タイプ
論考
プロジェクト
日付
2015/10/15

アメリカ大統領選挙UPDATE 1:共和党選挙を見るための三つの視点:支持率、選挙資金、影の予備選

はじめに

 大統領選挙を来年に控え、共和党の動きは慌ただしい。共和党内部で大統領選挙に立候補を表明したものは、すでに撤退を表明したリック・ペリーとスコット・ウォーカーを含めれば17名にものぼり、候補者乱立の状況である。本コラムでは、候補者が乱立する現在の状況を理解するための手掛かりとなる「支持率」、「選挙資金」、「影の予備選」(Invisible Primary)という三つの視点を提示し、候補者レースの現況を分析するものである。

1:支持率の推移

 まず、共和党候補者の支持率を確認する。リアル・クリア・ポリティクスによる最新の世論調査(2015年10月6日)だと[1]、支持率トップはトランプで23.2%、これにカーソン17.2%、フィオリーナ10.4%、ルビオ9.9%、ブッシュ8.4%、クルーズ6.2%、ケーシック3.2%が続いている。

 2015年の7月末頃から急上昇し始めたトランプの支持率はその後ほぼ一貫して上昇を続け、9月半ばには30%を突破している。同じく8月半ばでは6%台だったカーソンの支持率もその後上昇を続け、9月半ばに20%に達し、フィオリーナの支持率も8月半ばで4%ほどだったものが、9月の終わりごろには12%近くにまで上がっている。他方、ジェブ・ブッシュの支持率は7月半ばに18%近かったものがその後は低下していき、現在では9%程で推移している。

 このように支持率だけを見れば、話題をさらっているトランプが優位に立っている印象を免れない。だが、前回の大統領選挙でも9月末の時点で支持率首位であったのがリック・ペリーであり、その後ペリーが急降下してハーマン・ケインやニュート・ギングリッチの支持率が乱高下を繰り返したパターンがあったことを考慮すれば、2015年現在の共和党候補者の支持率も今後ある程度の変化が生じると見なくてはならないであろう。純粋に支持率だけを見て候補者レースの帰趨を分析することには限界があるといわざるを得ない。

 そこで、次に選挙資金の状況と影の予備選を確認する。

2:選挙資金の状況

 現在の大統領選挙で用いられる選挙資金には通常献金のほか、スーパーPAC(政治行動委員会)、リーダーシップPACなどがある。

 通常献金において優位に立っているのはクルーズ、ジェブ・ブッシュ、カーソンの三名である。表1には第三四半期の献金結果が加味されていないが、ポリティコやウォール・ストリート・ジャーナルなどの報道を参考にすると、第三四半期にクルーズはさらに1200万ドル余りの個人献金を集め、小口献金を中心に2000万ドルの個人献金を確保したカーソンに次ぐ健闘を見せている。ジェブ・ブッシュも1140万ドルを集め、手堅く資金を集め続けている。他方、トランプは選挙資金の殆どを自費で賄っている。

 また、第三四半期においてルビオは600万ドル、ランド・ポールは250万ドルしか資金を収集できておらず、両者とも資金面で順調とは言い難い状況が続いている[2]

 特にポールは第二四半期における献金総額700万ドルから250万ドルと献金の落ち込みが大きく、支持率の低下と相まって候補者レースのトップ組に大きく後れを取っている状況にある。ポールは上院議員再選のための資金集めに着手し始めており、すでに大統領選挙への意欲が低下しつつあるのではないかとの観測も出ている[3]

 ここ最近支持率を伸ばすことに成功してきたカーリー・フィオリーナであるが、第二四半期までに200万ドルあまりの通常献金を集めてはいるものの、献金総額は17名中7位と振るわなかった。表2からも分かるように、フィオリーナ支持のスーパーPACの献金額も目立つほどではなく、ポール同様、フィオリーナも資金的に苦しい状況に立たされているといわざるを得ない。

 加えて、バージニア大学のラリー・サバト教授が指摘するように、フィオリーナは選対事務所の地方展開がほとんど進んでおらず、いわゆる「地上戦」に対する準備が不十分である点も資金面と相まって、今後の不安材料となるであろう[4]。 

 スーパーPACについては、ジェブ・ブッシュの「一人勝ち」といってよい状況が続いている(表2参照)。ブッシュ支持のスーパーPAC、Right to Riseは献金総額1億ドルを誇り、アイオワ州などで大規模なテレビ・コマーシャルを流すなど、大がかりな「空中戦」を展開し、ブッシュを強力に支援している。

