タイプ
レポート
日付
2010/7/21

地域再生Leade's Voice:長崎・波佐見町長

長崎県波佐見町長/一瀬政太氏インタビュー概要



○日時:2010年6月6日
○場所:波佐見町内 文化の陶 四季舎
○インタビューアー:東京財団政策プロデューサー 井上健二・亀井善太郎


茶碗やお皿などの普段使いの焼き物、波佐見焼きの産地として有名な波佐見町の地域リーダーである一瀬政太町長に、これまでの地域再生の取組の状況やその苦労話、目指している地域経営の将来像等についてご意見をお伺いした。




町民の意見・ニーズを積極的に取り込んだ町政の推進

(事務局)
本日はお忙しいところお時間を頂戴し、ありがとうございます。まず最初に、波佐見町を、町長として、どのような町にしていきたいとお考えでしょうか?町長が目指しておられる地域ビジョンについてお聞かせください。

(一瀬町長)
まず、元気で明るく安心して暮らせる町づくりを目指し、町民の皆さんが住んでよかった、住み続けたいと思ってもらえるような町を目指していきたいと思っていますね。それから、私は就任当初から開かれた町政をモットーに職員に対して、町民の皆さんには常に「優しく、早く、親切に」ということを心がけるよう徹底してきました。

町の基本構想は「活力と潤いに満ちた陶磁と緑のまち」はさみを目指すというビジョンを掲げていますが、これをただ掲げているだけではなくて、実現に向け、官民一体となって取り組むことが大事だと思ってきました。「活力」とは、人でいえば「元気」、「健康」であることだし、地域でいえば「経済の活性化」、「雇用が生まれ、働く場がある」ということ。また、「潤い」というのは、教育や文化と福祉といったものの中で、人と人の和とか連帯感、これがあって初めてバランスのとれたまちづくりができると思っています。そして、「陶磁と緑のまち」とは、焼き物の産地であることに誇りを持ち、自然豊かなまちであることを意味します。まさに、このビジョンに示された町を目指し、課題克服に懸命に取り組んできたところです。

本町の人口は15,400人、世帯数が4,415戸、自治会が22地区あり、開かれた町政とするため、平成13年度から自治会長会を毎月開催しておりますが、全管理職が出席し、私から行政の近況報告や話題についての所感を述べ、各課長から住民への周知や報告説明、それに対しての意見や質問、また、地域からの意見や要望等を受け、対応等を協議しております。

さらに老人会連合会や民生委員会も毎月定例会がありますので、そこにも私が毎月出席し、行政報告後、質問や意見交換等を行ってきております。

また、田舎でありますので窯業や農業、各種団体等の会合等も頻繁にあり、可能な限り出席して町民の皆さんのニーズは何なのか、何が問題なのか?実情把握に努めております。そういう中で行政が町民のために今やるべきことは何か、行政がやりたいことと住民のニーズとのギャップがあれば、調整を図りながら進めております。

従来の駐在員制度では単に事務の連絡だけでは血が通わないし、熱意も伝わらないし、効果も薄いんではないかと思っています。

(事務局)
自治会長制度を創設され、月に1度の定例会を開催されるようになって、自治会の方々の地域づくりへの参加意識の変化は感じられるようになりましたか?

(一瀬町長)
開かれた町政の最たるものが自治会長会であり、行政として可能な限り情報提供と地域の実情、要望の把握に努めております。

そういう面では自治会長さんの活動の範囲が広く責任も重くなっています。町全体のイベントに対し地区としての参加、更には地区内での親睦と融和を図りながら、イベントの開催など結構忙しいのではないかと思います。

また、自治会の役員が地区で何かをやろうとする時に、どんな制度が活用できるか気軽に役場の担当者に話しを持ちかけたり、職員も地域や団体の実情を努めて把握するようにしていますのでお互いに信頼し連携しながら進めることができるようになりました。

(事務局)
自治会長制度によって自治会長同士の風通しもよくなったかと思いますが、地区間の横の繋がりについての変化は何かあったのでしょうか?

(一瀬町長)
はい。何かのプロジェクトやイベントをしようという場合に、1つの地区だけでするよりも、隣の地区と連帯して一緒にやりましょうよという話し合いが生まれたりしています。今までより自治会長さん同士、住民同士そして役場の職員とも顔が見えるような関係になって、だいぶん変わってきたと思います。

地域主導、民間主導のまちづくり

(事務局)
地区同士の横のつながり、町の職員とのつながりが深化し、顔の見える関係が構築できたというのは、今後、地域づくりを進める上で、必ず生きてくるでしょうね。ところで、一瀬町長、まちづくりの中で、特に重点を置いて進めていることは何でしょうか?

