タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/11/8

アメリカNOW 第61号 中間選挙での民主党大敗とオバマ再選の行方 (安井明彦)

11月2日に実施された米国の議会中間選挙では、予想通り共和党が大きく議席を増やした。しかし今回の結果をもって、「オバマ大統領の再選が難しくなった」と考えるのは早計である。以下では、オバマ大統領の再選に向けた見通しについて、米国での議論を中心に紹介する。

歴史はオバマ再選に好意的

議会共和党の躍進が、オバマ政権の政策運営を難しくするのは間違いない。しかし、歴史を振り返る限り、今回の民主党の敗北を「オバマ大統領が再選に失敗する前兆」と捉えるのには無理がある。これまでの経験では、最初の中間選挙で大敗した大統領は、必ずしも再選に失敗しているわけではないからだ。むしろ第二次世界大戦後でいえば、最初の中間選挙で上下両院の多数党を失った3人の大統領(トルーマン、アイゼンハワー、クリントン)は、いずれもその2年後に再選を果たしている*1

世論調査をみても、オバマ再選への暗雲を見つけ出すのは難しい。ピュー・リサーチセンターが今年の10月下旬に行なった世論調査によれば、「オバマ大統領の再選出馬を期待する」という割合は47%を記録している。50%を割り込んでいるとはいえ、第一期目の大統領について同じような時期に実施された世論調査と比較すると、再選に成功したレーガン(36%)、クリントン(44%)両大統領よりも、オバマ大統領への期待は高い水準にある。一方で、再選に失敗したカーター(50%)、ブッシュ父(53%)大統領の再選出馬を期待する割合は、今のオバマ大統領に対する期待よりもさらに高かった。

オバマはクリントンになれるのか?

米国では、ここからのオバマ大統領の巻き返しを、過去に苦境を跳ね返した大統領との比較で占おうとする議論が目立つ。一つの例がクリントン大統領との比較であり、「1994年の中間選挙での大敗後のクリントン大統領のように、オバマ大統領も中道寄りに路線を転換できるのか」という構図が描かれやすい。

米政治専門紙POLITICOのジョン・ハリス氏は、「クリントン大統領を真似れば良い」という議論に懐疑的だ*2。具体的には、以下の6つの視点が提示されている。

?クリントン大統領の右旋回は、民主党内から厳しい批判を受けた。現在の米国は党派間の意見のかい離がさらに大きくなっており、オバマ大統領が右旋回を試みれば、民主党内から当時以上に強力な批判が噴出しかねない。
?当時のクリントン大統領は、藁にもすがる思いであらゆる外部の意見を聞いて回った。謙虚な自省に基づいてアドバイスを請うのは、オバマ大統領のスタイルではない*3
?クリントン大統領は側近を解雇したが、オバマ大統領にはその気配がみえない。
?そもそも州知事時代のクリントン大統領は、妥協を得意とする現実派の政治家だった経緯があり、中間選挙後の軌道修正には原点回帰の側面があった。同時に、大統領選挙当時に強調していた中間層重視の姿勢を再確認することも、復活のきっかけになった。一方でオバマ大統領には、復活に貢献するような立ち返るべき原則が存在しない。オバマ大統領やその側近には妥協を軽蔑する傾向があり、(政策というよりも)個人のキャラクターを切り札に大統領選挙を戦ってきた。
?クリントン大統領は、1995年のオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件(司令官としての大統領の重要性を有権者に再確認させた)や、共和党のギングリッチ下院議長の稚拙な行動といった「運」に恵まれた。
?実は「クリントン政権の教訓は何なのか」という議論は、当時の関係者の間でも結論が出ていない。「妥協が功を奏した」という意見がある一方で、「原則を譲らなかったのがよかった」という人もいる。

こうした理由からハリス氏は、「(オバマ大統領にとって)クリントン大統領を真似ることは、思われているよりも難しい」と結論づけている。

レーガン大統領の教訓

むしろ関連性を見つけやすいのは、レーガン大統領の例かもしれない。ここで重要な役回りを演ずるのは、景気の動向である。

レーガン大統領の復活は、景気回復との関連性が強い。米ウォールストリートジャーナル紙のジェラルド・セーブ氏は、「(民主党は)経済成長の政治的な美徳を思い出すべきではないか」と指摘する*4。レーガン大統領が復活できたのは、「共和党を『経済成長の党』として米国民に認識させ、結果を実績で示したからだ」というのが、セーブ氏の見立てである。

1981年に就任したレーガン大統領の支持率は、失業率の上昇と歩調を合わせるように低下していった。失業率がピークを記録したのは、最初の中間選挙が行なわれた1982年の11月から12月にかけて(10.8%)。下院で既に少数党だった共和党は、同年の中間選挙で26議席を失っている(上院では共和党が1議席増で多数党を維持)。

