タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/12/10

2014年アメリカ中間選挙 update 4:白人福音派の驚くべき共和党への忠誠心(飯山雅史)

2014年米中間選挙の特徴の一つは、同性愛問題や人工妊娠中絶などの宗教的、社会的争点で、民主党が鮮明なリベラルの立場から共和党を攻撃し、同党が守勢にまわって争点隠しに走るという、1980年代以来の潮流を逆転させる対決構図が生まれたことだった*1 。前回選挙の反省を踏まえ、共和党が過激な保守主義を抑えて穏健派へのアピールに力を入れたことが背景にある。こうした戦略転換は、宗教保守的な白人福音派の同党離れを生む要因になると想像できるが、選挙後の出口調査は、彼らの共和党への忠誠心に全く影響がなかったことを示している。白人福音派は、もはや宗教的争点で共和党に結集するシングルイシューのグループではなくなったのだろうか。

今回の選挙で、宗教保守層を共和党支持に向かわせるような要因はほとんどなかった。連邦最高裁が同性婚合法化につながる画期的な判決を下した後、最初の連邦レベルの選挙だったが、急速に同性婚容認に向かう世論をにらんで、共和党候補はこの問題の争点化を避け、その他の宗教、倫理的問題もほとんど取り上げなかった。

わずかな例外となった選挙でも、共和党候補は宗教保守層を失望させるような態度を取っている。コロラド州上院選では人工妊娠中絶が争点となり、民主党は共和党候補を過激な宗教右派と決めつけて執拗な攻撃を繰り返したが、共和党候補は避妊薬の薬局販売を容認するなど、穏健かリベラルとも言える立場を表明してあっさりとかわしてしまった。彼のほかにもノースカロライナ、バージニア、ミネソタの共和党上院候補が薬局販売容認を表明し、強い中絶反対派だったアイオワの共和党上院候補は、選挙前のディベートで母体に危険があれば中絶を認めると発言した。

それにも関わらず、今回中間選挙の出口調査を見ると、白人福音派は全投票者の26%を占め、彼らの78%もの人々が共和党に投票した。これを近年の白人福音派投票動向と比較(図 1)すると、今回選挙での共和党の姿勢変化は全くネガティブな影響を与えていないのである。

白人福音派の共和党投票率は1990年代を通して上昇し、同性婚問題が全国的な争点となった2004年大統領選挙でピークの78%に達した。この選挙では、同性婚の拡大に危機感を強めた福音派団体が激しい選挙運動を展開し、メディアでは「福音派の勝利」とまで言われた時である。だが、異常とも言われた共和党一極支持は決して一時的な現象ではなく、2010年以降の選挙では毎回、ほぼ同一の高支持率が続いている。しかも、全投票者における白人福音派の比率も25~6%と極めて安定的だ。2013年現在で、全有権者に占める白人福音派の比率は18%と見られているので、その他有権者に比べて白人福音派の投票率は高いと推定できる*2

特に中間選挙では、白人福音派の高投票率が共和党勝利に与える貢献は少なくない。今回、共和党が議席を奪ったアーカンソー、ノースカロライナ上院選では、白人福音派が全投票者のそれぞれ52%、40%を占め、73%、78%が共和党に投票した。両州有権者における白人福音派の比率はそれぞれ36%、30%なので、白人福音派は強い忠誠心で投票所に足を運んだと言えるだろう。この他でもケンタッキー(投票者中の白人福音派比率52%、全有権者での同比率32%)、ジョージア(各39%,24%)など、南部各州での白人福音派は、依然として共和党選挙運動の中核である。

これらの選挙で、宗教や倫理問題が大きな争点となったわけではない。そもそも2010年中間選挙でティーパーティー旋風が吹き荒れ、財政、経済問題が焦点となって以降、宗教的争点はほとんど注目されなくなっていた。共和党は宗教保守層にリップサービスを続けてはきたが、今回選挙では、あえて宗教的問題から距離を置くような態度に出たのである。

それでも、白人福音派は共和党に8割近い票を捧げ続けた。

図 1 白人福音派の投票動向





注 National Exit Pollから筆者作成。同調査で白人福音派とは”Are You White Evangelical or Born-Again Christian?”という問いにyesと答えた回答者を示す。

 

どうして、共和党の”裏切り”に直面しても、白人福音派の忠誠心は揺るがないのだろうか。統計的な検証は出口調査のデータセット公開をまたなくてはならないが、考えられる理由は白人福音派における共和党帰属意識の強固さである。

アメリカ人は政策的に好ましいと感じた政党を支持すると、次第に政党が自分のアイデンティティーの一つとなるような「帰属意識」を持つようになると言われる。政党帰属意識は年齢とともに強固になり、いったん確立してしまうと、たとえ政党の政策が変わっても簡単には変わらない。また、長く同じ政党に帰属すると、その政党の色眼鏡で政治情報を得るようになり、様々な争点で、支持政党の政策方針と一体化していくと考えられている*3

かつて強固な民主党支持層だった白人福音派は、1980年代に共和党が鮮明な宗教保守政党に変身すると、若者を中心に共和党支持が高まっていった。そのかつての若者は今50,60代であり、彼らの共和党帰属意識はすでに十分確立していて、共和党の細かな姿勢変化で支持政党を変えることは少ない。同時に宗教的争点だけでなく、財政保守主義など共和党の政策体系との一体化も進んでいると考えられる。つまり、彼らは宗教の側面では白人福音派として登場するが、経済をテーマにすれば財政保守主義者として登場してくるのではないか*4

リバタリアンが主導するティーパーティー運動の同調者は、宗教問題でも極めて保守的であり、共和党全国委員会の宗教票担当者は、福音派は今や社会的争点を越えて経済、財政問題やオバマ大統領への嫌悪などでも共和党と意識を共有し、宗教的争点で期待を裏切られても共和党に投票するようになってきたと話している 。

そうであれば、今後、宗教的争点が政治舞台から消えていっても、宗教保守派は共和党、宗教リベラルや世俗派は民主党という政党支持の構図に変化が出てくる可能性は少ない。宗教の亀裂線は、これからも潜在的に政党と政治を分断していくことになるだろう。
*1:飯山雅史「2014年アメリカ中間選挙 update 1:社会的争点で守勢に回る共和党」東京財団現代アメリカプロジェクトウェブページ(http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1324)最終閲覧日付;2014/11/29
*2:以下、全投票者における白人福音派比率はNational Exit Poll、全有権者における同比率はThe American Values Atlas(Public Religion Research Institute, http://ava.publicreligion.org/home#1)による。最終閲覧日付;2014/11/29
*3:Campbell, A., Converse, P. E., Miller, W. E., & Stokes, D. E. (1960), The American Voter, John Wiley & Sons.
*4:Alstair Bell, “Christian right key to Republican performance in U.S. midterms,” Reuters, October 27, 2014

■北海道教育大学 飯山雅史