(一瀬町長)
私は基本的に民間で出来ることは民間で、地域で出来ることは地域でとの考え方で取り組んできております。地域主導で行政サポートですね。

それぞれの地域には其処にしかない、伝統や特性があると思っています。先人が築いたことを進化させていくことが大事だと思っています。


例えば、春に陶郷中尾山の「桜陶祭」がありますが、地元の有志の方々が何かやらんばいかんという話からできたお祭りで、小さな谷間に2日間で1万5千人のやきものファンで賑わっております。この祭りの名物は陶箱弁当で、各窯元が陶器のお弁当箱に波佐見産の採れたての野菜などを美味しく調理して盛り付けたお弁当を数量限定で販売しています。やっぱり民間の発想が一番いいんですね。結局、民間の発想、アイディアを活かせるという環境土壌を作ることが大事だと思っています。

隣の地区の鬼木地区では平成12年に日本棚田百選に選ばれたのを機会に4月には桜陶祭に併せ、鬼木まつりを、9月には独自の棚田まつりを郷民総出で開催し、棚田での農産物の収穫体験や販売、加工センターでの販売、それに近年は100体余の案山子が展示されユニークなコメントで来客の笑いと癒しで、人気が上がり、最近は案山子のほうが有名になったような気がします。

徹底した職員の意識改革

(事務局)
波佐見で農業をやっている方とお話をする機会があったのですが、「町の職員の方が積極的にサポートをしてくれるんです」と嬉しそうにおっしゃっていたのが印象的でした。このようなポジティブなマインドで元気に行動する職員が波佐見にはたくさんいらっしゃるようですが、こうした職員をどのように育てていらっしゃるのでしょうか?職員の意識改革をどのように進めておられるのでしょうか?一瀬町長が就任されて、どのぐらいで職員の意識が変わったとお感じになりましたか?

(一瀬町長)
平成10年9月に民間から町長に就任し、2、3年たった頃からでしょうね。

年間48億円前後の予算規模の町で私が町長に就任する前の数年間で中央小学校、総合文化会館、給食センターの施設改築で約59億円の投資、その時の公債費残高が82億円、更に国の許認可を受けた総額170億円の下水道整備、さらに70億円の土地区画整理事業が計画されており、財政破綻寸前だったんですよ。

いかに財政を健全化するか、これが一番の課題でした。先ずは10年間の財政構造改善計画を策定し、町の職員数や人件費を削減するとともに、投資的事業も50%カットとしました。ですから、新しいこと、前向きなことが何もできなかった。

さらに、小泉内閣の三位一体改革で更なる行財政改革が求められ、行政改革集中プランを策定し、各22の地区に出向き、住民説明会を開催しました。

職員数が118名を100名に、人件費は9億円を7億5千万円に、地域や団体等への補助金3年間10%カット、起債は公債費の60%以内を厳守。結果として借金は82億から68億円に、基金は9億円から21億円に増やし、小学校体育館などの必要な施設整備は計画通り実施することが出来ました。

これは、財政状況を町民の皆様にあからさまに提示し、計画の必要性を説明、町民の理解、協力のお陰であると感謝しております。

また、行財政改革は職員の意識改革である、と思っていましたし、毎年、現実を踏まえた厳しい予算編成方針を策定し、事業の重要性、緊急性、効率性を追求する、予算案査定時の厳しさが甘えを失くし、意識改革に繋がったのではないだろうか?と思っています。

職員とのコミュニケーションですが当初は年代別に10人ずつばかり、意見交換をしたりしましたが、中々本音は聞けず、様々な懇親会等でざっくばらんに職員と懇談することによって、お互いに気心が知れるようになって、自然と腹を割って話しあえる関係ができてきたように思っています。今では、トップダウンとかボトムアップとか、そういう関係ではなくて、私が考えていることと、職員が思っていることに、そんなに大きなズレはないように思います。また、職員も住民の皆さんとのコミュニケーションもよく採れているようですので色んなアイディアも出てくるようになってきましたね。

(事務局)
職員の意識改革の結果は、町民の方からはどのように受け止められていますか?

(一瀬町長)
窓口や電話の応対が優しく丁寧になった、役場に行きやすくなった、ということをよく聞きますね。また、元気のいい職員が増えたという声も聞きます。

職員には地域や団体等の補助事業申請等についても職員が全て作成するのでなく、助言や問題点をサポートする姿勢が適切ではないかと指示をしています。そういう形で地域の方からも頼りにされているようです。

社会環境の変化に耐えうる地域に根差した産業の振興

(事務局)
産業の活性化、雇用の創出という面では、どのような取組を進めてこられたのでしょうか?

