タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/6/10

【Views on China】中国経済の現状と景気テコ入れ策



日中産学官交流機構特別研究員

田中 修

はじめに

 本稿では、4月までの経済動向と、政府及び党中央の経済情勢判断及び景気テコ入れ策を紹介する。

1.1-3月期の主要経済指標

1-3月期のGDPは12兆8213億元であり、実質7.4%の成長となった。第1次産業は7776億元、3.5%増、第2次産業は5兆7587億元、7.3%増、第3次産業は6兆2850億元、7.8%増である。第3次産業のウエイトは49.0%であり、前年同期比で1.1ポイント高まり、第2次産業より4.1ポイント高かった。

1-3月期の消費者物価上昇率は前年同期比2.3%であった。1-3月期の新規就業者増は344万人で、前年同期よりやや多かった。3月末の都市登録失業率は4.08%であった。1-3月期の都市住民1人当り平均可処分所得は前年同期比実質7.2%増、農民1人当り平均現金収入は同実質10.1%増であった。 この1-3月期の指標が、マクロ経済政策の判断についてどのような意味合いをもつかについては、3.で解説する。

2. 4月の主要経済指標

 足元までの主な経済指標の動きは以下のとおりである。



(1) 消費者物価指数(CPI)前年比

(2) 鉱工業生産付加価値(実質)前年同期比

(3) 消費財小売総額(名目)前年比

(4) ①輸出額前年比 ②輸入額前年比

(5) マネーサプライ(M2)期末伸び率

(6) 都市部固定資産投資前年(同期)比

(7) 不動産開発投資前年(同期)比

 

これを見ると、1-2月期に比べ、3月は指標がやや好転したものの、4月は再びダウンしており、経済は一進一退の状況が続いていることが分かる。

3.国務院及び党中央の経済情勢判断

以上の経済指標の動向に対して、国務院・党中央はどのように経済情勢を判断しているのであろうか。

(1)マクロコントロールの刷新

3月の全人代政府活動報告で李克強総理は、2013年にマクロコントロールの考え方と方式を刷新したことを強調した。経済情勢の大きな変動に対し冷静さを保ち、「安定成長、雇用維持の下限とインフレ防止の上限を明確に固守し、経済が合理的区間で運営されていさえすれば、発展方式の転換と構造調整に精力を集中してしっかり取り組み、手を緩めず、マクロ政策の基本方向を動揺させないことを維持した」とする。

 具体的には、「昨年上半期、輸出が大幅に変動し、経済が持続的に下降し、中央財政収入には一度、長年にも稀なマイナス成長が出現し、インターバンク短期市場金利が一度異常に上昇して、国際的に中国経済は『ハードランディング』する可能性があるとの声が出現した」。だが、「短期的な刺激措置を採用せず、(財政)赤字を拡大せず、マネーを過剰に発行せず」に経済を合理的な区間におさめ、市場に「精神安定剤」を飲ませたとしている。 この、経済運営に上限目標(インフレ率)と下限目標(経済成長率・雇用)を設定し、経済がこの範囲内にあれば発展方式の転換と構造調整に集中し、安易に短期的景気刺激策を発動しないというマクロコントロールの新たな方式は、就任以来李克強総理が強調していたものである。

(2)経済指標との照合

政府活動報告では2014年の諸目標につき、年間成長率7.5%前後、インフレ率3.5%以内、都市新規雇用増は1000万人以上、都市登録失業率4.6%以内と定められた。3月13日、李克強総理は内外記者会見において「(成長率の予期目標は)弾力性があり、やや高くても、やや低くても、我々は容認する。我々はGDPを一面的に追求しない」としており、雇用や個人所得の伸びが順調であれば、7.5%の達成にこだわらないことを示唆している。

 これを現在の指標と比べてみると、1-3月期の成長率は7.4%であるが、「7.5%前後」の範囲であろう。インフレ率は問題ない。雇用統計も都市登録失業率は目標内であり、都市新規雇用増は年間目標の4分の1を達成している。所得の伸びについては、経済成長率と同歩調の実現に努力することになっているが、都市住民の可処分所得が経済成長率に達していない。

(3)国務院の経済情勢判断

1-3月期のGDP発表を受け、李克強総理は4月16日国務院常務会議を開催し、1-3月期の経済情勢を分析、検討した。国務院の経済情勢判断は以下のとおりである(新華網北京電2014年4月16日)。

「今年1-3月期、わが国経済のスタートは平穏であった。経済成長率、雇用及び物価等の主要経済指標は年度の予期目標の範囲にあり、上限及び下限を超えてはいない。経済運営は引き続き合理的な区間を維持している。

 経済構造には積極的な変化が現れ、サービス業の成長の勢いは減退せず、都市住民および農村住民の所得は比較的速い伸びを実現した。重点分野の改革は新たな進展を得て、発展のために新たな動力を注入した。

