タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/8/26

インターネットとアメリカ政治「ネット選挙先進国アメリカにおけるインターネット選挙運動に関する規制の考え方」(清原聖子)

2013年4月19日、日本では公職選挙法の一部を改正する法律(議員立法)が成立し、15年余りの議論の末にインターネットを使った選挙運動、「ネット選挙」が解禁された。7月21日の参院選は、フェイスブックやツィッターなどソーシャルメディアが活用される初のネット選挙となった。一方、アメリカでは、記憶に残る2008年のオバマ・キャンペーン以前から、積極的にインターネットが選挙運動に利用されてきた。2000年の大統領選挙戦・共和党予備選挙におけるジョン・マケイン候補のインターネットを使った資金調達に続いて、2004年の大統領選挙戦・民主党の予備選挙では、ハワード・ディーン候補が電子メールやブログなどを活用してインターネット上でボランティアの支持を募り、選挙資金を調達する斬新な選挙キャンペーンの手法を切り開いた。大統領選挙のたびに、情報通信技術を駆使した新しい選挙キャンペーン戦術が現れており、いわばアメリカはネット選挙先進国と言える。

ネット選挙に関して取材を受けた経験から言うと、日本のメディアの中にはアメリカのネット選挙には何も規制がない、という認識を持つ人が多い。確かに、アメリカ同様ネット選挙が早くから花開いた韓国と比べればそう見えるだろう。しかし、アメリカでもネット選挙に関して法規制的に何も考えてこなかったわけではない。段階を経てほぼ自由にネット選挙が行われる現状がある。

1950年に成立した日本の公選法がインターネットを使った選挙運動を想定していなかったのと同様に、1971年に成立した連邦選挙資金規制法も、インターネットの選挙運動への利用について考え方を示していたわけではない。連邦選挙資金規正法は連邦公職の選挙について、候補者や政党委員会の選挙献金や選挙資金支出に関する規制を行っている。しかし、アメリカにおけるネット選挙に関する規制の考え方は、同法の改正によるのではなくて、同法の下で2006年3月27日に連邦選挙委員会(以下FEC)が決定した規則に依拠する。そこで本稿は、アメリカのネット選挙を論じる前提として知っておきたい、アメリカではどのようにして自由なネット選挙が可能になったのか、その法的整理、規制の考え方について紹介していきたい。

アメリカでインターネットを選挙運動に利用することに関して最初に問題が浮上したのは、2000年の大統領選挙サイクル(1999-2000年)の時であった。共和党のジョージ・W・ブッシュ(当時テキサス州知事)や他の大統領候補たちは1999年7月、FECに対して、ボランティアから送られる電子メールは、郵便代と同等に認識されるものなのか、それは選挙運動支出として報告しなければならないのか、また、支持者が開設するボランティア・ウェブ・サイトを候補者陣営はどのように扱うべきなのか、というように、電子的コミュニケーション(electronic communications)の取り扱いについて質問を投げかけた*1

そうした要請に対してFECは1999年11月、選挙運動へのインターネットの利用に関して連邦選挙資金規制法の適用可能性を検討するため規則制定案告示(Notice of Proposed Rulemaking on Internet Communications)を発表した。しかし、この当時、FECはいかなるアクションを伴う決定もしないという立場を表明しただけであった*2。その後もFECは数回にわたり意見招請や公聴会などを行い、国民の意見を聞く機会を設けてきたが、その間に、連邦議会では2002年に超党派選挙改革法(Bipartisan Campaign Reform Act:以下BCRA法)が成立した。そして、FECは同法の中で「選挙運動通信(electioneering communications)」の規制に関して最終判断を発表することが求められた。さらにその後、2004年のシェイズ対FEC判決によって、FECはインターネットによる選挙運動がBCRA法の規制範囲に含まれるのかどうか再検討することを要請された*3。ここではシェイズ対FEC判決の説明は省略するが、具体的には、FECの連邦選挙運動規則の中で「広報通信(public communication)」と「全般的選挙運動(generic campaign activity)」の二つの用語の定義について、インターネット上の選挙運動・通信がどのように位置づけられるのか、と言う点を再検討することになった。再びFECは、インターネット通信に関する規則制定案告示を発表し、パブリック・コメントの募集に加え、公聴会を2005年6月28日、29日に開催した。そうして最終的に2006年3月のFEC規則決定へと至ったのである(2006年5月12日効力発効)。

