タイプ
論考
プロジェクト
日付
2015/2/26

エネルギーミックスの検討に必要な視点

東京財団研究員
平沼光


2015年1月30日、長期的なエネルギー需給の見通しについて検討を行う経産省の「長期エネルギー需給見通し小委員会」の第一回の会合が開催された。震災前のような原発に過度に依存したエネルギー構造は事実上不可能という状況の中、2014年4月11日に閣議決定した第4次エネルギー基本計画に記された方針に基づき、エネルギー構成の将来像を導き出すエネルギーミックスの議論がいよいよはじまったわけだが、その検討においては忘れてはならない大事な視点がいくつかある。

忘れてはならないエネルギーミックス再構築の原点

まず、考慮しなければいけないのは“そもそもなぜエネルギーミックスを再構築するのか?”という原点をきちんと認識するという点だ。今回のエネルギーミックスの再構築は3.11原発事故により露呈した日本のエネルギー体制の課題に対処することが原点である。3.11原発事故は、震災前は見えてこなかった様々な課題を浮かび上がらせた。発災直後には、事態の進行とともに以下4つの点が課題として浮上している。

?  一般電気事業者(以下電力10社)による電力系統の地域独占により地域が分断されていたことから電力を広域的に運用する体制が出来ておらず、電力が不足する場所に対して地域を跨いだ供給が十分に出来ないこと。
?  電力10社以外から電力を調達しようとしてもその供給力が低いこと。
(電力10社以外の発電事業者が育っていない)
?  電力供給不安時に需要抑制する仕組みがなく、その結果、計画停電という事態を招いたこと。(電力供給逼迫時には価格が上がり需要が抑制されるという市場原理が働かない)
?  需要家が電力を選択できないこと。

そして、原発事故の影響が明らかになるとともに以下2つの課題が浮上してきている。

? 原発に大きく依存していたにもかかわらず原発が停止した場合のリスク(電力供給不安、化石燃料コストの増加と温室効果ガス排出の増加)をコントロールする体制が出来ていなかったこと。
? 原発は過酷事故を引き起こす大きなリスクがあり、原子力施設の厳重な事故対策、原子力事故災害予測と実行可能な避難計画、風評被害を含めた事故賠償制度、そして放射性廃棄物の処理が不可欠なこと。
震災から見えた課題はこれまでおよそ60年間続いた日本のエネルギー体制の弱点と言える。原発事故からはや4年が経とうとしている中、こうした課題が風化し国民の意識から消えてしまわないよう、あらためて震災から見えた課題はなんだったのかを再確認し、その対処を議論の前提とすることを忘れてはならない。

各電源の構成割合は各電源が抱える課題とその対処策をセットで提示すべき

これまでの日本のエネルギー政策を振り返ってみると、せっかく計画をたててもそれが見込み通りに進捗せず、結果として目的を果たせていないという事例が少なくない。
例えば、国際的に割高な日本の電気料金を引き下げるため電力小売市場を開放し新規参入を増やし価格競争を促すことを目的に2000年3月から進められてきた「電力小売事業の自由化」であるが、新規参入者にあたる新電力のシェア1は、自由化部門の需要の僅か3.5%にとどまっており、自由化したにもかかわらず新電力の参入は進んでいない。その結果、日本の電力料金は未だ内外格差を解消できずにいる状況にある2。これは電源立地地域対策交付金など新規参入者にとって不利な制度が残っていたことや、新規参入者に課せられる送電費用(託送料)、インバランス料金といったコストなど、新規参入にあたり直面する様々な課題に対処してこなかったことが原因として考えられる。