 同時に、現在経済成長に下振れ圧力が以前存在し、一部の困難が軽視きないことをも見て取らねばならない。冷静さを維持し、奮発して成果を挙げ、進んで任務を担い、真剣に実務に励み、『政府活動報告』が確定した各任務を実施に移さなければならない。安定成長を統一的に企画し、改革促進、構造調整及び民生優遇を堅持し、有効な供給増加に力を入れ、新規需要増を不断に満足させ、潜在リスクの防止と解消に注意を払い、多方面の共同努力を通じて、年間経済社会発展の予期目標及び任務の達成を確保しなければならない」。

(4)党中央政治局の経済情勢判断

習近平総書記は4月25日党中央政治局会議を開催し、当面の経済情勢と経済政策を検討した。政治局の経済情勢判断は以下のとおりである(新華網北京電2014年4月25日)。

 「今年に入り、全党全国は党中央の政策決定、手配に基づき、安定の中で前進を求め、改革とイノベーションを行うことを堅持し、困難と試練に積極的に対応し、深層レベルの矛盾の解決を推進してきた。各方面の施策は着実に推進され、経済発展のスタートは総体として平穏であり、経済運営は合理的区間を維持している。

 1-3月期の経済成長率は年度予期目標の範囲にあり、雇用情勢は総体としてかなり好く、物価水準は基本的に安定し、貿易収支の状況はある程度改善し、財政収入、企業収益、個人所得の状況は比較的好い。(中略)

 経済情勢は総体として、マクロコントロールと発展予期に合致している。

 当面の経済政策は少なからぬ困難とプレッシャーに直面しており、わが国の経済発展の外部環境には依然としてかなり大きな不確定性が存在し、経済成長の下振れ圧力が依然存在し、いくらかの困難は低評価できず、潜在リスクには高度に注意を払う必要がある。

 わが国経済発展のファンダメンタルズには変化はなく、引き続き安定の中で前進を求める政策の全体的な基調を堅持し、安定成長、改革促進、構造調整、民生優遇及びリスク防止の関係を統一的に企画してうまく処理しなければならない。マクロ政策の連続性と安定性を維持し、財政政策と金融政策はいずれも現行の政策基調を堅持し、良好な発展の予期と透明なマクロ政策の環境を創造しなければならない。

 マクロ政策を安定させ、ミクロ政策を活性化し、社会政策により底固めするという基本的考え方を堅持し、情勢の変化に基づきその内容を適時調整し、年間を通した経済社会発展各項目の所期目標の実現に努力しなければならない」。

4.当面の景気テコ入れ策

 以上の経済判断に基づき、李克強総理は4月2日と16日に国務院常務会議を開催し、当面の景気テコ入れ策を決定した。以下は対策の概要である(新華網北京電2014年4月2日、同4月16日)。経済はなお合理的区間にあるとの判断のもと、大型の景気刺激策は発動されていない。

(1)小型及び零細企業への所得税優遇政策拡大の検討

 小型及び零細企業は起業を促し、雇用を維持し、市場を活性化させるための強力な新勢力である。会議では、更に税負担を軽減し、小型及び零細企業の成長を助力する措置を検討し、小型及び零細企業の企業所得税課税を半減する優遇政策の実施範囲の上限を、現行の課税対象年間所得額6万元から更に大幅に引き上げ、かつ政策の終了期限を2016年末まで延長することを提起した。

(2)バラック地区改造への開発金融支援の役割を一層発揮

 バラック地区の改造を加速し、億万の住民を早期に「バラック地区から建物に移す」ことは、民生改善のハードな任務であり、投資を有効に牽引し消費を促進することもでき、人を核心とした新しいタイプの都市化の重要な内容である。

今年はバラック地区の改造を更に大規模に推進し、資金保障というかなめの問題にしっかり取り組まなければならない。政策支援と市場メカニズムを有効に結びつけ、とりわけ国家の信用に依拠し、国家戦略に奉仕し、資金運用において元本保証かつ低利である開発金融の「輸血」作用を好く発揮させ、バラック地区改造のために合法、操作が便利、コストが適切、資金源の安定した資金調達ルートを早急に提供し、バラック地区改造任務の資金需要を保証し、資金コストの低下に努力しなければならない。

 国家開発銀行は専門機関を設立し、独立採算制を実行し、市場化方式を採用して住宅金融特別債券を発行して、郵貯等金融機関とその他投資家から資金を集め、商業銀行、社会保障基金及び保険機関等の積極的参加を奨励し、バラック地区の改造及び都市インフラ等関連プロジェクト建設に重点的に用いる。

(3)鉄道投融資体制の改革と鉄道建設の加速

 鉄道とりわけ中西部鉄道建設の加速は、有効な投資を拡大し関連産業の発展を牽引できるのみならず、新しいタイプの都市化、未発達地区の発展環境の改善、千百万人の貧困脱出支援に資するものである。今年、全国鉄道は新規投資建設6600キロ以上が見込まれ、昨年より1000キロ余り増えており、うち国家投資の80%近くが中西部地域に向けられている。