ところが、失業率が改善するにしたがって、レーガン大統領の支持率も回復に転ずる。レーガン大統領の支持率が底を打ったのは、1983年の1月(月平均で36.3%)。失業率は再選が問われた1984年11月までに7.2%へと低下し、これに合わせるようにレーガン大統領の支持率は61%にまで回復している。同年の大統領選挙でレーガン大統領は、58.8%の高得票率で再選に成功。下院共和党も16議席を奪回した。

オバマ大統領にとっても、雇用回復の速度と力強さこそが、再選への道筋を大きく左右する要因となる。議会共和党とのやり取りの巧拙にかかわらず、大統領選挙が行なわれる2012年になっても高失業率が続くようであれば、オバマ大統領再選の大きな障害になることは間違いがないだろう。

造反の可能性

オバマ大統領の再選について、歴史が示唆するもう一つの潜在的な障害は、党内からの造反である。過去に再選に失敗した大統領には、予備選挙などで党内からの対立候補に苦労した例がある。カーター大統領は、先ごろ亡くなったケネディ上院議員の挑戦を受けた。ブッシュ(父)大統領の場合、予備選挙では保守派のブキャナン候補に手こずり、本選挙では第三候補のペロー候補に票を奪われた。対照的に、レーガン大統領やクリントン大統領の再選の際には、党内から強力な対立候補は出現していない。

オバマ大統領に関しては、今のところ民主党内からの造反の動きはない。しかし、「党内左派から対抗馬が出るのではないか」という議論がくすぶっているのも事実である。

実際に、今回の中間選挙の直後にも、2004年の予備選挙に出馬したディーン元バーモント州知事について、「オバマ大統領への挑戦を考えているのではないか」という憶測が飛び交った*5。このほかには、先の中間選挙で落選したウィスコンシン州のファインゴールド上院議員なども、本人の否定にもかかわらず、予備選挙でのオバマ大統領への対抗馬としてたびたび名前が挙がっている。

本選挙での第三候補としては、相変わらずブルームバーグ・ニューヨーク市長が取りざたされている。最近のニューヨーク誌には、「第三の候補として出馬したブルームバーグ氏にオバマ大統領が票を奪われ、結果的にペイリン大統領が誕生」などというストーリーまでもが掲載されている*6。ティーパーティー運動に象徴される「草の根の不満」が渦巻く中で、「第三の候補」の参入を誘発する素地が残る可能性は否定できない*7

繰り返しになるが、現時点でオバマ大統領に明白に反旗を翻している民主党の有力者は見当たらない。時間的にも、2012年の大統領選挙への出馬を真剣に考えるのであれば、すでにそれなりの準備を進めていなければならない時期に差しかかっている*8

11月5日に発表された10月の雇用統計では、事前の予想を上回る雇用者数の増加が示された。党内からの造反の動きも今のところは目立たない。少なくとも現時点では、オバマ陣営が再選の見通しを「慎重ながらも楽観的」に捉えていたとしても、特に驚くには値しない。

もちろん、全てがオバマ陣営の思う通りに進むとは限らない。たとえ雇用者数が増加基調を維持しても、失業率は高止まりする懸念が強い。また、オバマ氏自身が証明したインターネットの爆発的な力が、遅れての対立候補参入を容易にする側面もあるだろう。

オバマ大統領の再選準備は、来春には本格化する見通し。中間選挙で議席増を成し遂げた共和党のマコネル上院院内総務は、「最大の仕事はオバマ大統領の再選阻止」と言ってはばからない。中間選挙の衝撃も冷めやらぬ中で、米国政治の目線は早くも2012年を向いている。



*1:今回は上院で民主党が多数党を維持している点が、これらの事例とは状況が違う。第二次世界大戦後の米国では、下院で多数党が交代した際には必ず上院でも多数党が変わっており、今回のような組み合わせは前例がない。

*2:John F. Harris, Can Barack Obama Pull a Bill Clinton?, POLITICO, November 4, 2010

*3:この点に関しては、John F. Harris and Glenn Thrush, The Ego Factor: Can Obama Change?, POLITICO, November 5, 2010が、「オバマ大統領の過剰なまでの自信の強さが、ここからの巻き返しの障害になりかねない」とする議論を紹介している。

*4:Gerald F. Seib, Lessons of Reagan's Rebound, Wall Street Journal, November 2, 2010

*5:Roger Simon, In 2012, Could Dean Beat Obama?, POLITICO, November 3, 2010.既にディーン氏はこの噂を否定している(Jennifer Reading, Howard Dean to Support Obama 2012, WCAX News, November 4, 2010)。

*6:John Heilemann , 2012: How Sarah Barracuda Becomes President, New York, October 24, 2010

*7:安井明彦、議会中間選挙で米国はどう変わるのか? ~妥協と対立の綱引きと、ティー・パーティーの意味合い~、アメリカNOW第56号、2010年10月25日。

*8:2008年の大統領選挙のオバマ陣営の場合、既に2006年の議会中間選挙の前後には出馬を真剣に検討する会合を開いている(David Plouffe, The Audacity to Win, Viking Press, November 3, 2009)。


■安井明彦:東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長