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【開催報告】第42回東京財団フォーラム「『尖閣』をどう生かすか―検証から学ぶ今後の日中関係」

November 1, 2011

昨年の尖閣諸島漁船衝突事件からちょうど1年。来年の日中国交正常化40周年を前に、与野党議員の中国訪問が相次いでいますが、昨年の事件をきちんと検証した上で、今後の日中関係を構築していくために、東京財団では、11月1日、ヨーロッパの日中研究の第一人者であるラインハルト・ドリフテ ニューキャッスル大学名誉教授をお招きし、東京財団フォーラム「『尖閣』をどう生かすか―検証から学ぶ今後の日中関係」を開催しました。第三者視点で日中関係を振り返るとともに、コメンテーターとして現代中国を専門とする高原明生・上席研究員、日米関係を専門とする渡部恒雄・上席研究員兼外交安全保障担当ディレクターを交え活発な議論を行いました。会場には国会議員や議員秘書、各省庁の対中政策立案者、民間企業、シンクタンク研究員や大学生などおよそ110名が訪れ、フロアからも積極的に質問が出されました。

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ドリフテ氏の講演内容

1. 日本政府の対応の失敗の原因

昨年の尖閣諸島漁船衝突事件では、日本政府は「日本の法律を適用する」ということを盛んに主張しました。しかしこれは中国から見たら警告であって、暗黙に「逮捕」によってメッセージを伝達すればよかったのです。逮捕という行為は法的に権限があるのだというメッセージになります。法律や主権を持ち出すことはあまり賢いことではありませんでした。またアメリカの発言も曖昧なもので日本政府として引き出したこと自体あまり有益ではなかったと言えます。そもそもこの事件は予想できたものです。中国の南シナ海での南沙諸島を巡る対立や韓国との間の排他的経済水域を巡る対立などをもう少し検証していれば、中国側の次の要求を予想できたし、中国側を硬化させることもなかったと思います。中国側を硬化させたのは日本側の初動の悪さに起因すると思います。ただこれは政府だけの責任ではなく、マスコミの責任もあります。私が日本でジャーナリストであるならば、韓国の事件を調べたと思うし、南シナ海の事件も調べたと思います。しかしながら、こうした検証はなされてきませんでした。

2. 中国政府の硬化の背景

中国側は日本側のメッセージや行動に対し、日本企業の社員を拘留したり、レアアースの輸出禁止の措置をとったりと非常に強硬な対応をとってきました。日本側が主権を宣言することで、中国政府内部で政治的に反日を利用する勢力の声が大きくなったと思います。中国の海洋に関する当局は人民解放軍の海軍以外にも中国密輸取り締まり警察部隊、中国海事局、海洋局、税関総局、中国漁船指揮センターなど5つに分かれており、お互いに機関同士でコミュニケーションをしておらず、どの機関がどの程度政府に影響力を持っているか分かりません。それぞれの主体が勝手に行動をしているのです。だから、突発的な事件に対し、どこの主体が政府に影響力を持って働きかけたか、もしくは圧力をかけたか。その検証が必要です。

3. 日中間の交渉スタイルの違い

(1)日本の交渉スタイル

日本は、民主国家で世論をはじめいろいろな意見を集約するのが難しい。また全員の合意を得ないといけないことや初志貫徹というスタイルも決定を遅らせる要因です。それに加えて日本は政治のリーダーシップが弱く、危機が起きた際に柔軟性に欠ける傾向があります。新しい認識や立場を作るよりも官僚化された組織の中で一貫性を大事に行動していきます。対中政策者は、問題が起きたとき、最初に「そういった紛争は存在しない」ものとして扱おうとします。例えば「領土問題は存在しない」という立場を貫こうとします。1972年、1978年に尖閣問題は棚上げされているという現実がありますが、領土問題は存在しないという考えで危機に対する対応を考えるという行為を放棄してきました。さらに日本は法律的なアプローチを取りがちです。しかし時には狭い法律的なアプローチをとっても役に立たないことがあります。昔通用した法律も今では通用しないことがあります。それは、中国と日本のパワーバランスに変化が生じてきているからです。中国と日本のパワー関係が変わってくる前の80年代、90年代にいくらでも中国と合意を取り付けるチャンスがあったにも関わらず、それを「存在しない問題」として法律論に固執し、回避してきました。ですから、持続可能性のない妥協のリスクを背負っていかなくてはならない状況になってきていますし、今後はもっと交渉が難しくなるリスクがあります。

(2)中国の交渉スタイル

中国はマザーフッド原則に相手を拘束しようとします。つまり、誰も反対できないような原則で相手を拘束しようとします。例えば「平和裏な共存」、これに反対できる人はいません。共通の戦略的な利益に関する相互に恩恵のある関係、すなわち「互恵関係」ですが、これに反対できる人はいません。これらを持ち出すことによって、中国側が望んでいるような形にうまくことが進まなかった時に、相手側が悪かったといえるわけです。十分努力していないのは、相手だと。例えば、日本側が東シナの共同開発に関して交渉再開を申し出た際、中国側は「話し合いに必要な雰囲気が必要だ」といいました。日本側がその雰囲気を損なっているという論理です。さらに、時間を稼いで中国の交渉のポジションを強くさせようとします。非常に中央集権型な体制ですが最近ではさまざまな政治アクターが多元性を増し、政府へのコミットメントを深めています。

