タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/10/7

2014年アメリカ中間選挙 update 2: 2014年中間選挙における女性浮動票――揺れ動く「ウォルマート・マム」(細野豊樹)

定番の議席数予測を発信するニュースレター発行者スチュアート・ロセンバーグは、9月初頭にオンライン政治誌において、共和党が大勝するかもしれないとの、長年の経験に基づく予感を披露した。連邦議会上院における共和党の議席増の見通しを現段階では5~8としつつも、共和党への強い追い風を背景に、接戦州を軒並み共和党が制する可能性を、過去の中間選挙を引きながら語っている。今はまだ伯仲であるが、投票日が近づくにつれて予感と世論調査データが収斂していくと考えている。もともと大統領の政党は中間選挙において苦戦する傾向がある中で、大統領の支持率が低いと、大統領の政党に悲惨な結果をもたらすと、ロセンバーグは論じる*1。以下では、オバマの支持率低迷を、近年の選挙の左右してきた女性浮動票と関連付けてみたい。政治の二極化を背景に、流動的な浮動票の比重は下がっていると言われる中で、注目すべき例外である。


縮まるジェンダー・ギャップ

1980年代以降のアメリカにおける政治の構造的特色の一つが、政党支持率に大きな男女差(「ジェンダー・ギャップ」)がみられることである。男性は共和党支持、女性は民主党支持の傾向が強い。近年の民主党は、女性票で共和党に差を付けないと、選挙で勝つのは難しい。2010年中間選挙における民主党の敗因の一つが、共和党にジェンダー・ギャップを詰められたことであった。

女性有権者の支持率低下が、最近になって民主党の不安材料として急浮上している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、先月の世論調査での女性の民主党と共和党の支持率が51%対37%だったのが、9月初旬の調査においては47%対40%に縮まったと報じている。同調査における支持率の変化が特に顕著だったのは白人女性である。8月の調査では民主党が4ポイント勝っていたのが、9月調査で逆転し共和党48%、民主党40%となった*2。『ワシントン・ポスト』も同様のトレンドを報じている。女性のオバマの支持率は、第二期就任の2013年1月の60%と比べて14ポイント、先月との比較で4ポイント下がっている*3。週ベースで大統領支持率の定点観測を行っているギャラップの調査でも、女性のオバマ支持率低下が認められる。

こうした女性の大統領支持率の急落について、『ワシントン・ポスト』は、近年の選挙の女性浮動票として注目される「ウォルマート・マム」の動向と関連付ける興味深い報道を行っている。ウォルマート・マムとは、売上額世界一を誇るスーパーマーケット・チェーンのウォルマートにおいて、月に一度以上買い物をする、子供のある女性と定義される。その多くは白人であり、4~5割が大学卒で、二大政党の支持率は半々であり、有権者全体の2割弱を構成する。ウォルマート・マムは、2008年にはオバマを支持し、2010年には共和党に流れ、2012年にはオバマに回帰して、近年の選挙を左右してきたとされる*4

ウォルマートからの委託で、共和党および民主党の選挙コンサルタントが合同で、2010年中間選挙からこのウォルマート・マムたちについて継続して調査してきたが、2014年については、上院選の激戦州である穀倉地帯のアイオア州デモインおよび南部のアーカンソー州リトル・ロックにて、9月にウォルマート・マム達を集めたフォーカス・グループ(グループ対談)調査が行われた。彼女たちの通常の関心事は経済であるが、ISISの残酷な方法での処刑にショックを受けて、関心がテロ・安全保障に移っていることが分かった。このことは、最近外交に関するオバマ大統領への支持が下がったことと符合する*5。ブッシュ政権期に、テロへの不安からブッシュを支持した「安全保障マム」と似た構図であるが、死者多数の大規模テロであった9.11と今回の処刑は大きく異なるため、一過性の支持率変化に終わるかもしれない。その場合、主たる関心は生活と経済に回帰することになるので、ウォルマート・マムのプロフィールおよび政治的関心を次にみてみたい。


経済に不満を持つ女性浮動票に訴求できない二大政党

ウォルマート・マムの62%は働く女性であり、残りの人たちの半数も今後数年の間にフルタイムで働きに出る自分の姿を想像できると答えている。働くウォルマート・マムの54%は、経済的に可能であったら働きに出たくないと感じている。55%の最大の関心事は家計の安泰である*6。家計を支えるために外で働き、エブリデー・ロープライスのウォルマートで買い物をして節約に努める白人の庶民というのが、典型的なウォルマート・マムのイメージだと言えよう。

経済状況に対する不安は消えていないものの、以前の調査と比べて緩和されている。通常は外交への関心が低い中で、ISISによる処刑とミズーリ州ファーガソンの人種暴動を同じ次元で捉えて怯えているのが、今回の調査結果の特徴である*7

政治的には、政府と政治家への不信感が強い*8。オバマ大統領への感情は、弱い同情や失望であり、今年の中間選挙をオバマへの信任投票だとは捉えていない*9。現在民主党と共和党のどちらが連邦議会上院の多数を占めるかを知らない者が多いくらい政治的関心が低く、今回の選挙で二大政党のどちらが連邦上院の多数党になるかは興味を持っていない*10

