政策研究「生命倫理を公共政策に―サロン4年間の成果と課題―」(全文)

 

東京財団では、専門家による「生命倫理の土台づくり」研究プロジェクトの成果を踏まえ、生命倫理をテーマに多様な価値観を公共の規範形成につなげるための公論の場として「生命倫理サロン」を4年間27回にわたって開催してきた。ここでは、臓器移植、再生医療、生殖補助医療、出生前診断など、次々と現われる先端医療が社会にもたらす問題を、専門家と非専門家が膝を交えた語り合い、医学・技術面の現状と問題点の把握を超えて、生死を巡る人の欲望とどう向き合い、いかに御していくかについて市民一人ひとりが何を考えなければいけないのか、社会全体でどう対応したらよいのかについて、自由かつ率直に議論を重ねてきた。本報告書は、サロン4年間の集大成としての記録である。

科学技術の進歩によって、生と死を対象とした、人間が社会において互いに共存していくための主体的行動規範である生命倫理そのものが揺らいでいる。医師と患者のその場の当事者だけの判断では済まない影響を社会に及ぼす課題が存在する。こうした課題については、何か事件が起きたから考えるといった帰納的な姿勢ばかりではなく、より演繹的に社会の合意を形作る公論の場が必要である。

公論の場をつくるにあたっては、専門家と非専門家が対等に対話できる環境整備も必要だ。いずれかの主義主張に偏るのではなく、あらゆる視点と論点を持つことも求められる。政府も一つのステークホルダーであるが、必ずしも中立の存在ではなく、一人ひとりの市民自身がパブリックを担う社会づくりに参画する視点に立てば、ここに独立した政策シンクタンクである東京財団が公論の場をつくる意義があるだろう。

これまでのサロンの積み重ねを通じて、あそこに行けば、専門家と非専門家、様々な立場や考えをつなぐ場として、誰にも開かれた対話があるという認識が多くの関係者の中で拡がりつつある。公論の積み重ねから見えてきた次なるチャレンジを明らかにし、生命倫理を公共政策の一つの分野として確固たるものにしていくため、引き続き、政策シンクタンクとして東京財団は様々な取組みを行っていく。

 

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