 ブッシュほどではないが、クルーズもトビー・ノイバーガーやロバート・マーサーなどのメガ・ドナーに支援されており、Keep the Promiseなど複数のスーパーPACによる強力な資金的支援を受けている(表2参照)。クルーズ支持のスーパーPACも第三四半期に3700万ドル以上の資金を集めたという報道がなされている。

 資金面においてはブッシュとクルーズが好調であり、カーソンは善戦しているという見方が成り立つのではないか。他方、ポールやフィオリーナは資金面では苦境に立っているとみて間違いないであろう。

3:影の予備選

  次に、「影の予備選」(Invisible Primary)について考慮する必要がある。

 Cohen-Karol-Noel-Zallerらが提示した理論によれば、政党形成の真のプリンシパルは政治家ではなく、広範な利益集団、社会運動家、資金提供者、メディア、アクティビスト(コンサルタントや527条団体など)の連合からなる政策要求集団(policy demanders)である。すなわち、政治家は彼らのエージェントに過ぎない(Cohen, et.al., 2008, 15)。

 この利害を共有する政策要求者の連合・集団が目指すのは、自らが実現を狙う政策アジェンダを最大限尊重し、取り上げてくれる候補者を擁立・当選させることである(Cohen, et.al., 2008, 31; Masket, 2009, 46; Bawn, et.al., 2012)。このため、政策要求者集団は政党が体現する政策アジェンダを決し、それに相応しい候補者を発掘・擁立し、さらに候補者に資金をはじめとするリソースや選挙でのボランティアなどを提供し、支援する。そして、その見返りとして自らを利する政策アジェンダの実現を政治家に要求するのである(Cohen, et.al., 2008, 30)。

 影の予備選とは、大統領選挙年の最初に行なわれる予備選挙やコーカス(すなわちアイオワ州)以前の時期に候補者が政策要求者集団からの支持を(多くの場合は水面下で)固めていくプロセスを指す(Cohen, et.al., 2008, 5, )。いわば、「フロント・ランナーの地位をめぐって、予備選挙開始の一年以上前から行なわれる非公式の前哨戦」ともいうべきものである。

 この過程において、政策要求者集団がどの候補者を支援(endorsement)しているかが分かれば、どの候補者が優位を固めつつあるのかを窺い知ることができる。Cohenらの分析によれば、影の予備選で早期に支持を固めた候補者が予備選挙やコーカスに突入した段階でも優位に立ちやすいことが指摘されている。

 政治分析サイトであるFiveThirtyEightは独自のウェイト付けをした指標を用いて、候補者に対する支援を分析するためのデータを構築・公開している[5]。表4はそのデータを用いて候補者に対する支援状況をグラフにまとめたものである。

 表4からは民主党のヒラリー・クリントンが354ポイントを獲得して文字通り影の予備選を独走している状況が観取できる。共和党ではジェブ・ブッシュが36ポイント、クリスティが25ポイント、ハッカビーが24ポイントを獲得しているものの、影の予備選で抜きんでた状態に至る候補者は皆無であり、誰も完全な優位を固めるに至っていない状況があらためて浮き彫りになる。

 ちなみに、民主党のバーニー・サンダースは1ポイント、共和党ではフィオリーナが3ポイント、トランプに至っては0ポイントと、影の予備選では「アウトサイダー」の候補が振るわないという傾向も見て取れる。

おわりに

  支持率に注目すると、ジェブ・ブッシュは振るわず、トランプ、カーソン、フィオリーナが優位であるように見受けられる。だが、政治資金を加味して考えるとブッシュとクルーズが好調であり、カーソンも善戦している。他方、ポールやフィオリーナ、あるいはトランプは資金面では必ずしも順調ではないように思われる。ここで影の予備選にも注目してみると、共和党内部ではジェブ・ブッシュ、ハッカビー、クリスティが比較的先行している状況ではあるものの、誰も完全な優位を固めるに至っていない状況が浮かび上がってくる。

 支持率、選挙資金、影の予備選という三つの要素を総合的に加味して考えれば、現在の共和党の候補者レースはまさに一進一退の状況であるといえるだろう。

西川賢  津田塾大学学芸学部准教授
 
【参考文献】
  • Bawn, Kathleen, Martin Cohen, David Karol, Seth Masket, Hans Noel, and John Zaller, 2012.  “A Theory of Political Parties: Groups, Policy Demands and Nominations in American Politics,” Perspectives on Politics, Volume 10, Number 3.
  • Cohen, Marty, David Karol, Hans Noel, John Zaller, 2008. The Party Decides: Presidential Nominations Before and After Reform, the University of Chicago Press.
  • Masket, Seth, 2009. No Middle Ground: How Party Informal Organizations Control Nominations and Polarize Legislatures, the University of Michigan Press.
 
