タイプ
論考
プロジェクト
日付
2015/3/4

アメリカNOW第124号 移民制度改革への抵抗は共和党の致命傷か~人口動態からの考察~(安井明彦)

オバマ政権の移民制度改革に対する共和党の反発が、米国政治の混乱を招いている。米国ではマイノリティの存在感が大きくなっており、移民制度改革に対する共和党の強硬姿勢に対しては、同党の政治的な将来を危うくする可能性が指摘されて久しい。にもかかわらず、なぜ共和党は軌道修正に動けないのか。人口動態が米国政治に与える影響について、最近の議論を紹介する。
 
移民制度改革への反発を制御できない共和党
共和党が上下両院で多数党となった2015年の米国政治は、いきなり荒れ模様の展開となった。共和党は2014年月11月にオバマ政権が行政権限で実施した移民制度改革に反発、その煽りで、2015年2月末が期限となっていた国土安全保障省予算の延長にてこずり、同省は予算切れによる部分閉鎖の瀬戸際に立たされた。

印象的だったのは、移民制度改革への強硬な反対論を制御できない共和党指導部の姿である。大統領拒否権を覆すだけの議席数を持たない以上、今の局面で共和党が移民制度改革の撤回を立法化するのは不可能に近い。だからといって、国土安全保障省の部分閉鎖を招けば、「責任感ある多数党」を演じようとしてきた共和党指導部の目論見は早々に崩れる。窮地に立たされた下院共和党指導部は、とりあえず、同省予算の3週間延長で時間をかせごうとした。しかし、あくまでも同省予算と移民制度改革の撤回を抱き合わせるべきとする一部の共和党議員が納得せず、事態は党指導部が重要視する法案が下院本会議で否決されるという異例の展開をたどる。結局、予算の延長を1週間に短縮することで急場をしのいだ共和党指導部は、移民制度改革を妨害する条項を全面的に取り下げることで、民主党議員の賛成票に頼って同省予算の成立に漕ぎ着けざるを得なくなった。
 
マイノリティの伸張と民主党有利の時代
米国ではマイノリティの伸張が確実視されており、こうした移民制度改革に対する共和党の強硬姿勢に対しては、同党の政治的な将来を危うくする可能性が指摘されてきた。2012年大統領選挙での敗北を受けて、共和党全国委員会が党勢の立て直しを検討した報告書でも、マイノリティの伸張への対応を怠れば、同党は「今後の選挙で敗北するだろう」と結論付けられている*1

マイノリティの増加は、その支持を受けやすい民主党にとっての追い風とされてきた。そうした主張の代表格が、Judis and Teixeira(2002)である*2。同書は、マイノリティや若年層に代表される民主党支持の傾向が強いグループの拡大を背景に、こうした人口動態の変化に支えられた民主党優位の時代を予測した。
Judis and Teixeira(2002)の発行から10年以上が過ぎた現在でも、人口動態面での見立ては変わらない。Teixeira et al(2015)では、米国の選挙に関連した人口動態の変化が、中長期的な視点から分析されている*3

Teixeira et al(2015)が示すのは、マイノリティの伸張が全米各地に浸透していく姿である(図表1)。全米ベースでは、白人が人口の過半数を割り込むのは2044年と見られている。これを州別に分析すると、2000年の時点で白人が人口の過半数を割り込んでいる州は、ニューメキシコとカリフォルニアの2州しかなかった。これが2020年には5州となり、2060年には24州で白人が人口の過半数を割り込む。対象を有権者に絞るとペースは鈍るが、それでも2060年には20州で白人は過半数を割り込むという。ちなみに全米ベースでは、2052年までに白人は有権者の過半数を割り込む見込みである。

 
(図表1) 白人が過半数を割り込む州

(資料)Teixeira et al(2015)により作成。
 
世代交代も鮮明だ(図表2)。1980年の有権者は、6割がベビーブーマー以前の世代、4割がベビーブーマーという組み合わせだった。2014年になると、ベビーブーマー以前の世代の存在感は低下し、ベビーブーマー、X世代、ミレニアル世代が3割前後ずつで混在する。そして2060年には、ほとんどがミレニアル以降の世代となる計算である。

 
(図表2) 有権者の世代別構成比

(注)有権者に占める割合。カッコ内は生年。
(資料)Teixeira et al(2015)により作成。
 
興味深いのは、こうした有権者の世代交代が、マイノリティの伸張と複合的に進むことである(図表3)。Teixeira(2015)が示すように、世代が進むに連れて、白人以外の人種の比率は高まっていく。1980年の時点を振り返ると、当時若年層だったベビーブーマーやX世代の場合でも、非白人が占める割合は3割に満たなかった。しかし、現在の若年層であるミレニアル世代以降では、その割合が4割を超えている。そして2060年の若年層では、非白人が6割前後に達する見込みである。

