タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/6/4

東日本大震災後の電力需給(2)

4. 提言


以上の解析を踏まえ、5つの指摘を行いたい。


(1)電力に係る情報公開を:「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」を改正し、電力会社を対象にせよ(短期的政策)


今般の解析のため電力の需給動向について調べて、多くの情報が非公開であることが判明した。節電が要請されるようになり、東京電力などでは日々の需要動向など以前よりも詳細な情報が提供されるようになりつつあるが、他の電力会社では、冬期の節電期間の終了と同時にそれまでインターネットでアクセス可能であった電力需給に関するデータの公表を止めた会社もあった。

東日本大震災後、電力が社会の共通資本であることが広く共有された。そして電力会社は実態上、各地域の独占企業であり、その目的はさておき総括原価方式など通常の民間企業から見れば電力価格の設定や利潤確保について恵まれた条件を有している。しかし、報道によれば監督官庁である経済産業省からの利益構造、大口契約者への優遇策などの資料提出の要求さえにも十分に応じておらず、経済産業大臣よりその不透明さを指摘される事態も生じている。

このような事態を改善するためにも、電力会社に対しては公益を担う事業体として行政機関と同様に、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」において一定の条件のもと文書の開示義務を有する行政機関と同様の扱いとする法改正が必要ではないか。

節電対策のみならず、電力改革全般について様々な議論が行われているなか、その前提となる情報を公開せずに節電や価格改定の要請のみを行っても、国民の理解は得られないであろう。原子力発電の安全性に対する国民の不信感についても、このような電力会社の不透明さに起因する面もある。情報公開は、今後の電力に関して感情を排した冷静な議論を行うためにも不可欠である。

(2)実行可能な節電対策の徹底を:「乾いた雑巾ではない日本」やみくもな電力供給量の回復の前に、リスクとコストの低い現実的対策を優先せよ(短期的政策)


気候変動に関する議論において、日本は70年代末の石油危機以降、省エネ努力を極限まで進めてきており、これ以上の省エネを進める余地はなく「乾いた雑巾」であるという主張が行われてきた。他方、欧州などと比較しても、現在の日本のエネルギー効率についてはさほどの優位性は無いとの指摘もあった。結果的に昨夏の節電は、乾いたはずの雑巾から15%の省エネを行い「乾いた雑巾ではない日本」を証明した。

確かに、昨夏は震災後はじめての夏であり、東京電力管内の多くの方が計画停電を経験したことを考えれば、この電力需要の減少は、自主的及び半強制的な節電対策により短期的・現実的に最大限可能な削減幅であろう。また、中長期的な電力不足が経済に与える影響は否定できない。

しかし、昨夏の節電に関する企業へのアンケート結果でも、経済への影響はなかったとの回答も一定程度ある。特に非製造業部門(業務部門)で行った照明・空調の運用改善(間引き、消灯・停止等)、照明・空調以外の機器(エレベーター、OA機器等)の運用改善などは、経済の影響も回避しつつ、効果もあり今後も実施可能な施策と評価されている

東京都では2008年に環境確保条例を改正し、2010年より「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を実施している。同制度では、一定規模のオフィスビル等も対象として省エネ対策等の計画書の提出・対策推進を義務づけている。業務部門におけるエネルギー利用効率を高め、総使用電力量を抑えるために、実績のある本制度を参考として、まずは事業所からの計画書提出に関する部分のみでも対象事業者の規模要件を拡充の方向で見直しつつ、これを全国展開すべきではないか。制度対応への初期コストは必要だが、前述の照明・空調の運用改善などコストの低い対策も可能であり、また中長期的には業務コストの低下にもつながる。

また、家庭部門の節電は、強制的措置が難しく、かつ単身世帯などで過度な対策を取った場合に熱中症が発症した場合、複数の人間がいる業務部門より対策リスクも高い。これについては国では、既に家電エコポイント事業という経験があるので、家庭における消費電力が大きく、代替可能性が低く、常時使用せざるを得ない「冷蔵庫」に限定して実施することが考えられる。日本全国の冷蔵庫(約6,500万台)を省エネタイプに変えた場合(現状平均750kWh/台・年から省エネ平均400kWh/台・年へと仮定)、約260万kWの節電になり、これは大飯原発2基分の出力(235万kW)と同程度になる。社会的な投資費用については、冷蔵庫の価格を15万円として買い換え費用が約10兆円、電力料金の節約を差し引いて(約5兆円=約5,000億円/年×10年)、約5兆円が必要となる。例えば、大飯原発2基分の建設費用を5,000億円程度と想定、これと比較すれば、10%程度までの補助(エコポイント)も妥当ではないだろうか。自治体においても、家庭用コンポスト(生ごみ処理機)への購入補助制度を実施している例があり、これと同様に(必要であれば、同予算を振り替えて)省エネ冷蔵庫の購入補助或いは買替融資制度を導入することも可能であろう。

