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MMTを信用しても大丈夫か
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MMTを信用しても大丈夫か

August 13, 2019

米国・民主党左派の政治家が「モダン・マネタリー・セオリー(現代貨幣理論)」(MMT)の考え方に基づき、積極財政を主張したことをきっかけに、米国の経済政策論壇において、MMTがにわかに注目されるようになった。最近では、米国よりも日本でMMTの注目度が上がっている。

MMTとは、自国通貨で政府が借金をして国債の発行を増やしても、中央銀行が紙幣を刷って国債を買い続ければ、国民負担なく財政出動できると主張する理論だ。言い換えれば、政府の借金がいくら増えても問題にならない、という議論である。格差是正のために財政支出の増加を求める左派に正当性を与える経済理論として、がぜん注目されたのである。

このほど来日した主唱者の一人、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、日本を引き合いに、インフレにならない限り、財政支出を増やせると主張する。対してアメリカの主流派経済学者はMMTに猛反発し、政府が債務を履行しなければ、いずれハイパーインフレになって経済が破綻すると警告する。MMTは現実的な学説なのだろうか。

債務膨張は放置できず

主流派の経済理論とMMTとの一番の違いは、政府の債務膨張を深刻な問題ととらえるかどうか、にある。主流派は国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率が高くなりすぎると、やがて国債価格が暴落し、貨幣価値が下落するハイパーインフレが起きると警戒する。一方、MMT論者は、自国通貨建てで国債を発行する主権国家は決して破綻せず、政府債務を問題にする必要はないと主張する。

私は政府債務の問題を深刻なものととらえ、日本の政府債務がこのまま膨張し続ければ、安定した経済環境を維持できなくなると警鐘を鳴らしてきた。MMT論者は財政支出を増やす過程でインフレが起きそうになったら対策を打てばよいという。しかし政府債務が大きいときに金利を上げたら財政への信認が失われ、金利高騰のスパイラルが始まる。それを防ぐために日銀が国債を買えば今度はマネーの量が増えすぎてインフレを抑えられなくなる。金利かインフレかどちらかがコントロール不能になり、経済は不安定化する。MMT論者は、そのときは、増税や歳出削減をすればよい、と言うだろう。だが、増税や歳出削減には、とてつもないポリティカルコストがかかることを、我々は経験済みだ。インフレになりそうになったらすぐに増税する、というMMTのプランは実行不可能だろう。

政府債務残高のGDP比率が何パーセントになると国家が破綻するのか、主流派の間にも実は定説はない。日本の債務残高がこれだけ膨らんでいるにもかかわらず、国債価格が暴落したり、インフレが起きたりしていないのはなぜか。いまのところ答えはない。

日本の財政のしぶとさ

日本の財政は10年後には破綻するといった議論は過去20年以上続いているが、実際には破綻していない。日本の財政破綻論者はオオカミ少年のような立場にある。MMTにくみするつもりはないが、対外債務がなく、経常収支黒字を続けている日本では、財政は意外に長持ちするのではないかとの印象を持ち始めている。企業や個人が国債を消化できるだけの金融資産を保有しているなど、日本の財政がしぶとい原因はいくつかある。国内外の市場関係者は、特に経常収支が黒字であることと日本が対外純債権国であることから、日本国債や円の信用力を高いと考えているのだろう。しかし、経常黒字や対外純資産が豊富にあっても、税収が十分になければ国債の価値は支えられない。

税収が国債に比して構造的に少ない日本では、今の状態は「現状がこれからも続くだろう」という期待に支えられた一種のバブルであり、これがいつまでも続くとは限らない。想定外の材料に市場が反応し、国債危機が起きる可能性は小さくないのである。増税や歳出カットは政治的に難しいが、政府債務のGDP比を超長期的に一定の水準におさえるための政策パッケージを示し、信用不安の芽を摘むしかないだろう。

ケルトン教授は、政府債務がGDPの240%まで積み上がっても、日本銀行が国債を買い続け、低金利を維持している日本の金融財政政策は、MMTの「お手本」だという。MMTが言うように政府の借金は永久に返さなくても大丈夫なのか。言い換えれば、国債バブルは永久に続くのか。財政破綻はあり得ないというMMTは、震災前の私たちのように「今日と同じ明日が来る」という根拠のない確信を語っているだけなのではないだろうか。

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