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再生可能エネルギー スペインの成功事例を見よ

August 23, 2011

東京財団研究員
平沼光

原子力ルネッサンスの終焉

2011年3月11日、東日本大震災の影響により発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故は日本のみならず世界に衝撃を与えた。原子炉建屋が爆発し白煙を上げているショッキングな映像は記憶に新しいことだろう。世界の原子力発電の歴史において地震が原因で起こった事故は史上初であり、それは炉心溶融と多量の放射性物質が外に放出されるという事態を引き起こしている。国際原子力機関(IAEA)などが設定する事故の深刻さを表す国際評価尺度(INES)に照らし合わせると、その評価は深刻な事故とされる最悪のレベル7。レベル7の原子力事故は、1986年にソビエト連邦で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故以来のことである。

これまで日本の原子力発電の安全性については、地震対策、津波対策は万全で深刻な事後は起こりえないということが半ば神話のように語られてきたが、今回のこの事故は全電源を喪失してしまうというそれこそ起こりえないどころか起こってはいけないことが起きてしまっているという有り様だ。1896年のチェルノブイリ原子力発電所事故以降、欧米をはじめ世界は脱原発の方向に動いていた。しかし、近年の石油・天然ガス等の化石燃料の高騰、国際的な気候変動問題への対処といった社会事情を背景にして、ここ数年においては、原子力を見直し積極的に活用していくという「原子力ルネッサンス」といわれる原子力復権の流れにあった。

日本においても2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」の中に原子力の着実な利用が盛り込まれ、同じく閣議決定された「エネルギー基本計画」の中でも、電力構成に占めるゼロ・エミッション電源(原子力および再生可能エネルギー由来)を現状の34%から、30年には約70%にまで引き上げるとともに、その内の約50%を原子力で担うとされ、そのために、原子力発電所を20年までに9基、30年までに少なくとも14基新増設するとの目標が掲げられていた。

こうした、「原子力ルネッサンス」という世界的な原子力回帰の動きの中で起こった福島原発事故は、その流れを一気に押し戻すほどのインパクトとなって世界に受け止められたのだ。

事故後の3月14日にはオーストラリアのギラード首相が原発不要との考えを示し、3月15日には世界最大級の原子炉建設を進めているフィンランドのハロネン大統領が原子力は一時的なエネルギー源であり再生可能エネルギーの活用を目標にすべきだとの認識を示している。

ドイツでは福島原発事故を受けて22年までに同国の原発を全面的に廃止することで合意したほか、スイス政府も34年までの原発廃止を決定している。

さらに、イタリアでは原発再開の是非を問う国民投票が行われ、54.79%という投票率の下、原発再開への反対票は94.05%に達し、イタリア国民は原発にノーという意思を示している。

原発事故を起こしてしまった当事者の日本では、11年5月10日の総理大臣記者会見で、30年において総電力に占める割合として、原子力の50%以上の利用を目指すとしていた「エネルギー基本計画」をいったん白紙に戻すことを菅直人首相が表明するに至っており、原子力を中心とした日本のエネルギー政策は事実上停滞したと言える。

今後、日本のエネルギー政策の再考において原子力発電をどのように位置付けるかということが大きな課題となるわけだが、事態はそうそう容易ではない。原発の安全神話が崩れた今、原発の安全性のみならず、その経済性、環境性といった点にまで国民の疑問、疑念の声が上がっているからだ。

たとえば、原子力発電は火力、水力、そして各種の再生可能エネルギー発電に比べて発電コストが安く、電力を安価で提供できるという「経済性神話」については、「原子力発電の夜間電力を調整するために不可欠な揚水発電のコストを考えるとコスト高になるのではないか?」「原子力発電により排出される放射性廃棄物処理にかかる費用見積もりが甘いのではないか?」「そもそも原子力発電所の建設地へ支払われる交付金や補助金などのコストを考えると本当に原子力発電は経済的なのか?」などといった疑問だ。

また、原子力発電は「発電時」にCO2が発生せず環境に優しいクリーンなエネルギーだとする「環境性神話」については、「ウラン採掘・精製といった原子力燃料製造とその輸送、大規模建造物となる原子力発電所の建設、そして膨大な年月をかけて行わなければならない放射性廃棄物の処理など、「発電時」以外の過程では多くのCO2が排出されるのではないか?」「放射性廃棄物を出し続ける原子力発電はクリーンと言えるのか?」といった疑問の声が上がっている。

