タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/3/27

会社は社会を変えられる―統合を目指すCSR(1)社会課題の解決と企業経営の「統合」

政策研究ディレクター・研究員
CSR研究プロジェクトリーダー
亀井善太郎




東京財団ではCSR研究プロジェクトを立ち上げた。立上げ初年度となる2013年度は、社会課題の解決を企業が自らの強みを活かし、さらに担っていくことを促すことを目的に、企業を対象としたアンケート調査(CSR企業調査1)と併せて企業インタビューを実施した。


本稿では、CSR企業調査や40社以上のインタビューを通じて明らかになった我が国のCSRの課題を考察した。また、これらの課題を乗り越え、社会課題の解決に積極的に取組み、社会にとっての成果を出し、同時に、自社にとっての果実も得ている取組みを総論として、3回に分けて紹介する。なお、個々の企業の具体的な事例については、追って、本プロジェクトが発行する「CSR企業白書2014-「統合」を目指すCSR その現状と課題(仮)」(本年6月刊行予定)で紹介したい。


CSRに関する研究を進めると奇妙な現象につきあたる。CSRという言葉に対する認識が人によって違うのだ。CSRは「企業の社会的責任」と訳されるが、その意味を問えば「本業とは別物」、「いやいや本業そのもの」という正反対の意見が聞かれる。実際の活動についても同様で、それぞれが思い浮かべる具体的な活動について聞いても、きわめて多岐に及ぶ。地元社会とのつきあい、利益の社会還元・寄付、社員ボランティア派遣、人権教育、女性の登用、ダイバーシティ、コンプライアンス、環境保護・気候変動対応、新しい市場創造、新技術の提供、本業を通じた社会還元等、認識の幅に呼応した幅広い活動内容が示される。


CSRという言葉が本格的に日本に入ってきて10年が過ぎた。日本のCSRはどこに向かっているのだろうか。CSR企業調査の結果を紹介し、そこから見える現実と課題について考察したい。

明らかになった社会課題に対する取組みの差


まずは、CSR企業調査結果を概観することから始める。
企業がどのような社会課題に取り組んでいるのかを聞いた、取組み状況の結果が図1だ。





左側の国内における「社会課題」に対する取組みから見てみると、件数を示した棒グラフから「多くの企業が取り組んでいる」、「ほとんど取り組んでいない」、「その中間」の大きく分けて3つのグループがあることがわかる。


まず大半の企業が取り組んでいるのが、「環境保護」だ。その中身には環境汚染の防止、生物多様性の保護、気候変動対応がある。日本企業の環境対応は進んでいると言われているが、この調査でもその傾向は確認された。


次に7割程度の企業が取り組んでいるのが「風土・文化保全」「出産育児支援・妊産婦の健康改善」「人権保護」「女性の地位向上」の4分野だ。「風土・文化保全」の中身は地元地域等へのイベント支援が多く、「出産育児支援・妊産婦の健康改善」は休暇制度の充実や検診制度の導入等、また、「人権保護」は人権に関する研修会の開催等、「女性の地位向上」は女性の管理職登用等が挙げられている。


まだまだ取組みが進まないのは「疾病等」「児童貧困」「貧困」だ。
例えば、疾病等について見てみると、日本の年代別死因は、全体では悪性新生物(いわゆるガン)、心疾患、脳血管疾患が上位にあり、年代別に見ると若年層では「不慮の事故」、50代までには「自殺」も上位にある。各種の疾病の予防や根絶等も含め、これらの死亡リスクをいかに低減していくかは社会課題のひとつと考えられる。しかし、それにも関わらず、業界によるバラツキもあろうが、全体を見れば、こうした分野への企業の取組みは低い水準にとどまるのが現状だ。


また、児童貧困および貧困については、諸外国と比べても日本の貧困率は相対的に高い水準にあり、また、上昇傾向にもあり、これも社会課題として認識すべきなのだろうが、企業の取組みはまだまだだ。