さらに、東日本大震災及びその後の節電の経験から、先述のアンケートのとおり国民に電力に対する意識の変化が生じている。この変化を背景として街や駅の照明の暗さを受け入れるアクセプタンスの上昇やデザインによる照明の工夫を進めることなどもリスク及びコストの低い対策である。

(社)日本経済団体連合会の企業向けアンケート調査[9]によれば、電力需給の緊迫した状況が今後2~3年間続いた場合に製造業の16%、非製造業の66%が特段生産への影響はない(製造業の59%、非製造業の6%が国内における生産の縮小・停止を余儀なくされる)と回答している。

(3)コンティンジェンシープラン(不測時対応計画)の構築を:電力使用制限令の実施を前提とする節電対策プランも用意せよ(短期的政策)


分析の結果、今夏、特に北海道・関西・四国・九州電力管内では電力供給が不足する可能性が生じている。しかしながら、政府は今夏に電力使用制限令を発動せず、万が一の場合は計画停電により対応することを決定した。

電力供給について、他地域からの電力融通や自家発電の導入により、不足することのないように最大限の努力を行っているとしても、電力需要については要請ベースであれば、需給ギャップが発生する可能性は消えない。今回の分析結果では、昨夏の東電管内並みの節電が最大限に行われても、自主的な節電の範囲では、中西日本6電力の管内全体で電力供給の予備率は3%と危機的なレベルと見積もられている。今夏の気象状況もまだ不明であり、火力発電所でトラブルが発生し電力供給量が低下する可能性も低くない。実際、東京電力管内においても、今年のみでも毎月1件近い火力発電所(自家発電所を含む)トラブルが同社のホームページで公表されている。

電力使用制限令を回避した理由は、一律の需要制限が与える影響に配慮したためのようであるが、計画停電であっても鉄道の運休や人命に直結しかねない医療関係需要への不安など社会への影響が大きいことは昨年の東京電力管内の実績で確認されている。いずれかの施策のみを採用するのではなく、社会に与える影響を最低限にする観点から、電力使用制限令により、一定程度の需要を抑えつつ、万が一の場合には計画停電を実施するという組み合わせも考えられる。また、計画停電については、東京電力管内では震災直後に強制的に経験を積んでおり、万が一、夏期に行われる場合に何に気をつけるかという予行演習が済んでいた。この点で、関西電力管内などでは、その経験が無く、夏期に突然実施された場合に多大な混乱が生じる可能性もある。

早期に計画停電の予行演習を実施するとともに、計画停電のみに頼らない別の節電対策プランも用意をしておくべきではないか。

(4)節電と気候変動対策の融合を:需給両面でのエネルギー効率を高め、グリーン産業を育成し、日本社会の「高品質化」を進めよ(短期~中長期的政策)


原子力発電所の停止は、その存在を前提としていた気候変動政策も崩壊させた。京都議定書の1990年度比で2008~2012年度(約束期間)の温室効果ガスを6%削減という日本の目標については、2008~2010年度までの3年間は森林吸収および京都メカニズムのクレジットも含めると10%以上の削減ができていたが[10]、火力発電が増加する2011~2012年度は大幅な増加が懸念される。また、2020年に25%削減という国際公約の達成はさらに厳しい状況にある。一部には今般の震災を理由に、日本の温室効果ガス削減の取組が停滞・後退することを国際的に理解してもらうべきとの声もあるが、そもそも気候変動問題による危機が低下したわけでもなく、そのような主張が通る保障はどこにもない。

そもそも、今般の震災以前より日本経済は転機を迎えていた。仮に震災前と同等の価格で電力供給量を回復させても、新興国に比較すれば高価な電力価格であり、さらに人件費、為替などの要因でも不利な状況にある。

