タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/9/27

【Views on China】中国対外政策における強硬手段と融和的姿勢

 

東京財団 政策研究調整ディレクター兼研究員

小原凡司

 

1 南シナ海における中国の強硬姿勢

 2016年9月12日から19日の間、南シナ海において、中ロ海軍合同演習が実施された。「海上連合」と呼ばれるこの中ロ海軍合同演習は、2012年から毎年行われているが、南シナ海で実施されるのは初めてである。ロシア海軍からは、2隻のウダロイ級駆逐艦及び大型揚陸艦等が参加したが[1]、格別に規模が大きいという訳ではない。

 問題は、演習が行われたのが、南シナ海だということである。南シナ海は、中国が岩礁等を埋め立てて建設した人工島の軍事拠点化を進め、日本や米国、東南アジア諸国が懸念を深めている海域だからだ。

 同年7月12日に、ハーグの常設仲裁裁判所が下した司法判断は、中国の南シナ海における主張を全面的に否定するものであった。しかし、この司法判断が出される以前から、中国は一貫してこれを無視する構えを見せてきた。戴秉国元国務委員が国際会議でこれを「紙屑」と呼び[2]、王毅外交部長(日本で言う外務大臣)はケリー国務長官との電話会談で仲裁裁判所の判断を「茶番劇」と切り捨てたのである[3]

 この司法判断が下された翌日の7月13日、中国は「中国は議論を通じた中国とフィリピンの南シナ海における争議の解決を堅持する」と題した政府声明において、「国内法と国際法に照らして、中国の南シナ海の諸島は、内水、領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚を有する。この外、中国は南シナ海に歴史的権利を有する」と主張した[4]

 中国にとって、南シナ海問題は自身の安全保障に関わる問題なのだ。中国が経済発展を追求すれば、米国が自国の権益を守るために軍事的手段を用いて中国を攻撃する可能性があると、中国は考える。こうした中国側の主張に基づけば、中国による南シナ海の実質的な領海化及び人工島の軍事拠点化は、米国に対して防御的であると言うこともできる。

 しかし問題は、中国が自国の安全保障の問題だと主張しても、強硬な行動をとれば、周辺諸国に被害を及ぼし、国際秩序に対する暴力的な挑戦になるということである。

 

2 中国にとっての南シナ海の意義

 中国が米国の妨害を恐れるのは、国際秩序を変更しようとしているからだ。中国は、「国際社会には不公正で不平等な現象が突出している」と公言し続けている[5]。中国が、不公正であり不平等であると主張するのは、発展途上国の経済発展を阻む国際的な経済ルールである。中国が思うように経済発展できないのは、欧米が主導してきた国際経済ルールが中国にとって不公平であるからだと申し立てているのだ。

 そして習近平主席は、2015年9月3日に北京において実施された「中国人民抗日戦争及び世界反ファシスト戦争勝利70周年記念観閲式」における講話の中で、「協力とウィンウィンを核心とする新型国際関係を積極的に構築する」と宣言した[6]。既存の国際関係に挑戦するということであれば、米国を主とする先進諸国の抵抗は必至である。

 中国は、米国等の妨害には軍事的手段が含まれると考えている。そのため、国防白書でも述べているように、経済活動には軍事力による保護が必要であると考えるのだ[7]。中国には、「屈辱の100年」という表現が示すように、弱者は大国から搾取されるという被害者意識が存在する。大国から搾取されず、自らが経済発展するためには、米国に勝る軍事力を保有しなければならないと考える[8]。一方で、中国は、第二次世界大戦の勝者であり、戦後国際秩序の構築に関わる権利を持つとも考える。

 中国にとって、国際関係は大国間のゲームである。いわゆる攻撃型現実主義者は、「既存の覇権国は台頭する潜在覇権国に対して攻撃の動機を持つ」と考える。中国は、その信奉者であるかのように、米国とロシアの脅威に対抗しようと振る舞ってきた。その背景には、被害者意識と権利意識が入り混じった、中国の強い意志が働いていると考えられる。