 鉄道投融資体制改革を深化させ、建設資金を集め実施する政策措置を次のように確定する。

①鉄道開発基金を設立し、建設資金源を拡大する

 社会(民間)資本の投入を吸収することにより、基金の総規模が毎年2000-3000億元に達するようにする。

②鉄道建設の債券発行の品目と方式を刷新する

 今年は社会(民間)に向けて1500億元を発行し、鉄道債券投資への所得税優遇政策を実施する。

③銀行等金融機関が鉄道建設を積極的に支援するよう誘導し、社会(民間)資本の投資規模を拡大する

④鉄道が担う公益的かつ政策的輸送任務に対し、中央財政は一定期間補助を与え、規範的な補助制度を徐々に確立する

⑤統一的な企画と協調を強化し、プロジェクト建設の順調な実施を保証する

 既に許可の下りたプロジェクトの全面着工を早急に推進し、後続プロジェクトの前期分の建設をできるだけ速く展開し、鉄道建設投資の安定的な伸びと鉄道建設の早急な推進を確保する。

(4)「三農」への金融支援

 「政府活動報告」が提起した「三農」問題をしっかり解決することを全活動の重点中の重点とするという要求に基づき、金融の改革とイノベーションを推進し、「三農」発展に対する金融支援を強化することは、食糧安全保障、現代農業の建設、農民所得の増加、都市と農村格差の縮小にとって重要な意義を有する。

①農村金融サービスの主体を豊富にしなければならない

 農村信用社等の金融機関改革を分類して推進し、村鎮銀行を育成及び発展させ、民営資本の持株比率を引き上げ、農業産業投資ファンドの設立を奨励し、「三農」へのサービス能力を整理統合し拡大する。

②農業関連資金の投下を増やさなければならない

 要求に適合した県域農村商業銀行、合作銀行に対して、預金準備率を適切に引き下げる*1 。県域銀行に預金の一定比率を現地に投下させる政策を実施する。

③農村のインクルーシブな(あまねく恩恵が及ぶ)ファイナンスを発展させなければならない

 貧困支援貸出補助政策を整備する。辺鄙な郷鎮を基礎的な金融サービスが100%カバーすることを推進する。

④現代農業発展の重点分野に対する貸出支援を増やさなければならない

 農業保険の保険料補助政策を整備し、大災害のリスク分散メカニズムを確立する。

⑤農村金融市場を育成しなければならない

 農業機械のファイナンスリースサービスを展開し、抵当及び担保の方式を刷新し、農村財産権の取引市場を発展させる。

⑥政策支援を増やさなければならない

 農業関連の貸付に対する財政奨励、農家への小額貸付に対する税制優遇、農村に対する貸付の損失補償等の政策を整備し、金融リスクを確実に防止する。

 農業関連の金融機関は全て政策が深く行き渡るよう努力し、農業から離れることなく、農業に多く恩恵を及ぼさなければならない。

(5)雇用

 雇用の維持は、安定成長の重要目的であり、民生優遇の基本内容である。大学等卒業生、一時帰休及び失業者、障害者等重点対象者の起業と就業を更に促進するため、小型及び零細企業の発展を支援する。

 2013年末に期限が到来した重点対象者の起業と就業を支援、促進する租税政策を2016年12月31日まで延長し、更に整備する。

①優遇政策を享受する業種及び人員の範囲制限を取り消す

 登記後1年以上失業している人員については全て税制優遇を与える。

②課税控除の上限を引き上げる

 個人経営に従事し、あるいは企業が雇用を吸収した場合には、国家が予定税額を控除するほか、地方政府は規定に基づき過去に比べより大きい税制優遇を与えることができる。

③税及び費用控除の種類を増やす

 地方教育付加金を減税範囲に組み入れる。

④手続を簡素化する

 税制優遇政策の管理を審査、許認可から届出制に改め、更に良好な起業及び就業環境を作り上げるよう努力する。

5.今後の見通し

 主要経済指標の動向を見る限り、内需、外需とも力強さに欠け、中国経済は一進一退状態を続けている。しかしながら、国務院及び党中央としては、経済は合理的区間内にあるとして、本格的な景気対策を発動せず、鉄道関連投資と、小型及び零細企業、バラック地区、三農、雇用といった弱者対策を中心とした景気テコ入れ策を発動するにとどめている。

 この背景には、現在中国経済が地方財政の債務拡大、銀行貸付以外の委託貸付、信託貸付、債券発行といったシャドーバンキングの拡大、鉄鋼、造船、セメント、アルミ、板ガラス、風力発電及び太陽光パネルといった業種の生産能力過剰という大きなリスクを抱えており、安易に景気対策を発動すればこのリスクが拡大及び顕在化することを恐れているのであろう。

 今後の動きとしては、7月16日予定の4-6月期GDP発表に向け、政治局常務委員の地方視察、総理主催の経済情勢座談会等が頻繁に開催され、各方面の要望を吸収しつつ、年後半の経済政策のあり方が国務院及び党中央で議論されることになる。もし4-6月期の成長率が更に落ち込めば、本格的な景気対策の発動、構造調整及び改革先送りの圧力が増大することになろう。最終的に、7月末の党中央政治局で方針が明らかにされるが、この内容が昨年11月の党3中全会決定に盛り込まれた改革項目の行方にも大きな影響を与えるものとみられ、注目される。

*14月25日、人民銀行は県域農村商業銀行の預金準備率を2ポイント、県域農村合作銀行の預金準備率を0.5ポイント引き下げた。