タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/1/18

アメリカ大統領選挙UPDATE 2:オバマ一般教書演説と対イスラム国政策議論

 

  1月12日、オバマ大統領の8年目の最後の一般教書演説が行われたが、予想以上に現在進行中の大統領選挙に関わる発言をした。当然ながら、その部分が米国内メディアでも注目された。オバマ演説は、現状の大統領選挙の前哨戦の在り方に批判的であり、特にトランプやクルーズなどの非寛容で保守的な共和党候補に対して厳しい物言いをした。

 オバマ大統領は、米国の外交政策はISIL(イスラム国の別称)とアルカイダなどのテロリストからの脅威への対処に集中すべきだが、それで終わっていけない、と指摘。テロリストは、中東、アフガン、パキスタン、中央アジア、アフリカ、アジアでの不安定な地域を、彼らの安全地帯にして行動しているのだから、それらの地域での民族紛争、飢饉、難民対処などにより、平和な地域にしていくことが重要だと述べた。

 これだけでは、おなじみの正論の繰り返しなのだが、オバマ大統領は、「我々の答えは、市民を絨毯爆撃することや、勇ましい言葉を使うことではない」と付け加え、共和党候補のディベートで、イスラム国支配地域に絨毯爆撃をすると発言したクルーズ上院議員やトランプ候補の一連の乱暴な発言を暗に批判することで、自らの発言を注目させた。[1] 

 このような演説は異例でもある。例えば、ブッシュ前大統領の任期最後となる2008年の一般教書演説は、当時も白熱していた大統領選挙前哨戦にはほとんど言及しなかった。当時の筆者のメモには、「レームダック化したブッシュ大統領の演説に一般国民の関心はほとんどなく、メディアの関心を最も集めた瞬間は、大統領選演説の始まる20分前に、民主党の大統領予備選で支持を表明したエドワード・ケネディー上院議員とともに、オバマ上院議員が議会に入場した瞬間と、ライバルのヒラリー・クリントン上院議員が、オバマを支持したケネディー上院議員に会場で挨拶をした瞬間だった」と書かれている。

 筆者がみるところ、今回のオバマ大統領の意図は、大統領選挙に介入しようというよりも、共和党候補の一部のイスラム国対策などでの粗く、現実離れした議論に着目し、自らが行っている地道なテロ対策と対峙させることで、政権への理解を求めようとしたふしがある。

 実際、オバマ政権のテロ、シリア政策は、メディアで展開されている政治的なオバマ政権批判を除けば、専門家によって一定の評価はなされている。特に、シリアでの特殊部隊の行動範囲を広げ、ロシアとの静かな交渉も継続しているオバマ政権の現在の政策に明確な代替案を示すのは実は難しい。

 大統領候補の中で、最も踏み込んだ対イスラム国政策を提案しているのが、ヒラリー・クリントンだ。彼女は、2015年11月19日に行われた外交問題評議会の主催する公開対話で、自らの対イスラム国政策を、詳細にリアリティーをもって語っている。例えば、空爆の効果を上げるために、イスラム国についての情報不足を解消し、シリアでの米国の特殊部隊の活動を拡大させ、イラクにおいて、かつてイラクの治安に劇的な向上をもたらした「スンニ派の覚醒」と呼ばれる現地のスンニ派部族との連携の再強化をはかり、アサド政権の民間人殺戮を止めさせるための飛行禁止区域設定(これは米国としてはかなり軍事的に踏み込むことになる)、さらにはロシアとの連携の可能性を探ることなど、かなり包括的で現実的だ。[2] 

 共和党側でも、マルコ・ルビオ上院議員は、シリアからの難民の受け入れを一旦停止して、バックグラウンドチェックができる体制の強化をする、という提案を別にすれば、軍事予算を拡充してイラク政府への援助を増やし、シーア派主導のイラク政府にスンニ派への配慮を求めたり、シリアでのクルド人勢力の支援を強化したり、アサド政権に対して飛行禁止区域を設けるなど、基本ラインは、クリントン候補とも重複する現実的な政策を語っている。[3]

 オバマの一般演説では、大規模な地上軍派遣がオプションにないことも再確認している。「我々はすべての破たん国家を再建させることはできない。それはリーダーシップではなく、米国人の血と財産を浪費する泥沼であることを、ベトナムとイラクからの教訓から学ばなければならない」と語った。クリントン候補も、「オバマ大統領同様に、10万人の米軍部隊を中東に派遣すべきではないと考えている」と語っており、この部分でも意見の一致はある。共和党候補にも、大規模な地上軍派遣をオプションにいれるものは皆無だ。有権者の抵抗が大きいからだ。

 しかしオバマ大統領にしても、クリントンやルビオ候補にしても、実際の選挙戦で上述のような正攻法の政策を語るだけでは、地味かつ理解し難いため、あまりメディア受けはしない。むしろ、クルーズやトランプのような過激な発言のほうが、関心が集まってしまう。だからといって極論を示すわけにはいかないのであれば、今回のオバマ演説のようにメディアで目立つ極論を批判することで、メディアの関心を得つつ、自分自身の地味だが現実的な政策をアピールするというのは、一つの戦術として有用といえるかもしれない。


渡部恒雄 東京財団上席研究員兼政策研究ディレクター


 
 
[1] White House, “Remarks of President Barack Obama – State of the Union Address As Delivered”, January 13, 2016, https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2016/01/12/remarks-president-barack-obama-–-prepared-delivery-state-union-address 
[2] “Hillary Clinton on National Security and the Islamic State”, November 19, 2015, http://www.cfr.org/radicalization-and-extremism/hillary-clinton-national-security-islamic-state/p37266 日本語訳は「封じ込めではなく、イスラム国の妥当と粉砕を」フォーリン・アフェアーズ・レポート 2016 No.12, pp.70-80.
[3] Marco Rubio, “We Asked Marco Rubio to Lay Out His ISIL Strategy. Here It Is”, Politico, November 19, 2015, http://www.politico.com/magazine/story/2015/11/rubio-isil-strategy-213377#ixzz3xDT4z9s5