(一瀬町長)
4、5年前から地域の活性化は雇用の創出を第一に考えておりました。そのためには地場産業の振興と観光交流事業の振興、そして企業誘致の3本柱を中心に据え、取り組んできました。幸いに平成18年に長崎県工業団地を本町に誘致でき、20年に世界のキヤノンの進出が決定し、本年3月「メイドイン波佐見」のデジタルカメラが世界に出荷され、現在社員860人、来年は1,000人の規模になる計画です。

キヤノンはグローバル企業であり、最近の世界経済の激動を考えれば、その影響も大きいものがあると思います。長崎キヤノンも地域との共生を望んでいらっしゃいますので、我々もキヤノンさんが波佐見に来てよかったと思っていただけるよう努めていきたいと思っています。このほか、高濃度炭酸泉の温泉施設も今年の4月に完成し、年間10万人以上の方の利用を見込んでいますし、8月にはミニボートピアもオープン予定で60人の雇用が生まれます。経済の活性化に繋がる事業がいい形になってきたところです。

しかし一方では、今まで波佐見町の経済と生活を支えてきた窯業と農業は相変わらず苦戦を強いられ厳しい状況は何にも変わっていないわけです。

そこで、業界と県と一緒になって、波佐見焼の需要開拓、知名度アップ、新商品発表の場として東京ドームで開催される「テーブルウェア・フェスティバル」に業界あげて出展したり、波佐見焼をさらにアピールするため、東京・大阪の問屋さんやデパート・スーパーの担当者の方々に波佐見焼の歴史や製造工程、成形や絵付けの実演などを体験していただく、「やきものプロ養成講座」などを実施してきた結果、波佐見焼の認知度が当初5%程度しかありませんでしたが今では20%以上に上がり、大変嬉しい結果が出ております。また、東京ドームへの出展などの取組を通して、産地のブランド化に取り組もうという機運が業界内で生まれ、問屋と窯元間の風通しや信頼感の醸成が図られるといった効果がみられるようになってきているようです。

いずれにしても、波佐見町の基幹産業は窯業と農業であります。これを継承していくことが産業振興の最大の課題であります。市場原理主義経済でデフレ基調の中、今後も厳しい状況が続くと思いますが、何とか継続できるような環境を作らなければと思っています。農業においては早くから圃場整備を進め、土地利用型の水稲を中心としてきましたが、数年前より新規作物の導入を奨励してきた結果、最近やっと施設園芸や畑作等を目指す農家が増えてきたような気がします。

また、数人の有志で荒廃したみかん畑を開墾し、有機栽培を進めている「百笑会」の活躍が注目を浴び、波佐見の農業に一石を投じた感がします。

やる気のある人材が実践することで波佐見の農業の継続性、あり方を考える時代になりつつあることを肌で感じています。

また、農業と窯業が連携したツーリズムの振興も重要ですね。窯業体験・農業体験メニューの開発や直売所の運営なども進めていく必要があります。お洒落な、センスのいい、山の中の有機野菜レストランといった、都会の人の憧れるようなものもほしいですね。こういう地域発の情報を発信すればメディアも積極的に取り上げてくれるはずです。波佐見の足元にある地域資源の農業と窯業をしっかりと見つめ直し、これらを生かしたツーリズムの振興等を通じて、波佐見へのリピーターを増やしていく環境をつくっていくことがとても大事なことだと思っています。

地域の舞台に若者を上げ、次世代のリーダーを育てる

(事務局)
リピーターということでいえば、たくさんの若い芸術家の方が、波佐見のことを気に入り、移住したりしていますね。

(一瀬町長)

波佐見は、庶民に利用してもらうための茶碗や器をずっとつくってきた歴史があるので、お殿様向けの皿や器を焼く藩窯のあった地域とは違い、焼き物の産地でありがちなヒエラルキーがあまりないフラットな社会なんですね。だから、外の人が来やすい環境があるんじゃないかな。比較的、波佐見には、外の人を快く受け入れる土壌があるように思いますね。ご飯をつくってあげたり、帰りには野菜をもたせたり、「頑張ってもらおう」といった、そういう環境はありますね。

7年前、東北芸術工科大出身の若い陶芸家が波佐見の廃業した古い窯元で創作に励む中、5、6年前から山形や東京から仲間が集まって、それぞれカフェや、ギャラリー、生活道具の店がオープンしておりますが、若くてセンスがあって、町内の人より殆どが福岡や長崎の若い人たちが楽しんでいるようで波佐見の大きな名所になっております。

(事務局)
オープンでフラットな環境というのは魅力的ですね。ところで、波佐見のこれらのまちづくりを担う若者の育成については、どのように取り組まれているのでしょうか?

(一瀬町長)
若い人は感性とエネルギーがあるし、様々な場面の経験をすることでどんどん成長していきます。「自分たちが町づくりの主役だ」といった意識を持つことが大事だろうと思っています。いろんな舞台を何回となく経験していただければと思っています。人材育成というのは、研修とかで単に習う・教えることではなくて、現場を体験しながら、自分自身が気づくということが一番ですから、外にもどんどん出て、色んな人とのネットワークづくりをする、そんな機会をどんどん提供していきたいですね。「何かやらされている、仕方なしにやっている」という風になっては意味がないと思っています。「自分たちの町は、自分たち若者が創るんだ」という次世代を担う地域リーダーを育てていくことが、これからの私の最も大事な使命だと思っています。