また、エネルギーミックスに関わる個別の電源の導入という点においても既に見込み通りに進展していない事例がある。再生可能エネルギー(以下再エネ)については2007年の第一次エネルギー基本計画をはじめこれまで政府の様々な政策文書にその普及と大量導入を進めることが示されてきたが、昨年9月には電力会社が再エネの接続を保留するなどその普及は今現在に至るまで思うように進展していない。これは、再エネを普及するうえで直面する系統の安定化対策、送電網の中立化対策、電力の広域運用対策などの具体的な課題を無視してきたことが原因であり、再エネ導入の政策方針を決定したにもかかわらずそれを実現できていないという事態に陥っている。エネルギー政策の立案はその実施において現実に直面する具体的な課題への対処を無視することはできず、それはエネルギーミックスを検討する上でも同じと言える。

エネルギーミックスを構成する各電源には各々導入における課題が存在する。石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料火力は燃料調達先の多元化、温暖化ガス排出対策、燃料の安価な調達といった点が課題になるだろう。原子力においては原子力施設の技術的な安全対策、原子力事故災害時の避難対策、原子力事故災害の損害賠償対策、放射性廃棄物の処理対策、それら諸々を考慮した場合のコスト競争力の見極めといった課題がある。再エネについては前述の課題のほか固定価格買い取り制度の中長期的な計画の策定が求められるだろう。

各電源の構成比率はともすれば机上のエネルギーポテンシャルや発電効率、設備容量などの数値から「数合わせ」のようにして導き出されてしまうことが懸念されるが、各々の電源が抱える課題への対処を抜きにしてはエネルギーミックスの実現が途中で頓挫しかねない。少なくとも各電源の構成比を提示するにあたっては各電源が抱える課題への対処策とその対処策を具体的にどのように進めていくかを示したロードマップをセットにして提示するべきだ。

エネルギーの全体需要の低減、電力市場自由化の影響も考慮すべき

日本のエネルギー全体の需要をどの程度で設定するかによってそのエネルギーミックスも変わってくることからエネルギーの全体需要を下げるという視点も欠かせない。2013年度の日本の発電電力量は9,397億kWhとされているが昨今のスマートグリッド技術は著しく進んできていることからさらなる導入により省エネ高効率化を進め全体需要を抑えられることが考えられる。また、工場やビル、下水からの廃熱を利用するヒートポンプなどの技術の発展はこれまで捨てられていた熱エネルギーの活用を可能にし、各電源の発電負担を減らすことにつながることからエネルギーミックスを検討する上で考慮に入れるべきであろう。これまで日本の省エネ高効率化は限界にきており絞る余地のない「乾いた雑巾」と形容されてきたが、昨今の技術革新はさらなる省エネ高効率化の可能性を広げている。政府では省エネ高効率化のポテンシャルの調査を進めているが、これについても数値的なポテンシャルだけではなくそのポテンシャルを活かすために取り組む施策と具体的なロードマップを示す必要がある。

また、将来の電力自由化の影響という点も大事な視点だ。電力市場の自由化により限界費用の安い電源から活用されていくメリットオーダーが進めば市場におけるエネルギー淘汰が始まる。それはエネルギーミックスにも大きな影響を及ぼすため市場原理と政策的な意図をどのように折り合いをつけエネルギーミックスを構築していくかという点も考慮すべきであろう。

エネルギーミックスの進捗状況を管理し、柔軟に改善する仕組みの必要性

前述したようにエネルギーミックスの検討においては技術の進歩や市場の動向を注視しつつ柔軟に対応していくことが必要だ。各エネルギー源の課題への対処状況もその進捗状況を確認しながらうまく対処できていない場合などはその構成比率も柔軟に改善していく必要がある。エネルギーミックスは中長期的な視野で検討されるものであるが、それを固定化せず各エネルギー源の課題への対処状況を柔軟に反映できる仕組みとルールを作っておくことも必要だ。

エネルギーミックスはエネルギー政策全般の方向性を決める元となるものでありその構築が途中で頓挫するようなことは許されない。今回のエネルギーミックスの検討においては震災から見えた課題はなんだったのかその原点に立ち帰り、机上論だけではなく現実の課題を直視する視点で議論されなければならない。


1. 2012年4月時点
2. 東京財団論考「あらためて考える日本のエネルギー政策~エネルギー基本計画閣議決定を受けて」参照