女性票への依存度が高い民主党としては、ウォルマート・マムは是非ともアピールしたい有権者層である。しかし、単純な経済ポピュリズムでは彼女たちの琴線に触れることは難しいようだ。9月1日のレイバー・デー(労働者の日)に中西部のミルウォーキーに主要労組の幹部を集めて行った決起集会において、オバマは最低賃金の引き上げを訴えている。しかし、前年の大統領年頭教書に関するフォーカス・グループ調査では、最低賃金の引き上げに対してウォルマート・マムは懐疑的であった*11。生活は楽でないという実感があるにせよ、郊外に住む白人の多くには持ち家・資産があるので、意識は総じて穏健保守なのだといえる。

2014年選挙における民主党の悩みは、2012年大統領選挙でのデトロイトの自動車メーカー救済、ビン・ラディン殺害のような、白人労働者層にアピールできる業績も将来展望も無いことである。このため2010年中間選挙と同様に、選挙区単位でローカルな争点に徹した選挙戦を戦っている。

対する共和党の側も、反オバマケア(健康保険改革)で結集できた2010年と違って、統一メッセ―ジを打ち出せないのが、2014年の特徴だといえる。ちなみに民主党が勝った2006年中間選挙では、連邦議会下院で多数派だった共和党執行部のスキャンダルに狙いを定め、「腐敗の文化」をスローガンにして共和党を攻めたてた。

景気が緩やかに回復する中で、アメリカ経済の状況は着実に改善している。こうした中、PEW研究所の調査では、仕事を見つけられないとする回答が、ピークだった2010年以降一貫して減少している。しかし、生活が良くなったという実感には結びついていない。同調査の回答者の実に56%が、世帯所得の上昇が物価に追いついていないと答えており、「変わらない」の35%を大きく上回る*12

緩やかだが着実な景気回復を示す経済指標と、庶民の実感がかい離する現象は、1990年代初頭と似ている。派手なパフォーマンスを嫌い、庶民の共感を得るのが苦手で、政策的には穏健・堅実な大統領に有権者は何か物足りない、という点でも類似性が認められる。

ギャラップ社調査で、第三政党が必要という回答が、昨年10月に60%に達したが、本年9月でも58%と高止まりしている*13。二大政党が、政治の停滞や格差拡大といった課題に真剣に向き合わないと、1992年のロス・ペロー旋風のような展開も、2016年大統領選挙に向けての一つのシナリオとしてありえるのではないか。


おわりに

上述のようなフォーカス・グループ調査は、選挙を左右する浮動票にアピールするメッセージを探るため選対本部がよく用いるが、通常は非公開である。それが概要のみとはいえ公開されているのだから、ウォルマート・マムの調査は貴重である。上述のとおり、ウォルマート・マムの中では、オバマへの支持と今年の中間選挙での投票が直結していない。冒頭で紹介したロセンバーグによる共和党大勝の予感は、オバマの支持率低迷を重視しているため、これを鵜呑みにするのは早計かもしれないことを示唆する。

共和党にも不安材料はある。ロセンバーグと並んで選挙予測に定評のあるチャーリー・クックが指摘するように、第一には激戦州における民主党候補の資金面での優位である。第二に、2012年選挙において、失業率の高止まりにも関わらずオバマが勝利した原動力の一つである、支持基盤動員の「地上戦」が再びものを言う可能性である*14。こられについては、別の機会に取り上げたい。

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*1: Stuart Rothenberg, Rothenberg: Senate GOP Gains At Least 7 Seats, , Roll Call, Sept. 8 ,2014

*2: Janet Hook, The Gender Gap: Warning Signs for Democrats, The Wall Street Journal, September 12, 2014,

*3: Karen Tumulty, Obama losing the confidence of key parts of the coalition that elected him, The Washington Post, September 11 , 2014.

*4: Michael Catalini, Why Walmart Moms Are Skeptical About Obama's Agenda:The key swing bloc of voters has seen politicians make promises before

*5: Karen Tumulty, Op. Cit.

*6: Our Exclusive Mother's Day Survey, Parade, May 9, 2014.

*7: Neil Newhouse and Margie Omero, Walmart Mom focus groups, p.1.

*8: Ibid. pp.1-2.

*9: Ibid. pp.2-3.

*10: Ibid. p.3.

*11: Michael Catalini, Op.Cit.

*12: Pew Research Center, Views of Job Market Tick Up, No Rise in Economic Optimism: 56% Say They Are ‘Falling Behind’ Financially, September 4, 2014.

*13: Jeffrey M. Jones, Americans Continue to Say a Third Political Party Is Needed: Views little changed from last year, Gallup, September 24, 2014.

*14: Charlie Cook, What Could Go Wrong for GOP?, The Cook Political Report, September 15, 2014.

■ 細野豊樹 共立女子大学教授