海外における「社会課題」に対する取組みでは、「環境保護」が飛びぬけている以外、他の社会課題はどれもまだ低調だ。日本企業のグローバル化が進む中、それぞれの拠点の「人権」がどう扱われ、「女性」の活躍がどういう状況にあるのか、その課題にきちんと取組み、説明できる企業は決して多くはない。今回のアンケート回答企業の大半は東証一部上場企業であり、また、CSR担当部署を持つ、いわばCSR先進企業が多い。それでも、海外の課題については厳しい現状が明らかとなった。

CSRの「理想」と「現実」


前述したように、社会課題に対する取組みにバラツキがある現状を踏まえ、CSR企業調査では、その活動の中身を分析した。


まず見たのは、「企業が取り組む社会課題の解決、つまりCSRが本業とどんな関係を持っているのか」についてだ。つまり、「社会課題の解決への貢献」と「自社事業への貢献」を両立させ、統合できているかという問いだ。


しかし、それぞれの企業に「両立していますか」、「統合していますか」と訊ねても実態は見えてこない。そこで我々は、「社会課題の解決に資する企業の取組みと自社事業の関連性(以下、事業との関連性)」と「社会課題の解決に資する企業の取組みによる企業にとっての成果(以下、取組みによる効果)」を聞いた。


さらに、A.自社でうまくいっている、優れた成果が出たと思うCSR、B.個別の社会課題の解決に資するCSR(「環境」、「貧困」、「人権」等、国内・海外それぞれの社会課題に対するもの)それぞれについて、上記の二つの質問を行い、図2のような結果を得られた。


明らかになったのは、1.企業は社会課題の解決と自社事業活動の「統合」を目指しているものの、2.個別の活動においてはなかなか実現できていないということだ。






図2の一番左側の上下の二つのグラフを見てみよう。これらは前述のA.企業が「うまくいった」と自己評価しているCSRだ。自社の製品やサービスを活用したものであり、事業プロセスの中で実現しているのが優れたCSRと認識していることがわかる。また、そのCSRを取り組んだことによって、イメージアップはもとより、収益向上、事業機会の獲得、技術力の工場、人材の育成や獲得も可能となった。つまり、本業と両立したCSRこそ目指すべきありたい姿と考えていることがわかる。


では、右側に目を転じて、B.個別の社会課題解決に資する個々のCSRの取組みについて見てみよう。「環境保護」については「A.うまくいった」ものと似た形のグラフになっており、本業と両立したいわゆる「統合」形になっていることがわかる。ところが、国内外の18の社会課題をすべて見てみたが、「統合」形になっているのは国内の「環境保護」だけにとどまる。その他の社会課題に対するCSRは、「人権」のような事業プロセスでの実現はしていても製品やサービスとの関係性は薄く、成果を人材育成以外期待できないもの、あるいは「児童貧困」のように、事業との関連性が薄く、成果もイメージアップにとどまるものばかりになってしまう。

「統合」を図る二つのモノサシ


なぜ、両者の「統合」は上手くいかないのであろうか。その理由に迫る前に、まず、そもそも、この「統合」の概念について掘り下げておきたい。


「統合」を考える上で重要なのは、二つの独立したモノサシだ。
一つは社会にとっての利益、つまり公益の実現にとっての重要性であり、もう一つには企業経営や事業活動にとっての重要性である。ゆえに統合された姿とは、「公益の実現にとっての重要性」と、「事業活動にとっての重要性」が双方共に高いということだ(図3 社会の利益と会社の利益の右上を目指すということ)。


それらを実現するためには、自社の事業活動の範囲や自らの強みを踏まえた上で、どんな社会課題の解決に自社が向き合っていくのがよいのか、全社を挙げて見極めていくプロセスが求められる。