 米国の妨害があっても、中国は対外的な経済活動の拡大を止める訳にはいかない。多くの人々が豊かになる前に経済発展が止まれば、中国社会の安定は損なわれ、共産党統治の正当性を失いかねない。現段階で、米国との戦争に勝利できない以上、米国との軍事衝突は避けつつ、米国主導の経済ルールを変えていかねばならない。南シナ海の実質的な領海化は、中国にとって対米抑止を確実にするものだ。そして、中国のいう陸上と海上のシルクロード、いわゆる「一帯一路」における米国との軍事プレゼンス競争を有利にするためのものでもある。

 

3 尖閣諸島を巡る中国の挑発的行動

 中国にとって尖閣諸島の問題は、危機感を持って軍事拠点化を進めなければならない南シナ海に比較すれば、優先度は低いように見える。しかし、中国は、尖閣諸島周辺でも、挑発的行動を繰り返している。

 8月5日から、尖閣諸島周辺に大量の中国漁船と公船(中国政府に所属する船舶)が現れ、繰り返し、尖閣諸島周辺領海に侵入した。8月26 日午前8時までに、最大15 隻の中国公船が同時に接続水域に入域し、延べ36 隻が領海に侵入したのだ[9]。尖閣諸島周辺接続水域内で漁業活動を行った中国漁船は、200~300隻にも及ぶ。これに先立つ6月9日、中国海軍艦艇が初めて尖閣諸島周辺接続水域に進入した[10]

 歴史問題だと主張する以上、中国は尖閣諸島に対する領有権の主張を取り下げることはなく、日本の実効支配を崩す行動を止めることは考えにくい。中国は、日本及び米国との軍事衝突に至らない範囲で、尖閣諸島周辺海域における優勢を高めるという、いわゆる「サラミ・スライス」戦略をとってきた。

 その理由の一つは、2016年7月に常設仲裁裁判所が下した司法判断に関係している。自らに関係がないにもかかわらず、日本が南シナ海問題に口を出すのは別の目的があるからだと、中国は認識している。その目的とは、東シナ海における中国の軍事行動を抑制するために、中国をけん制することである。

 新華社の解説記事は、「日本が国際社会を煽って中国を孤立させる一方で、日本が南シナ海に進出する野望を実現させると同時に、中国を南シナ海問題で手いっぱいにさせることによって、東シナ海における中国の圧力を軽減しようとしている」と主張する[11]。意見交換をした中国の研究者は、その反発を示すのが、尖閣諸島周辺における公船等の行動の活発化なのだと言う。実際、7月12日以前から、尖閣諸島周辺海域における公船の行動を活発化させている。

 

4 中国の孤立とG20における逆転

 南シナ海と東シナ海における実力行使によって、中国は、国際社会から孤立するかに見えた。中国の孤立を加速させたのが、中国外交部の強硬一辺倒の対外姿勢である。仲裁裁判所が、中国に不利な司法判断を下すという予測が広がる中、中国は、東南アジア諸国の取り込みを図る必要があった。しかし、6月14日に雲南省で開かれた中国ASEAN外相会合において、王毅外交部長と副部長の非礼で高圧的な態度が、インドネシア及びマレーシアの反感を買ってしまった[12]

 また、仲裁裁判所の司法判断が下された後に、中国が真っ先に行わなければならなかったのが、フィリピンとの合意形成である。フィリピンと合意できれば、中国は「申し立てた本人が良いと言った」と主張し、国際社会における非難を和らげることができるからだ。しかし、王毅外交部長がフィリピンのヤサイ外相に対して脅迫まがいの態度をとったために、フィリピンは中国との協議を拒否した[13]

 これらは、中国が自ら墓穴を掘ったようなものである。さらに、8月に入って、尖閣諸島周辺海域において挑発行為を行った。そうした行動をとれば、日本が強く抗議することは誰の目にも明らかである。日本が国際社会に中国の挑発行為を告発することも中国は予想できたはずだ。実際、日本の外務省は、中国の行動に関する情報を英語でも発信し始めた[14]

 G20の直前に、国際社会における中国の印象が悪くなるのは、中国にとって望ましいことではない。G20において、ホスト国である中国が非難されるようなことになれば、習近平政権の権威は失墜する。中国は、国際社会から孤立するかに見えた。

