タイプ
レポート
日付
2014/10/29

韓国のユーラシア・イニシアチブの可能性と課題

[特別投稿]黄洗姫氏/海洋政策研究財団 研究員

 2013年10月18日、韓国政府は「ユーラシア・イニシアチブ」を発表した。「ユーラシア時代の国際協力」という会議において朴大統領が提案した同構想は、ユーラシアを「一つの大陸」、「創造の大陸」、そして「平和の大陸」として導くことを目指すものである。同構想は、物流やエネルギーの輸送ルートとしてのユーラシアの地政学的価値に注目する。韓国政府は同構想によりロシア、中国、そして中央アジア諸国との協力を推進し、ユーラシア経済圏の建設による経済成長を期待している。

「一つの大陸」、「創造の大陸」、そして「平和の大陸」へ

 韓国政府は、冷戦終結以降活発しつつあるユーラシアの交易が今後、域内経済統合につながるという予想の下で、ユーラシア大陸の東外縁である朝鮮半島の役割に注目する。朴大統領は、ユーラシアと太平洋をつなぐ地点に置かれた朝鮮半島が分断されている現状は、ユーラシアの経済統合および交流を遮る原因であるとの認識を披瀝した※1。域内国家間の協力を促進するとともに、北朝鮮の開放を誘導することで朝鮮半島の緊張緩和および統一基盤作りにつながることが期待される。

 そのために、同構想の方向性として上記の三つの概念が挙げられた。まず「一つの大陸」は、ユーラシア大陸を横断する物流ネットワークや電力、ガス、原油等のエネルギー・ネットワークの建設を目指し、国家間協力を図る。「創造の大陸」は、韓国が推進する「創造経済」をはじめ、各国の経済成長プロジェクトの連携と、人的交流および文化交流を通じて相互理解の拡大を試みる。最後に、「平和の大陸」では、ユーラシアと太平洋をつなぐ朝鮮半島の地政学的な特性と朝鮮半島の平和の意義に対する域内諸国の理解深化を図るとともに、朝鮮半島問題の解決に対する各国の協力を求める。このようなユーラシア全体の発展という観点から、南北関係の安定と朝鮮半島の平和を導くことが期待されている。

 同構想の第一段階として、昨年11月の韓露首脳会談では、ロシア鉄道公社が運営する羅津−ハサン鉄道と、羅津地域の港湾開発プロジェクトに韓国企業が参加することが合意された。羅津−ハサン鉄道は、シベリア横断鉄道(TSR)と連携し、極東アジアからヨーロッパをつなぐ最短ルートとして発展する可能性が高い。とりわけ、羅先経済貿易地帯に属する羅津港を利用し、釜山−羅津間の海上輸送とTSRが連携することで、韓国のコンテーナ輸送ルートとしての可能性が期待されている※2。

 ユーラシア鉄道構想のモデル事業でもある同プロジェクトは、韓国、北朝鮮、そしてロシアに実益を与える事業である。韓国としては経済効果以外にも、第三者を入れた南北経済協力の新しい取り組みを経験し、南北関係を改善するモメンタムにする狙いがある。北朝鮮には老巧化した鉄道の改善と羅先地域経済の活性化が、ロシアには飽和状態に達した極東の港湾問題を解決し、TSRの競争力をアピールすることが期待できる※3。

具体的な成果は未だ現れず

 以上のような韓国のユーラシア・イニシアチブは、中国、ロシア、そして中央アジア諸国から提案されているユーラシア経済発展構想と類似の性格を持っており、今後各国の経済発展プロジェクトとの連携の可能性も考えられる。プーチン大統領が主唱しているユーラシア連合構想や、習近平主席が提案したシルクロード経済ベルト構想も、中央アジア諸国との協力を通じてユーラシア大陸の発展と経済統合を図るものである※4。