このように段階を追って、ほとんど規制的重荷のない("almost no regulatory burdens"*4 )という現在のネット選挙に対する考え方が議会の立法措置ではなく、FECの判断によって整理されたのである。この点は、議員立法によってネット選挙が解禁された日本と比較して興味深い。以下、同規則改正においてインターネットを使った選挙運動がどのように解釈されたのか、FECの官報(2006年4月12日発行)を参照して概要を説明する。

1.広報通信の定義の見直し
2.全般的選挙運動*5の定義を改訂しないで再周知
3.免責条項の見直し
4.報酬を受け取らない個人のインターネット上の活動に関する例外規定を加える
5.メディアの適用除外の見直し
6.特定の個人によるインターネット活動のための、企業や労働組合等のコンピュータ及びインターネット関係設備を利用する場合についての新たな規定

以上6点がFECの規則改正点である。この中でとりわけ重要な点は、1の広報通信の定義の見直しである。

FECでは、インターネットは他のテレビや新聞などのメディアとは違い、アクセシビリティ、低コスト、双方向性が特徴である、と述べている。FECの規則改正では、インターネット通信の多くは、現状も、今後も、選挙資金規正から免れる、と言うことが確認された。そして、FECは最終規則で、インターネット通信を広報通信(public communication)から除外した*6。広報通信とは、放送、ケーブル、衛星通信、新聞、雑誌、屋外広告装置、大量郵便*7、または電話マーケティングによる一般大衆向けの通信やあるいは、一般大衆向けのいかなる形であるにせよ政治広告を指す*8。ここでポイントになるのは、インターネット広告の取り扱いである。先のインターネット通信のうち、有料で他者のウェブサイト上に広告を載せる場合、たとえば、個人、政党の委員会、労働組織や企業等がバナー広告やビデオ、ポップアップ広告を載せる場合には、これを広報通信とみなすとした。

それではブログはどうなるか。ブログの利用に対する規制には、懸念の声が上がっていた。湯淺は、連邦規則によって包括的なインターネット選挙運動に関する規制が行われて、ブログにおける利用に制約が加えられる恐れがある、という批判があったと指摘する*9。下院議長を務めていた民主党のナンシー・ペロシは、「インターネット上の表現の自由に常に関わってきた。ブロガーがFECの規則に従うことになるという試みを支持しない」と述べていた*10。結局、FECではブログの活動はもともと規制の適用範囲外と捉えていたが、規則制定案告示でパブリック・コメントを求めたのち、最終的な規則において、ブログの活動を広報通信の定義から除外することとした。ここでも重要な点は、ブログのメッセージは他者のウェブサイト上でお金を支払って掲載されているわけではない、という点であった*11

また、日本のネット選挙解禁にあたり大きな争点になっている電子メールの送信についてはどうであろうか。日本では、電子メールは密室性が高く誹謗中傷やなりすましに悪用されやすい、また、悪質な電子メールにより有権者に過度の負担がかかる恐れがある、などを理由として挙げて、今回のネット選挙解禁に関しては、政党と候補者以外の一般有権者は選挙運動用電子メールの送信が禁止された。一方、FECでは選挙運動用電子メールを送信できるものが誰か、ということについて規制はない。またFECは、どれほど大量に電子メールを送信したとしても費用が掛からない、と言う理由から、電子メールを一般大衆向けの政治広告の形態とは捉えていない*12。ビデオクリップのウェブサイト掲載についても、他者のウェブサイト上にお金を支払って掲載するのでなければ、広報通信とはみなされない。FECのマイケル・E・トナー委員長は2006年、「最終的な規則における規制の除外によって、電子メールやリンクをはること、ブログやウェブサイトをホスティングするといったあらゆる形式について、個人によるインターネット活動が保護されることになる。FECがオンライン政治スピーチをどのような方法でも規制するべきではないことが確認された。私はこの結果を強く支持する」と述べた*13