 しかし、8月中旬頃から、中国の外交に柔軟性が見え始める。中国とASEANの高級事務レベル会合において、2017年半ばを目標に、南シナ海における行動規範の草案をまとめると、中国から提案したのだ[15]。中国が否定的だった多国間枠組みである。東南アジア諸国は、中国と衝突を避けてルールを構築できるのであれば、わざわざG20等の場で中国を非難することはしない。

 米国に対しては、G20直前にパリ協定の批准を決定して見せた。オバマ大統領が自身のレガシーとしたい事象である[16]。そして、G20の最初に米中首脳会談を開き、米中間には複数の問題があっても、両国は軍事衝突せず、協力できる部分は協力するという、中国が主張する「米中新型大国関係」を演出して見せた[17]。同時に、南シナ海のスカボロー礁で人工島建設の素振りを見せ、

 日本に対しては、日中首脳会談をG20終了後に行うよう日本側と調整し、G20開催中に首脳会談に期待を持たせ続けた。安倍首相は、習近平主席に対して東シナ海及び南シナ海における法の秩序に基づいた行動の自制を求めなければならなかったのであるから、日中首脳会談は是非とも行いたかった。5日午後の日中首脳会談は、他の首脳会談が開かれた豪華な会議室とは異なり、事務的な雰囲気の会議室で開かれた。G20のホストとして迎えた時とは異なり、この時、安倍首相を迎えた習近平主席は全く笑顔を見せなかった[18]

 会談でも、安倍首相が中国に東シナ海での行動の自制を求めた際、習主席は「中国には中国の認識がある」としながら、続けて「しかし、衝突は避けなければならない」と述べ、海空連絡メカニズムの協議加速に関する話題に持ち込んでしまった。こうなると日本としても、衝突回避の話から再度抗議に戻ることは難しい。

 日中首脳会談後の記者会見において、安倍首相が、そのコメントの前半で、中国が強く嫌う枠組みであるG7をことさらに連呼したのは、首脳会談に対する不満を中国にぶつけたという印象を与えた。

 G20では、中国は強く非難されることもなく、習近平政権にとっては、特に国内向けには、大成功であったと言える。国際社会からの孤立の瀬戸際まで自らを追い込んだ強硬一辺倒の外交が、土壇場で変化した結果が表れたと言える。

 

5 中国は外交の季節に戻るのか

 中国の、強硬一辺倒の外交から硬軟織り交ぜた外交への変化はどこから来たのだろうか。8月5日から始まった大量の中国漁船と公船による活動に、そのヒントが隠されているように思われる。

 この活動は、明らかにこれまでとはレベルの異なる挑発である。しかし、中国が、日本に対する挑発のレベルを上げるには、上記の理由とは別に原因がなければ説明がつかない。この時期に、日中間に特別な事象が発生した訳ではない。日中間の問題ではないとすれば、中国の国内政治に関係している可能性もある。この事象が起こったのが、5年に一度の中国共産党大会に向けて党の方針や人事の調整が行われる、北戴河会議の時期であったことも、中国の内政に関係していることを示唆している[19]

 中国の外交に柔軟性が見えるようになったのは、この直後からだ。8月6日に発売された『環球人物』という雑誌が王毅外交部長を特集したことから、王毅外交部長には、習近平主席の支持があると理解されるようになったことも関係しているかも知れない[20]。『環球人物』は、通常、王毅外交部長レベルの人物を特集することはないのだ。7月に特集された政治家は、習近平主席の父親である習仲勲元国務院副総理や鄧小平氏などで、習近平主席は3月に特集されている。

 王毅外交部長が習近平主席の支持を得ていると知らしめることにより、外交部の自由裁量の余地が大きくなった可能性もある。王毅外交部長の政治局入りの可能性について話す、中国の研究者もいる。2002年以来、中国共産党政治局のメンバーに、外交担当者はいない。このことが、中国外交が失態を重ねてきた原因であるとも言われる。

 いずれにしても、中国の外交は、硬軟織り交ぜた手強いものになる可能性がある。しかし、中国の外交に変化が現れたのも、中国の内政に関係しているのだとすると、日本を始めとする周辺諸国は、今後も、中国の態度の突然の変化に翻弄されるかも知れない。中国の対外姿勢の一時的な変化に過度に反応せず、中国の目的や戦略といった大きな流れを理解する必要がある所以である。