 しかし、多様なプレーヤーとの協力が可能であるがゆえに、同構想の実現に向けた具体的な政策の執行が容易ではないことが明らかになってきた。 韓国政府は今年の2月、外交部ヨーロッパ局の傘下に韓国−北朝鮮−ロシア三角協力のタスクフォースを設置したものの※5、三角協力を推進するための関連政策の立案には未だ至っていない。しかも、今年7月の習主席の訪韓の際、朴大統領が「ユーラシア・イニシアチブと中国の新シルクロード構想との連携を模索すべきである」と発言したことから、北朝鮮とロシアとの協力に重点をおいた従来の方針からの転換が予想された※6。域内大国である中露両国に配慮せざるを得ない現実を勘案しても、政策実行の詳細が見えないまま協力の重心が揺れ動くのは、同構想の推進が状況対応的に行われている印象を与えてしまう。中露間で戸惑いを見せる韓国の態度は、ユーラシア発展という本来の目的に相応して、中露両国を同時に取り込む協力の枠組みを創設する可能性を韓国自らが放棄する結果を招きうるのだ。

従来の外交戦略との調整が緊要

   対外政策との一貫性という面からは、従来朴政権が提示してきた外交政策との連携も明確でないことが指摘されている。政権発足以降、朴政権は「韓半島信頼プロセス(朝鮮半島プロセス)」と「北東アジア平和協力構想」を推進してきた。「韓半島信頼プロセス」は、南北間の信頼形成に基づいて朝鮮半島の平和統一基盤構築を目指すものである。

 「韓半島信頼プロセス」と「北東アジア平和協力構想」が外交安全保障および対北政策の戦略である反面、ユーラシア・イニシアチブは当該地域を包括する経済協力のための構想と言える※7。すなわち、ユーラシア・イニシアチブの推進を通じて北朝鮮とロシア、中国等を取り込む多国間協力が地域安定と朝鮮半島の平和を形成することが予想される。しかし、現在のユーラシア・イニシアチブが前述のように中露のユーラシア戦略の中で二者択一として展開された場合、両国のユーラシア大陸をめぐる主導権争いに巻き込まれるだけであり、韓国政府が望む北東アジアの平和協力とは程遠い事態を招来するかもしれない。

 さらに問題であるのは、韓国とユーラシアを結ぶためには北朝鮮との協力が必須であり、南北関係の安定的な管理が欠かせないという現状である。朴政権発足直後に勃発した開城公団問題や相次ぐ休戦線付近での局地的な衝突に見られるように、偶発的な対立は直ちに南北関係に緊張をもたらす。このような現状では、ユーラシア協力という長期的な目的のために行う韓国の北朝鮮協力は、ひとたび南北関係が悪化した場合、南北協力の中止が互いに対する制裁の手段として利用される「協力の人質化」を惹起しかねない。

 以上のように、エネルギー・ネットワークの確立はもちろん、人的交流等といった同構想が掲げた協力課題の多くは、従来の外交政策との緊密な連携と朝鮮半島情勢の安定が保たれた際に実現できるものである。このような難題が待ち受けているものの、米韓同盟を基軸に、アジア太平洋地域に重きが置かれてきた従来の韓国外交を踏まえれば、ユーラシア・イニシアチブは新たな外交領域の開拓であり、今後の国家成長戦略としての可能性を秘めているといえる。同構想が相手国との関係改善を図る一回的な外交的レトリックにとどめることなく、実際の国家戦略として発展させるためには、詳細な政策的な検討とともにユーラシア協力に対する韓国社会の認識の高まりが必要であろう。

  • ※1:2013年10月18日「ユーラシア時代の国際協力」基調演説。全文はhttp://www1.president.go.kr/president/speech.php?srh%5Byear%5D=&srh%5Bmonth%5D=&srh%5Bsearch_type%5D=1&srh%5Bsearch_value%5D=%C0%AF%B6%F3%BD%C3%BE%C6&srh%5Bview_mode%5D=detail&srh%5Bseq%5D=53&srh%5Bdetail_no%5D=1
  • ※2:ナ・ヒスン「南北・ユーラシア鉄道事業の意義および協力の課題」『KDI北韓経済レビュー』2014年2月号、20-34頁。
  • ※3:同上、31頁。
  • ※4:アン・ビョンミン「ユーラシア時代の北東アジア協力と北朝鮮開発の展望」『スウン北韓経済』2014年春号、31−57頁。
  • ※5:2014年1月16日、外交部定例ブリーフィング。
  • ※6:ニューシス、2014年7月4日。http://www.newsis.com/ar_detail/view.html?ar_id=NISX20140704_0013026778&cID=10301&pID=10300
  • ※7:朴ビョンイン「ユーラシアイニシアチブ−評価と課題」『韓半島フォーカス』2014年3・4号(第27号)、9頁。