日本のエネルギー政策の中で原子力発電をどのように位置付けるかを導くためには、国民から上がっているこうした疑問、疑念に対し、ファクトとなる客観的なデータをきちんと開示し、公開の場で丁寧に説明し、国民全体の理解を得ることが不可欠となろう。

かくして、「原子力ルネッサンス」といわれた世界的な原子力回帰の流れは、福島原子力発電所の事故によりその終焉を迎えつつある様相となっている。

対照的に本格普及が待望されるようになったのが風力、地熱、太陽光といった再生可能エネルギーだ。福島原発事故以降、原発から距離を置こうとしている各国はもとより、11年5月現在、原発推進の基本姿勢は変えていないフランス、ロシア、米国、カナダ、英国などにおいても、原発は推進しつつも再生可能エネルギーのこれまで以上の導入を促進するという点では共通している。

11年5月10日の菅首相の記者会見においても再生可能エネルギーを基幹エネルギーの一つとして加え、より大きな力で推進するとしている。昨今の政治の混乱ぶりを見る限り菅首相のこうした発言もどこまで実行力があるのかという疑問はあるが、原子力ルネッサンスに代わる大きな流れとして、世界的な再生可能エネルギー普及へ向けた動きが始まったと言えるだろう。

再生可能エネルギー資源 日本の高いポテンシャル

さて、これまで長きにわたり日本は「資源に乏しい国」とされてきたが、風力発電に必要な風資源をはじめとする日本の再生可能エネルギー資源の状況はいかがなものであろうか。

東日本大震災後の2011年4月21日、環境省から日本の再生可能エネルギー資源に関する興味深い調査結果が公表された。「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」である。

この調査の報告書では、日本の再生可能エネルギー資源について、およそ以下の3つの視点でその資源量を算出している。

1. 賦存量

設置可能面積、平均風速、河川流量等から理論的に算出することができるエネルギー資源量。現在の技術水準では利用することが困難なものを除き、種々の制約要因(土地の傾斜、法規制、土地利用、居住地からの距離等)を考慮しないもの。

2. 導入ポテンシャル

エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量。賦存量の内数。

3. シナリオ別導入可能量

事業収支に関する特定のシナリオ(仮定条件)を設定した場合に具現化が期待されるエネルギー資源量。導入ポテンシャルの内数。

シナリオ別導入可能量の推計における基本シナリオは、「再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度」(Feed-in Tariff:FIT)の導入や技術開発によるコスト縮減を想定して、以下のように設定し、事業性の観点から具現化が見込まれる量を推計した。

基本シナリオ1(FIT対応シナリオ)
現状のコストレベルを前提とし、今年3月に閣議決定された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案(FIT法案)」において想定されている制度開始時点の買取価格および期間で買取が行われる場合。

基本シナリオ2(技術革新シナリオ) 技術革新が進んで、設備コスト等が大幅に縮減し、かつ、FIT法案において想定されている制度開始時点の買取価格および買取期間が維持される場合。

以上の視点で風力発電における日本の風資源の状況を見てみると、その導入ポテンシャルは19億キロワット。現在の日本のエネルギー事情に近いと考えられる「基本シナリオ1」では2,400万~1億4,000万キロワットという数値が見込まれている。

09年度の日本の全発電設備容量が2億397万キロワットということを考えると、非常に高い資源量が見込まれるということになる。また、09年度の日本の風力発電の全設備容量は219万キロワットであることから、さらなる風力発電の導入増大の可能性が示されたと言える。

風力発電に適している風の状況、すなわち風況の目安は年間平均風速毎秒7メートル以上とされている。そもそも日本は、風力発電が盛んな欧州のような風況には恵まれていないとされてきたが、日本を取り囲む海の上、つまり洋上では風の流れを遮るものがないため陸上と比較して風速毎秒7メートル以上の風況が安定しており高いポテンシャルが見込まれるのだ。