 

[1] 「中ロ“海上連合-2016”軍事演習ロシア側演習参加装備一覧」≪新華社≫2016年9月12日、http://news.xinhuanet.com/world/2016-09/12/c_1119552448.htm

 

[2] 「戴秉国:美国10個空母戦闘群都開進南海也吓不倒中国人!」『環球時報』2016年7月6日、http://world.huanqiu.com/exclusive/2016-07/9128258.html

 

[3] 「王毅同美国国務卿克里通電話」『中国外交部』2016年7月6日、http://www.fmprc.gov.cn/web/wjbzhd/t1378119.shtml

 

[4] 「中国堅持通過談判解決中国与菲律賓在南海的有関争議」『中国外交部』2016年7月13日、http://www.mfa.gov.cn/web/zyxw/t1380600.shtml

 

[5] 「携手開創和平与繁栄的美好未来 ——劉延東在第五届世界和平論壇開幕式上的致辞」『中国外交部』2016年7月16日、http://www.fmprc.gov.cn/web/zyxw/t1382145.shtml

 

[6] 「習近平閲兵式講話全文」『中国青年網』2015年9月3日、http://news.youth.cn/gn/201509/t20150903_7076967.htm

 

[7] 「中国的軍事戦略(全文)」『中国国防部』2015年5月26日、http://www.mod.gov.cn/auth/2015-05/26/content_4586723.htm

 

[8] 例えば、1991年の湾岸戦争を見た、中国海軍の父と呼ばれる劉華清は、米国だけが軍事力を用いて自国に有利な地域情勢を作り出せると考え、「中国海軍は、世界にその部隊を派遣しなければならない」と指示している。

 

[9] 「尖閣諸島周辺海域における中国公船及び中国漁船の活動状況について」『外務省』2016年8月26日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000179981.pdf

 

[10] 「尖閣接続水域に中国軍艦 初確認、政府が大使に深夜抗議」『日本経済新聞』2016年6月9日、http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H04_Z00C16A6MM0000/?n_cid=NMAIL001

 

[11] 「日本想在南海扮演什么角色——六論南海仲裁案及南海问题」『人民網』2016年7月5日、http://world.people.com.cn/n1/2016/0705/c1002-28524835.html

 

[12] 「中国に怒った2人のASEAN外相」『日本経済新聞』2016年7月22日、http://www.nikkei.com/article/DGXMZO05077900R20C16A7000000/

 

[13] 「【緊迫・南シナ海】フィリピンは中国との協議拒否 王毅外相が持ちかけも「仲裁裁定無視が前提だった」『産経ニュース』2016年7月19日、http://www.sankei.com/world/news/160719/wor1607190037-n1.html

 

[14] “Status of activities by Chinese government vessels and Chinese fishing vessels in waters surrounding the Senkaku Islands”『外務省ホームページ(英語)』2016年8月26日、http://www.mofa.go.jp/files/000180283.pdf

 

[15] 「中ASEANが枠組み 草案作成で合意」『毎日新聞』2016年8月17日、http://mainichi.jp/articles/20160818/k00/00m/030/116000c

 

[16] 「2大排出国の思惑一致 米中、パリ協定批准」『日本経済新聞』2016年9月4日、http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM03H42_T00C16A9NN1000/?n_cid=NMAIL003

 

[17] 「米中首脳会談 オバマ氏、仲裁判決受諾促す」『毎日新聞』2016年9月4日、http://mainichi.jp/articles/20160904/k00/00m/030/133000c

 

[18] 「日中首脳会談、衝突回避へ協議加速で一致 尖閣問題」『朝日新聞DIGITAL』2016年9月5日、http://www.asahi.com/articles/ASJ956W7QJ95UTFK01B.html

 

[19] 「【緊迫・東シナ海】尖閣で挑発繰り返す中国・習近平指導部で何が起きているのか?」『産経ニュース』2016年8月8日、http://www.sankei.com/world/news/160807/wor1608070022-n1.html

 

[20] 「王毅為甚麼這様紅」『環球人物』2016年第21期、2016年8月6日