タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/11/2

ワシントンUPDATE トランプ現象と共和党の将来

 ポール・J・サンダース

センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事

東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー 

 

    10月23日に発表された統計分析によると、共和党候補のドナルド・トランプ氏が11月8日に実施される大統選挙で勝利する可能性は14.1%しかないとされる。[http://projects.fivethirtyeight.com/2016-election-forecast/]この信頼されている分析をみると、米国の政治エリートは(そしておそらく多くの外国政府も)エスタブリッシュメント候補であるヒラリークリントンが勝利するということに安堵するだろう。しかしこれで安心しきってしまうべきではない。

    仮に前国務長官のクリントンが勝った場合、多くの共和党の政治家と共和党幹部はトランプ支持から離脱し、2016年の選挙はまるでなかったことにするか、あるいは一回だけの異常な事態だったと振る舞うだろう。トランプの攻撃的で物議を醸しだす発言から自らを遠ざけたい、あるいは大敗北から早く立ち直りたいと思うからである。しかし、トランプ現象を消してしまいたいと願っても、それはそう簡単なことではない。なぜなら、とりわけ、トランプに投票した有権者たちは今後も米国政治の中で重要なファクターであることに変わりがないからだ。

 

選挙後も重要なトランプ支持者

    トランプ支持者が重要だという現実は、フロリダ州の米連邦上院議員の再選のために立候補している、今回の共和党予備選での大統領候補の一人だったマルコ・ルビオが、トランプ支持者の支援なしに当選できない状況にあるという事実が明白に示している。共和党予備選を通して、トランプはルビオを「リトル・マルコ」と呼んで軽視していたことなど、ルビオがトランプに敵意を持っている理由は枚挙にいとまがないが、ルビオはトランプ支持者をそでにする余裕はない。またフロリダであろうと、他のどの州であろうと、将来の共和党候補者たちは、トランプが政治の世界に留まるのかどうかにかかわらず、トランプ支持者たちを必要とするだろう。これは、党のイデオロギーや綱領をますます不明確にし、党内の亀裂を深める結果になりそうだ。

    ポール・ライアン下院議長等の共和党の指導者たちは、これまでの政策への取り組みや姿勢を維持しようとしているようだ。これはさほど驚くべきことではない。共和党主流派の政治家と活動家たちは、トランプ出現以前の共和党を作ることにそのキャリアや人生までを投資してきたからだ。彼らにとって不運だったことは、自らの党の支持基盤にある怒りのうねりに対して、うまく呼応することに失敗したことだ。しかもその怒りは、しばしば、彼らが票を勝ち取るため、自らで種をまいて育ててきたものなのだ。

    2010年、憤慨したティーパーティーの支持者たちが、共和党の予備選で現職候補らを打ち負かしたことで一部の共和党幹部を刺激した。共和党の指導者たちはその怒りの根本的原因である有権者が日々の政策で抱えている問題について、掘り下げて取り組むことはせずに、むしろ実行不可能だと自ら分かっている途方もない約束を、さらに倍増させてしまったために、有権者の怒りに対応することに失敗した。最も基礎的なレベルで、共和党の政治家たちは有権者の実質的な懸念を満足させるために、(そこから関心をそらすような保守的価値感や小さな政府イデオロギーなどの)象徴による政治で対応を試みた。だが、これは本質的に長続きするものではなかった。

    もし党の結束を保ちつつ選挙に勝利したいのであれば、2017年の共和党指導者は、これまでどおりの党の日常活動に復帰するというような余裕はないはずだ。雇用、移民、教育、保健医療と他の日々の問題について、現実に即した立法課題に取り組む必要があるだろう。そして、もしこれまでのトランプの成功が何かを示しているとすれば、それは共和党の有権者たちの多くは、内政・外交両面において、結果を残せなかった共和党イデオロギーの正当性への執着などではなく、(トランプの資質は別として、彼が問題提起をした)有権者等が機能していないと考えている(国家・社会の)構造を修復することに関心があるということだ。

2018年中間選挙と2020年大統領選挙を見据えて

    共和党にとっての難題は、2018年の中間選挙を前にして、すでに時計の針は動き始めていることだ。1つの予測として、共和党員はクリントン政権に反対するために、今より結束して上院や下院で議席を増やす努力をするだろう。(もし、トランプが残りの二週間で劣勢を逆転し勝利した場合は、民主党議員に対してより強い立場を得るために)しかし別の面から見れば、2018年の共和党の上・下院候補者たちがどのような選挙運動を進めるか、そしてどの程度、主流派寄り、あるいはトランプ型の候補者になっているのかが現時点では予想できないため、野党としての共和党の結束は、ダイナミックでありながら脆弱なものになるかもしれない。

    11月8日の投票後、政治家、世論調査専門家、選挙ストラテジストはすぐに州や選挙区レベルでの調査分析を始めるだろう。トランプにどこまで票が集まるかは別として、かなりの地域で、トランプのメッセージに対して明らかな共鳴があったのは事実だ。2018年にそのような地域から出馬する共和党候補者は、トランプの政治的メッセージの要素を取り入れることに強いインセンティブがある。実に、トランプの奔放な選挙キャンペーンと彼の候補者としての個人的な欠陥によって、むしろ彼のメッセージは人々をより惹きつけたのかもしれない。しかし中には、トランプ本人以上に効果的に選挙キャンペーンを進めることができると計算する候補者もでてくるだろう。

    共和党指導者たちは、今回の予備選と同じような結果にならないように、2020年の大統領予備選の候補者選びのプロセスを、民主党が党幹部の声が強く反映する特別代議員制度で行っているような、予備選挙の改定を求めるかもしれないが、もし私の評価が正しいとすれば、今回の2016年共和党予備選での候補者の選ばれ方は、2018年と2020年およびその先に実施される議会選挙での州と選挙区レベルの予備選挙、さらには2020年の共和党大統領の予備選挙における原型となるのではないだろうか。

    科学・技術でいえば、最初には重要な発見があり、その後は、新しい機械を作るためには、エンジニアリング(工学)と改良が必要となる。最初のオリジナルな発見が一般的には難しい部分だ。しかしトランプの場合はほとんど偶然ではあるが、共和党エスタブリッシュメントからの評判を気にせずに、ほとんどを自己資金で賄える候補者であったために、彼は自分のやりたいように、大統領選挙戦を展開する事ができた。反エスタブリッシュメントの代表であるデッド・クルーズ上院議員でさえもそう大胆にはできなかった。

    以上のようにみると、来る2018年と2020年は共和党の「精神」をめぐる真剣な闘いとなるべきことが予想される。共和党は、全米の州、選挙区、郡や市などのすべてのレベルで、長期的にコストもかけて、地上戦(草の根の選挙活動)を展開すべきだろう。仮に共和党指導者が十分な活動もせずに勝てると思っているのであれば、不愉快な不意打ちを食らうはずだ。

 

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