タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/5/11

徹底した情報公開で新産業を構築する―オバマ大統領のネット戦略(横江公美)

オバマ大統領の目指す国のかたち
バラク・オバマ大統領は、イラク・アフガニスタン政策が行き詰り、未曾有の経済危機に見舞われたアメリカに、“チェンジ”をもたらすホープとして登場した。世界の期待を一身に集めたオバマ大統領を誕生させたのは、選挙におけるネット戦略であったことは広く知られている。
 
しかし、就任当初の熱狂が冷めた今、オバマ大統領の支持率は低下し大変厳しい状態にある。そのオバマ大統領が、選挙を勝利に導いたネット戦略を使って、起死回生を図ろうとしている。“オバマ大統領の電子政府”の下に、ネットを政権運営にも積極的に活用している。

オバマ大統領が目指す電子政府のキーワードは、“開かれた政府(open government)”と“新しい産業の創造”である。オバマ大統領が目指す電子政府は、まさに、オバマ大統領が目指すアメリカの国のかたちであると言えるだろう。

オバマ大統領の取り組み
2009年1月21日、大統領就任の翌日に、オバマ大統領は電子政府に関する2つの大統領覚書を発表した。1つは先端技術を使って120日以内に政府の透明性を向上させること、2つ目は情報公開法に沿ってネット経由の情報公開をさらに拡充する、という内容だった。この2つの覚書の目的は、ITを活用した行政の透明性(Transparency)、参加(Participation)、協同(Collaboration)の向上である。

この3つのキーワードは、オバマ大統領のネット戦略の基本思想となっており、「開かれた政府(open government)」と総称されている。オバマ大統領は、この基本思想に基づくOpen Government Initiativeを立ち上げ、政権運営の「見える化」を図っている。

さらに、オバマ大統領は、情報公開を推進する政府の最高責任者として、初めて連邦CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)と連邦CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)を任命した。初代連邦CIOはVivek Kundra、初代連邦CTOはAneesh Chopraである。これまで各省庁のCIOとCTOは指名されていたが、それらを統括するCIOとCTOは置かれていなかった。

オバマ大統領は、就任時の一般教書演説でも政府が運営するウェブサイトについて触れている。ホワイトハウスのウェブサイト(www.whitehouse.gov)では、誰が同サイトを訪問したかも含めて、国民に情報開示をしていると説明していた。そして、すべての連邦議員は自分の利益につながる予算要求については、ネット上に公開すべきだと主張していた。

しかも、一般教書演説の模様はホワイトハウスのホームページで生中継された。ホワイトハウスのウェブページは、すでにビル・クリントン政権下で作られていたが、生中継は初めてのことである。ネットにつながる環境さえあれば、国に関係なく、オバマ大統領の一般教書演説をリアルタイムで見ることができるようになった。

さらに、オバマ・サイトではWeb2.0というページを作り、大統領選挙でも活躍したソーシャル・ネットワーク・サービスを利用している。YouTube、フェイス・ブック、ツイッターにリンクするだけでなく、IDも取得して発信もしている。写真を共有するFlickrでは、ホワイトハウスの日常写真がアップされている。

オバマ大統領の電子政府に関する基本思想は、各省庁が運営するあらゆるサイトにも反映されている。ホワイトハウス・サイトはオバマ大統領のネット戦略のプラットフォームとなっている。各省庁の電子政府担当者は、ホワイトハウス・サイトを注視し、真似ていると答えてくれた。

このように、電子政府政策はオバマ大統領にとって重要政策の一つとなっている。

景気回復法と電子政府
オバマ大統領の電子政府ならではの取り組みの1つは、景気回復法サイト(http://www.recovery.gov)である。オバマ政権は、景気回復法案が可決すると、巨額の予算がつく景気回復法の透明化を図るため、Recovery.govというサイトを開設した。

このサイトでは、景気回復法の予算がどのように使われているかが詳細に説明されている。それぞれの州にどれだけの予算があり、既にいくら使われ、そこからどれくらいの雇用が創出されたかという情報まで掲載されている。

例えば、テキサス州を見てみよう。2009年2月17日から2010年3月31日までに受け取った景気回復予算額は約132億ドルで、このうち、現在までに受け取った金額は29億ドル、2010年1月から3月までの3か月間に生まれた新しい雇用は4万4381人と実数で示されている。このサイトは、誰もがこの法律の内容と実際の運用状況を理解できることを目指して運営されている。

どこの国でもどこの州でも例外なく、予算の額が大きければ大きいほど腐敗が起きる確率は高くなる。オバマ大統領は、インターネットを活用し、徹底した情報公開、つまり行政の透明化を図ることで、国民の信頼を得ようとしていると言えるだろう。