いずれにせよ、我が国の成長戦略には、そのような「量」重視ではなく、中長期的には需給両面でのエネルギー効率を高め、雇用の創出を目指す、いわゆるグリーン産業を育成する「質」を重視する社会、いわば日本社会の「高品質化」が求められていた。

実際に、昨年度は節電対応のため、関東圏を中心にLED電球や照明器具などに対する需要が急増し、LED照明市場が拡大した[11, 12]。今般の電力危機は、新たな成長産業を育成する機会にもなり得る。また、昨夏の経験により、我々は人力で行えることをすべて電力に代替していくような生活様式や真夏の数日・数時間のピークロードの電力需要を供給できるようにするために過大な発電能力を整備する電力供給システムが非効率であることを理解できた。今後、中長期的な電力受給を再検討する場合には、単なる技術開発やインフラ整備の検討に留まらず、産業構造や生活様式に関する、このような経験もまた重要な意味を持つであろう。

(5) 利益と感情から脱却した議論を:今後の環境・エネルギー政策について国民的議論が行われる環境を整備せよ(短期~中長期的政策)


電力・エネルギーシステムの改革の方向性については、徹底した国民の議論が行える場を設置することが必要である。2020年以降の気候変動の目標設定についても、国民の関心を高めることができず、産業関係者とNPOが極端な目標を打ち出し、利害と感情、イデオロギーが対立するだけの議論に終わった。

現在、政府のエネルギー・環境会議にて、電力・エネルギーシステムの改革について検討が行われているが、今回こそ、その結果を踏まえた日本の環境・エネルギー政策、特に日本の将来のエネルギーの選択については、特定の関係者に偏らず、利益と感情から脱却した議論を行う必要がある。

2009年に審議された臓器移植法案の採決では、その問題の倫理性からほぼ全ての政党で党議拘束が外された。この日本の将来のエネルギーの選択も、後生の世代にどのような未来を築くかという世代間の正義、倫理が問われる課題である。政党としての選択ではなく、個々の政治家として議論を尽くし、回答を示すべきであろう。

同様に、国民一人ひとりもまた責任を持った選択をすることが問われている。そして、国民の選択のための情報の提供と議論の場を整備することは、国をはじめとする「公」が果たすべき役割である。





[1]「計画停電に関するアンケート」(東急沿線アンケート調査データArea Voice)
http://www.selun.ne.jp/business/marketing/areavoice/20110013/index.php


[2]染野憲治:「今夏の電力危機に向けて」,東京財団 論考(2011年4月2日掲載)
http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=264


[3]染野憲治・中谷隼:「今夏の電力危機に向けて(2)」,東京財団 論考(2011年4月14日掲載)
http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=267


[4]資源エネルギー庁:「今夏の電力需給対策のフォローアップについて」(2011年10月14日公表)
http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111014009/20111014009.html


[5]東京電力:「今夏の電力需給状況について」,プレスリリース(2011年9月26日更新)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11092602-j.html


[6]三菱総合研究所:「電力調査統計月報などから見る夏の節電影響総括」,ニュースリリース(2012年1月13日掲載)
http://www.mri.co.jp/NEWS/press/2012/2035112_2212.html


[7]中谷隼:「東京電力管内における今夏の電力需要減少の要因分析」,東京財団 政策研究(2011年12月7日掲載)
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=842


[8]需給検証委員会:「需要想定について」,第3回 需給検証委員会,資料4-2(2012年5月2日掲載)
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive08_03.html


[9]日本経済団体連合会:「今夏の電力需給対策に関するアンケート結果について」(2011年10月21日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/101.pdf

[10]環境省:「2010年度(平成22年度)の温室効果ガス排出量(確定値)について」(2012年4月13日)
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2012/20120413/about.pdf


[11]GfK Japan:「LED照明 販売動向 LED電球の販売数は白熱電球を上回る。LEDシーリングライトも急増」(201年7月6日)
http://www.gfkrt.com/imperia/md/content/documents/pre20110706_led___________________.pdf


[12]GfK Japan:「シーリングライト販売動向 LEDシーリングライトが過半へ」(2012年4月9日)
http://www.gfkrt.com/imperia/md/content/documents/120409_led_light.pdf


[13]「東電の利益構造「ようやく分かった」=不透明さ批判―枝野経産相」(2012年5月24日 時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120524-00000011-jijc-biz