付属資料[6]
 
表1:主要共和党大統領候補者の政治献金の内訳
 
候補者 献金総額 支出総額 個人資産支出 個人献金
小口献金
通常PAC
Trump $1,902,410 $1,414,674 $1,808,797
(95%)
$92,249 $39,174 $0
Carson $10,642,242 $5,896,930 $25,000 $10,610,393
$7,208,909
(68%
$857
Fiorina $2,192,114 $1,204,648 $487,410
(22%)
 $728,424 (33%) $500
Bush $11,429,898 $3,078,087 $368,020
(3%)
$10,978,577
$368,020
$62,600
Rubio $9,794,814 $3,274,203 $0 $8,920,928
$2,062,102
$204,200
Kasich N.A. N.A. N.A. N.A. N.A.
Cruz $14,349,161 $5,821,565 $0 $14,078,316
$5,758,006 (40%)
$20,207
Huckabee $2,004,463 $1,118,992 $0 $1,986,861
$580,271 (29%)
$17,500
Christie N.A. N.A. N.A. N.A. N.A.
Paul $7,563,910 $4,752,264 $0 $5,786,851
$3,430,114
$158,256
Jindal $578,759 $65,044 $0 $573,759
$59,443
$5,000
Santorum $662,224 $438,937 $0 $608,016
$138,618
$0
Graham $3,756,664 $2,895,545 $0 $2,171,281
$149,940
$40,800
Pataki $255,795 $48,175 $0 $255,795
$18,458
$0
Gilmore $0 $6,000 $0 $0 $0
 
表2:主要大統領候補者のスーパーPAC献金総額
 
名称 支持候補 献金総額
Right to Rise Super PAC Bush $103,167,846
Millennials Rising Bush $54,538
Vamos for Bush Bush $0
2016 CMTE Carson $3,827,445
National Draft Ben Carson for President CMTE Carson $2,917,541
BC for a Better Tomorrow Carson $0
One Vote PAC Carson $100,000
America Leads Christie $11,003,305
Ready for Christie Christie $0
JRUZ PAC Cruz $0
Crusaders PAC Cruz $56
Take DC Back Action Cruz $341,069
Keep the Promise I Cruz $11,007,096
Keep the Promise II Cruz $10,000,000
Keep the Promise III Cruz $15,000,000
Keep the Promise PAC Cruz $1,826,500
Stand for Principle PAC Cruz $251,026
Carley for America CMTE Fiorina $3,458,671
Unlocking Potential PAC Fiorina $34,057
Growth PAC Gilmore $193,094
West Main Street Values Graham $22
Security is Strength Graham $2,897,435
Pursuing America’s Greatness Huckabee $3,604,987
Believe Again Super PAC Jindal $3,685,919
New Day for America Kasich $0
We the People, Not Washington PAC Pataki $859,244
Concerned American Voters Paul $1,879,825
America’s Liberty PAC Paul $3,132,596
Forever Free PAC Paul $41,262
Human Action Paul $4,100
Rand PAC 2016 Paul $0
OnlyRand.com Paul $0
Conservative Solutions PAC Rubio $16,057,755
Americans for Marco Rubio Rubio $0
Students for Marco Rubio Rubio $0
Working Again PAC Santorum $0
Hispanic Citizines for Trump Trump $0
Make America Great Again Trump $0
 
表3:主要大統領候補者のリーダーシップPAC献金総額
 
候補者 リーダーシップPAC名称 献金総額
Christie Leadership Matters for America $3,355,840
Cruz Jobs, Growth, and Freedom Fund $203,092
Graham Fund for America’s Future $119,244
Huckabee HuckPAC $887,434
Jindal Believe Again $44,618
Paul Reinventing A New Direction $723,469
Rubio Reclaim America PAC $1,258,027
 
表4:インビジブル・プライマリーにおける支援状況