このように、ほとんどの政治的インターネット活動は連邦選挙資金規正法の適用を免れ、インターネット上の有料広告だけが同法の適用を受け規制されると確認されたことに意義がある。ただ、候補者や候補者委員会公認の有料広告の場合、その点を記さなければならないし、反対に候補者公認でない有料広告の場合も、その広告にお金を出した者の姓名、住所、電話番号等を記さなければならない*14

このように、アメリカの場合は、誹謗中傷やなりすましを懸念する日本でのネット選挙をめぐる議論に比べると、いたってシンプルと言えよう。ポイントになるのは、その広告の資金提供元がどこかを明らかにすることである。湯淺は、アメリカの選挙運動の規制は、政治資金規正という点から連邦選挙資金規正法によって行われるものであって、肝心なのは資金の支出方法の規制である、と指摘する*15。そもそもアメリカでは、候補者や政党と全く無関係の者が候補者や政党を支持したり、逆に対立候補者を支持する言動を制約する規制は存在しない*16。しかし、日本では、ネット選挙解禁と言っても、第三者による電子メール送信が禁止されているほか、これまで同様未成年者の選挙運動禁止は変わらない。一方、アメリカでは選挙権のない18歳未満でもボランティアとして選挙運動にかかわることができる。

ネット選挙先進国のアメリカと、安全運転で始まったばかりの日本のネット選挙を比べると、実はインターネットを選挙運動に使うことに対する規制の違いというよりも、選挙運動を行える主体は誰なのか、公平、公正な選挙を行うために政府はどのように管理、規制していくのか、といった、より根本的な選挙運動に対する捉え方の差異に注目する必要があるだろう。そしてもう一つ興味深い点は、アメリカのネット選挙の規制に関する考え方の整理は、これまで見てきたように、議会ではなく、FECによって進められてきたことである。ただ、そのFECもあくまで連邦選挙資金規制法をモニターすることが役割であるため、ネット選挙といっても、2012年の大統領選挙戦で問題視された、スマートフォンの選挙用アプリによって有権者の位置情報などを情報収集する問題、すなわち有権者のプライバシー問題に関して介入してくることはないだろう、という指摘もある*17

*参考文献:清原聖子、前嶋和弘編著『ネット選挙が変える政治と社会―日米韓に見る新たな「公共圏」の姿』、慶応義塾大学出版会、2013年9月刊行予定。


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*1: Amy Keller, “Bush Campaign Wants Commission To Clarify Internet”, Roll Call, (Jul 15, 1999).
*2: Federal Election Commission, Use of the Internet of Campaign Activity, Vol.64, No.214 Federal Register 60360 (November 5, 1999).
*3: 湯淺墾道、「アメリカにおけるインターネット選挙運動の規制」、『九州国際大学法学論集』第17巻第1号、2010年、79頁。
*4: Federal Election Commission, Internet Communications, Vol.71, No.70 Federal Register 18590 (April 12, 2006).
*5: 全般的選挙運動とは、政党を後援するものであって候補者または非連邦候補者を後援しない選挙活動をいう。以上、湯淺、80頁を参照。
*6: Federal Election Commission, supra note 4, at 18589.
*7: 大量郵便とは、合衆国郵便またはファクシミリを用いて500通または実質的に同様とみなされる内容を30日以内に送付するもの。以上、湯淺、80頁を参照。
*8: Federal Election Commission, supra note 4, at 18591.
*9: 湯淺、83頁。
*10: US Fed News Service, Including US State News, “Rep. Pelosi: Allen-Bass Internet Free Speech Act Protects Bloggers, Campaign Finance”, March 15, 2006.
*11: Federal Election Commission, supra note 4, at 18595-18596.
*12: Federal Election Commission, supra note 4, at 18596.
*13: US Fed News Service, Including US State News, “State Dept. : Most Online Activities Exempt From Campaign-Finance Limits”, (April 12, 2006).
*14: §110.11 Communications; advertising; disclaimers (2 U.S.C 441d). (http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/CFR-2011-title11-vol1/xml/CFR-2011-title11-vol1-sec110-11.xml)
*15: 湯淺、78頁。
*16: 同上。
*17: Colin Rogero氏(Revolution Media Group, President)へのインタビュー、2013年3月21日実施。

■清原聖子:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、明治大学情報コミュニケーション学部准教授