景気回復法サイトは大変重要であることから、ホワイトハウス・サイトのトップページの目立つ所に、大きなアイコンが掲載されている。さらに、景気回復法の予算で新規に作られた各サイトには、景気回復法予算で作られたことが明示され、景気回復法サイトと同じように、ホワイトハウスのトップページに大きなアイコンが設けられている。

アメリカでは4月中旬に納税申告が行われる。源泉徴収が主流の日本とは異なり、アメリカでは自己申告が主流である。そこで、景気回復法予算を使って、税金計算と申告を円滑にするサイトが作られている。

景気回復法にも、オバマ大統領の電子政府が入っている。2010年までに、ブロードバンドの環境構築予算として71億ドルを充てることと、医療情報の電子化に190億ドルを投資することが明記されている。

電子政府政策は、このような行政の効率化や人々の生活を便利にすることにとどまらず、以下に見るように、経済成長の役割も担っている。

新しい産業を生む電子政府を目指せ
各省庁の電子政府担当者にインタビューすると、彼らがおしなべて新しい試みとして自慢するのが、2009年6月に公開されたData.govである。Data.govでは、政府が持つ莫大な生データをカタログとして公開している。政府が時々刻々収集する生データは、従来公開されていなかった。こういったデータには国の安全にかかわる機密扱いの情報が多いからである。

一方、これらのデータはビジネスの宝庫であることが、クリントン政権時代に既に証明されている。周知のように、1990年代、クリントン大統領がそれまで防衛目的に収集してきたGPS衛星の情報を公開したことにより、様々なGPS関連のビジネスが生まれた。

例えば、地上の軍隊や飛行中のミサイルに位置を知らせるGPS衛星の情報は、従来、すべてが高度な軍事機密として扱われていた。その一部が開放されたことから生まれたのがカーナビである。その他、船舶の航行装置、動物の生態調査、さらには盗品や行方不明者の位置確認など、様々な分野でGPSの情報が活用されるようになり、計り知れないほど大きなビジネスチャンスを生んできたと言えよう。

オバマ大統領は、政府が持つ莫大なデータ・情報を、ネットを使って徹底的に公開することで、新しいビジネス・産業を誕生させようとしているのである。アメリカ政府は、人類の進歩を標榜し、莫大な予算を使い先端技術を開発する。その環境づくりは、民間ではとうてい及ぶべくもない規模で行われている。 

政府所有のメガ・データの公開が新しいビジネス・産業を生む。これが、まさしく“オバマ大統領の電子政府”の狙いであると言えよう。この取り組みが実を結ぶのはまだ先の話であるが、すでに萌芽はあるようだ。

政府の提供するData.govのデータを活用してサービスを提供する非営利団体が登場している。刻々と変化する飛行機の運航状況を知ることができるFlyOnTime.usというサイトがある。例えば、出発:サンフランシスコ、到着:ニューヨークと入力すると、この2つの都市を結ぶ全ての飛行機の運航状況が掲載される。また、航空機の便名を入れれば、その飛行機の運航状況を知ることができるようになっている。

飛行機を身近な乗り物として利用することの多いアメリカ国民にとっては、非常に役に立つサービスと言えるだろう。ニューヨークとワシントンDCを結ぶシャトル便は、終日1時間間隔で飛んでいる。午前中は比較的スケジュールどおりであるが、夕方になると1時間、2時間と遅れることが少なくないからだ。

おわりに
IT革命以後、それぞれの大統領はそれぞれの電子政府を構築してきた。最初に手掛けたクリントン大統領は、「政府再構築の全国パートナーシップ(National Partnership for Reinventing Government)」というプロジェクトを作り、電子政府を構築することで行政の効率化、つまり予算の削減とサービスの向上に努めた。

1996年には情報公開法を電子情報公開法へと修正し、ネットを使った情報公開を推し進めた。頻繁に資料請求される情報はデータベース化された結果、その情報をネットで請求してネットで受け取れるようになった。

こうして公文書検索の予算を削減していったのである。そして、2000年には、Firstgov.govというアメリカ政府の情報を検索するポータルを立ち上げ、電子政府の礎を築いた。

続くジョージ・W・ブッシュ大統領は、当初、クリントン大統領の電子政府を踏襲し、2001年4月には、「3クリックで欲しい情報に到達できるように改善する。」と発表した。だが、2001年9月11日の連続テロ事件を境に、ブッシュ大統領の電子政府政策は一変する。e-Gov Initiativeという名の下に、安全保障向上のために、政府間の情報共有が推し進められた。

そしてオバマ大統領は、先述のOpen Government Initiativeと呼ばれる新たなる電子政府を構築した。オバマ大統領の電子政府政策が、今後どうなっていくのか注目される。いま言えることは、新しい産業を生み出せるかどうかが、“オバマ大統領の電子政府”成功のカギを握るということであろう。

■横江公美:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、Pacific 21 代表