このような人口動態の変化は、共和党が移民制度改革に対する姿勢を軟化させる理由になると考えられる。マイノリティはもちろん、やはり比率が高まっていく若年層も、移民制度改革には好意的だからである。
 

(図表3)各世代の人口に占める非白人の割合

(注)カッコ内は生年。
(資料)Teixeira et al(2015)により作成。
 
移民制度改革への強硬姿勢は共和党にプラス?
しかし現実には、共和党は強硬姿勢からなかなか抜け出せない。その背景には、現在の共和党の支持層が、白人に偏っているという事情がある。マイノリティが伸張しているとはいえ、いぜんとして白人にはそれなりのボリュームがある。さらには、不法移民に厳しい意見を持つ白人ほど、共和党に投票する傾向が強いとする調査もある。少なくとも短期的には、移民制度改革への強硬姿勢で白人からの支持を固めることが、共和党にとっての「勝利の方程式」になり得る*4

米国で話題を呼んでいるのが、前述のJudis and Teixeira(2002)の作者の一人が、最近発表した論考である*5。Judis(2015)では、Judis and Teixeira(2002)後の選挙結果等を踏まえ、マイノリティや若年層等の伸張に支えられた「民主党優位の時代」という当時の見解が改められている。

理由は二つのグループが、共和党支持の傾向を強めている点にある。一つは、労働者階級の白人(white working class)。もう一つが、中間層(middle class American)である。前者は大卒未満の主にブルーカラーの白人を指し、後者は四年制大学を卒業したオフィスワーカーがイメージされる。共和党にとっては、ボリュームが減少している前者だけでなく、増加傾向がみられる後者からも支持が増えていることで、Judis and Teixeira(2002)が指摘していたような、マイノリティ、若年層等の増加という逆風が緩和されているという。
もちろんこの論考でも、マイノリティが軽視されているわけではない。大半は白人であるとはいえ、Judis(2015)における中間層にはマイノリティが含まれる。「中間層に属するマイノリティの投票行動は、マイノリティ全般とは必ずしも一致しない」というのが、Judis(2015)の重要な論拠となっている。

存在感が低下しつつある白人に頼るだけでは、共和党の将来は危ういとする論調は根強い*6。とくに大統領選挙ではマイノリティの投票率が高くなりがちであり、議会選挙よりもマイノリティの重みが増す。Ayers(2015)によれば、2016年の大統領選挙における共和党候補は、マイノリティからの得票率が2012年の大統領選挙におけるロムニー候補(17%)を下回った場合には、白人からの得票率で65%を上回らなければ勝利は覚束ない。これだけ高い白人からの得票率を記録したのは、過去40年の共和党候補では1984年のレーガン大統領のみである。他方で、白人からの得票率がロムニー候補並み(59%)だった場合には、マイノリティにおける得票率は30%を超える必要があるという*7

米国の議論は、「人口動態だけを理由として、いずれかの政党が長期間に亘って優勢になると予測するのは無理がある」という方向に収斂しつつあるようだ。Judis(2015)は、「数年前まで見られた民主党の優位は消えた」としながら、今後の米国政治は拮抗状態が続くと見ている。Teixeira(2015)は、「事前に決まった党派間の優劣など存在しない。(新世代の有権者を獲得しなければならないという)課題はいずれの党にも共通している」と述べている。

人口動態の変化は、長い期間を経て進んでいく。いずれはマイノリティの発言力が大きくなるとしても、現在の共和党が白人に支えられているのも事実である。共和党が従うべき処方箋は、必ずしも明白ではない。米国政治混迷の根は深い。
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*1: Republican National Committee(2013), Growth & Opportunity Project
*2: Judis, John B. and Ruy Teixeira(2002), The Emerging Democratic Majority, Simon and Schuster *3: Teixeira, Ruy, William H. Frey and Rob Griffin(2015), States of Change, Center for American Progress, February 24
*4: Hajnal, Zoltan L.(2015), Opposition to Immigration Reform is a Winning Strategy for Republicans, Washington Post, February 27
*5: Judis, John B.(2015), The Emerging Republican Advantage, National Journal, January 31
*6: Brownstein, Ronald(2013), Bad Bet: Why Republicans Can't Win With Whites Alone, National Journal, September 5
*7: Ayres, Whit(2015), 2016 and Beyond: How Republicans Can Elect a President in the New America, Resurgent Republic, February 27

■安井明彦:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、みずほ総合研究所調査本部欧米調査部長