現在、欧州をはじめ世界では風況の安定している洋上で風力発電を行う洋上風力発電の導入がトレンドとなりつつある。

日本の導入ポテンシャル19億キロワットにおいても、そのうち16億キロワットは洋上風力発電によるものだ。「基本シナリオ1」の内訳における洋上風力発電が占める割合は、まだコストの関係などから最大300キロワットと見込まれているが、それでも陸上と合計すると2,400万~1億4,000万キロワットという高い数値である。さらに、将来的な技術革新が進むことを見込んだ「基本シナリオ2」では洋上風力発電1億4,000万キロワットとなり、陸上で行われる風力発電と合わせると4億1,000万キロワットという極めて高い数値が示されている。

火山国日本ならではのエネルギー源として注目されている地熱発電についてはどうだろうか。

地熱発電の導入ポテンシャルは1,400万キロワット、「基本シナリオ1」においては110万~480万キロワット、さらに「基本シナリオ2」では520万キロワットの資源量とされている。09年度の地熱発電の全設備容量は53万キロワットであることを考えると、地熱発電においても導入の増大の可能性が示されたと言える。

また、世界的に見ても日本の地熱資源量はワールドクラスだ。産業技術総合研究所(2008年「地熱発電の開発可能性」)では日本の地熱資源量をおよそ2,054万キロワットと見込んでいる。これは世界の地熱資源量比で見ると、インドネシア2,779万キロワット、米国2,300万キロワットについで世界第三位の資源量となるのだ。

エネルギー効率という点から考えても地熱発電にはメリットが多い。地熱は太陽光や風力と違い天候によって左右されないという特徴があり、常用電源として安定した電力を供給できる。また、設備利用率(稼働率)についても、例えば太陽光発電で発電を行った場合の設備利用率は約12%、風力発電で約20%という状況に対し、地熱発電は約70%と効率が高く、さらなる普及が期待される。

11年5月、仏ドーヴィルで開催されたG8サミットで菅首相が1,000万戸の設置を表明した太陽光発電についてはどうだろうか。前出の環境省の調査では学校・市役所といった公共建物、発電所・工場・倉庫といった事業所関連、ごみ処分場・埋立処分場といった未利用地、そして耕作放棄地といった住宅設置以外における導入ポテンシャルが示されている。

それによると太陽光発電の導入ポテンシャルは1億5,000万キロワット、「基本シナリオ2」では最大7,200万キロワットの導入が見込まれている。住宅設置を含めた導入ポテンシャルについては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が09年6月に公表した「太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」によると30年の推定導入量として最大2億183万キロワットの導入量が見積もられている。これは実に09年度の全発電設備容量2億397万キロワットに迫る数値だ。

また、日本は太陽光発電における高いエネルギー変換率を達成しているなど優れた技術力も有している。エネルギー変換率とは、太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換した際の変換割合のことだ。日本企業はCIS薄膜太陽電池では世界最高のエネルギー変換率17.2%を達成したことが今年3月に公表された。さらに、4月には大学と企業の共同研究により、半導体を使う従来の太陽電池にナノテクノロジーと量子力学の新理論を適用した量子ドット太陽電池という次世代型の太陽電池において、エネルギー変換率を75%にする構造を解明している。

現状では他の発電に比べてコストが高いとされている太陽光発電だが、こうしたエネルギー変換率の向上は今後のコスト削減に貢献することだろう。

かくして、「資源に乏しい」とされてきた日本ではあるが、前述してきた通り再生可能エネルギーのポテンシャルは意外や高いものが示されている。こうした高いポテンシャルが示されている再生可能エネルギーであるが、これまでその普及が日本ではあまり進まなかったのはなぜだろうか。

その理由として、再生可能エネルギーはお天気任せであったり風任せであったりするため電力が安定しないこと、再生可能エネルギーの発電地となる風況がよかったり日射量が多かったりする場所と電力消費地が離れているため送電が困難なこと、発電コストが他の火力、原子力に及ばないことなどが挙げられてきた。

たとえ高いポテンシャルがあったとしてもこうした事情がある以上、日本において再生可能エネルギー普及はいまだ検討段階の話とされているのが日本の現状ではないだろうか。一方、世界の動向に目を向けてみると日本とはまったく違った状況であることを垣間見ることができる。

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