 
ところが、企業の実情を聞けば、横軸の「事業活動への貢献」については当然よく考えているが、縦軸の「社会課題解決への貢献」となると曖昧な答えが多く見られる。さらに言えば、何が社会課題の解決への貢献なのか、経営者や社員の考えや理念、その方向性に関する統一が図られていない。そのため、人それぞれにまったく違うことを考えていることも多く、下手をすれば正反対の意見すら出てきてしまう。もしかすると、この正反対こそ、CSRに対する認識が幅広いことの一つの理由かもしれない。


多様な価値観を批判するつもりはまったくない。むしろ、多様な価値観こそが重要だ。そもそも働き方に対する考えだっていろいろあろう。しかし、企業の存在意義とは、人が集まり組織になることによって、個人の能力を超えた仕組みや規模を実現し、社会をより豊かなものにすること、つまり、これは社会の課題を解決する存在であることに他ならない2


ピーター・ドラッカーは「企業にとって利益は企業存続の条件であって目的ではない」という。利益を出すことは確かに難しい、しかし、それは自社の存在意義を継続して発揮するための必要条件の一つであって、その目的は「社会において、社会に対し何をするか」に他ならない。それにも関わらず、縦軸(社会課題解決への貢献)について、全社レベルで真剣に考え、その合意を組織全体で共有できているかというと「心もとない」というのが誰しも感じる実感ではないだろうか。


詳細は本稿の第3回で示すが、存続のための必要条件の一つである利益を追い求めるあまり、企業が短期的な思考や行動に陥ってしまうことは、統合がうまくいかない理由の一つだ。

統合ができない会社の現状


企業の社会貢献活動について継続的な調査を行っている日本経済団体連合会社会貢献推進委員会1%(ワンパーセント)クラブの調査によると、企業の社会活動貢献額の多くが寄付であり、その中でも金銭寄付の割合が多いことがわかる。


企業が社会に資金を提供するのは大切なことだ。しかし、カネには色はない、誰が出しても同じだ。金額の多寡はあろうが、結局、そこには、技術力や組織力といった企業の本来の強みは発揮されていない。「図3:社会の利益と会社の利益」で表せば左上の領域だ。事業利益が出ているうちは維持できるが、結局は利益次第の活動になってしまうし、そもそも、企業本来の強みは発揮されにくいから、レバレッジも効きにくい。


企業によるボランティアの提供も近年盛んになってきた。大規模災害の被災地域のため、苦しむ人のために何かしたいが、個人ではどこから入っていけばよいのかわからないし、勇気も出ない。そんな中、企業が仲介して、被災地域に社員を派遣し、地域の大きな力になる事例も増えてきた。政府だけに任せるのではなく、個人が社会をよりよいものにするためのきっかけが増えてきている。そうした活動ができる企業にいること、役員と社員が同じ場で汗をかくことができる企業にいることを誇りにする社員も増えてきたという。


ただ、それぞれのボランティア派遣において、企業の本来の強みは活かされているだろうか。単に志の高い、有能な社員を送り込むための窓口にとどまってはいないだろうか。経営層にしても、自ら率先して被災地に乗り込み、社員と共に汗をかく人が増えてきたというが、自社事業で日頃発揮している自らの高いマネジメント能力を現地で活かせたという話をなかなか聞くことはできない。やはり、それだけでは、まだ、「図3:社会の利益と会社の利益」の左上領域なのかもしれない。自社で育成した社員や役員の能力を相手先のどんなところで活かせばよいのか、事業プロセスを通じて得た自社の強みを組織的にもっと活かせる場はどこにあるのか、もっと言えば、自社の強みはそもそも何か、そこまで考えたボランティア派遣ができれば、社会課題解決における企業の社会における存在意義はもっと高まるのではないだろうか。



次回は、企業経営においてなぜ「統合」が必要なのか、グローバル化する企業にとっての企業価値の保全の観点も含めて明らかにする。
(次回に続く)



1 CSR企業調査の概要とその狙いはレポート「企業調査を始めます-社会的課題へのインパクトから見た日本のCSR」(東京財団CSR研究プロジェクト)を参照されたい。
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1167

2 厳密に言えば、これは企業に限らず、あらゆる組織について言えることでもある。