘンリー議員の6名が院内副幹事を務める新体制になった。併せて、スカリース院内幹事はそれまで筆頭院内副幹事の地位にあったロスカム議員をマクヘンリー議員に交替させているが、これは院内幹事選の行き掛かりを受けての更迭であることは明白であろう。

以上にみるように、いわば「ドミノ倒し」的に生じたリーダーシップの間隙を埋めるべく、6月に院内総務・院内幹事選挙を実施せざるを得なくなったことは、共和党にとっては想定外であったと考えられる。本来は実施する予定がなかった選挙において、共和党指導部期待の星であるマッカーシー議員はラブラドール議員の挑戦を受け、スカリース議員は辛くも過半数の支持を得て当選したものの、ロスカム議員らに恨みを残す結果となった。くわえて、選挙の過程で下院共和党が決して一枚岩ではなく、指導部の指揮命令に服従せず自律的に行動しようとする議員が少なくないことがあらためて浮き彫りになった。このように、今回の中間選挙でのキャンター議員の予想外の敗北は、共和党内部に思わぬ波紋を起こしたといえるのではないだろうか。

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【参考文献】
Emma Dumain, "Roskam-Scalise Whip Race Heats Up, Gets Ugly." Roll Call, July 16, 2014.
Matt Fuller, “House Republican’s Secret Vote, Deconstructed.” Roll Call, July 1, 2014.
Matt Fuller, “Marlin Stutzman’s Long Game.” Roll Call, August 4, 2014.
Jason Gainous and Kevin M. Wagner, Rebooting American Politics: the Internet Revolution (Lanham: Rowman and Littlefield, 2011).
ボブ・ウッドワード『政治の代償』伏見威蕃訳(日本経済新聞出版社、2013年).

■西川賢 津田塾大学准教授