4. 今後の日中関係

中国はアメリカの力がアジアにおよぼす影響力を低くしたいと考えています。北朝鮮問題、アジアでのFTA、さらにエネルギー協力などでできるだけアメリカにアジアに入ってきてもらいたくないというのが中国の本心です。しかし、そのためには、日本との友好関係の構築が必要です。ですから中国は、歴史問題を使って国のアイデンティティを維持したり、中国共産党の支配を強化しようとしてはいけません。中国がアジアで強権的とみなされないためには、日本との友好な政治関係が必要です。さらに、日中の建設的な友好関係がしいては、中国と他のアジア諸国との関係を友好にします。また、日本は中国の同意がなければ国連の常任理事国にはなれません。中国を阻害しながら常任理事国入りすることは不可能です。さらに中国との良い関係はしいてはヨーロッパ、アメリカとの関係もよくします。経済危機にあえぐヨーロッパやアメリカにとって中国は大きな市場であり、経済成長の鍵です。どの国も中国との関係を良いものにしたいと考えています。日本が中国と建設的な友好関係を築くことは、ヨーロッパとアメリカとの関係強化にもつながっていくのです。

コメント

高原明生・上席研究員:日本政府やメディアはなぜ中国と他国の経験を参照しなかったのかという点について、東南アジア諸国では華僑が罰金を払って漁民を釈放するというようなこともあるようです。そうした情報を収集して応用し、臨機応変に対応することが重要でしたが、日本政府の対応はやや敏捷性に欠けていたと思います。問題の認識方法の違いですが、中国は尖閣問題にしても歴史的な検証を行います。明朝時代にはどうだったといったように。日本やベトナム、インドネシアなどは現行の国際法、海洋法を基準に考えますが、中国は歴史的権限を主張します。そもそもの問題認識がずれているのです。対日関係は中国側でも意見が一致しない政策領域です。最近では、日中関係で何かポジティブな動きがあると、それに合わせるかのように漁業管理部門の船が尖閣水域にやってきます。温家宝首相や戴秉国国務委員が日中関係を前進させるという話をした直後に船が来るわけです。日中関係を邪魔しようとする勢力が誰なのかは分かりませんが、まったくの偶然とは思えません。

渡部恒雄・上席研究員兼外交安全保障担当ディレクター:アメリカの対応ですが、尖閣事件に際して、クリントン国務長官は尖閣諸島が日米安保条約の対象となるという明確なメッセージを送りました。それもあって、日本人はアメリカが同盟国だから最終的に領土問題の仲介までしてくれるという過剰な期待を持っている人もいるかもしれません。しかし、アメリカだって日中の紛争に巻き込まれるのはいやです。アメリカは日本だけでなく中国との領土問題を抱える南シナ海沿岸の東南アジア諸国との連携を念頭に、メッセージを送らなければならないと戦略的に考えて、日中の領土問題に踏み込みすぎないように、しかし地域の安定に寄与するような的確なメッセージを送ったのだと思います。中国側の対応で興味深いことは、レアアースの日本への輸出を政治的な意図で制限するという、今の国際貿易の基本ルールでは禁じ手を使ったことです。これにより、米国の論調も急に中国に厳しくなった。この点について中国側がどの程度、意図的であったのでしょうか。そして、今回の件を失敗だと反省しているのか、それとも今後も同じような手を使おうとするのか、という点は日本にとっても、世界にとっても重要です。最後に、日本の対応ですが、ドリフテ先生のおっしゃった Lack of think tank、つまりシンクタンク機能の欠如という点が重要かと思います。今の日本政府は現状の法律に規定されている条件で物事を考え、それを越えた事態をあまり想定していないために、できる対応が限られていたのだと思います。特に政権交代直後の民主党政権ですから、対応の幅も狭かったと思います。東京財団のいくつかの政策提言でも述べているのですが、普段から事前に難しい時代を想定して研究、準備しておき、いざというときには省庁の垣根をこえて、調整ができる機関、いわゆる日本版NSC(国家安全保障会議)が必要だと思います。


「尖閣」をどう生かすか―検証から学ぶ今後の日中関係※音声はオリジナル(和英混合)

    • ニューキャッスル大学名誉教授
    • ラインハルト ・ドリフテ
    • ラインハルト ・ドリフテ
    • 高原 明生/Akio Takahara
    • 元東京財団政策研究所上席研究員
    • 高原 明生
    • 高原 明生
    • 元東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員
    • 渡部 恒雄
    • 渡部 恒雄
    • 元東京財団研究員
    • 大沼 瑞穂
    • 大沼 瑞穂

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