タイプ
レポート
日付
2014/11/28

戦時作戦権移譲問題と米韓同盟の今後

[特別投稿]黄洗姫氏/海洋政策研究財団 研究員

 10 月24日、ワシントンで開かれた第46回米韓安全保障協議会(SCM)では、韓国の戦時における作戦統制権(以下作戦権)の移譲時期を朝鮮半島の安全保障状況に応じて決定することで合意した。  朝鮮戦争時に国連軍司令部に移譲された韓国軍の作戦権は、1978年の米韓連合司令部の創設により同司令部へ移管された※1。これ以降、在韓米軍司令部が管理してきた韓国軍の作戦権は、冷戦終結後の米韓同盟の再調整を経た後、1994年に平時作戦権を韓国軍に移譲するに至った。その後も米韓両国は戦時作戦権移譲問題の検討を続け、2012年4月に米韓連合司令部の解体と戦時作戦権の韓国移譲に合意した(2007年2月、米韓国務長官合意)。しかし、2010年の天安艦沈没事件をはじめとする朝鮮半島の危機の高まりの中で、作戦権の移譲時期を2015年12月に延期した経緯がある。作戦権移譲の再延期を決定した今回の米韓合意は、この2015年12月の移譲に関する合意を放棄することを意味するため、 米韓両国が戦時作戦権の移譲を事実上断念したのではないかとの推測を呼んでいる。

戦時作戦権問題をめぐる韓国社会の対立

 戦時作戦権の移譲問題は、休戦体制の朝鮮半島と北東アジアの安全保障秩序に関わる問題であると同時に、対米自主路線をめぐる韓国社会の対立が際立つ事案であった。同問題について、1980年代から浮上した韓国社会の対米自主路線に後押しされてきた移譲推進派と、作戦権移譲による対北抑止力の急激な低下を懸念する移譲反対派の間で論争が続いてきた。

 移譲推進派は、作戦権の完全な回復が対北交渉における韓国の地位を強化すると主張する。彼らは、作戦統制権を有しない韓国軍には朝鮮半島の軍事問題を議論する資格も権限もないという理由に基づき、北朝鮮が韓国の頭越しにアメリカと直接交渉を試みてきた現状を問題視する※2。また、戦時と平時の作戦権が二元化している米韓連合指揮構造は効率的でなく、即時対応にも限界を露呈してきたと主張する。韓国軍の有事対応能力が疑われる現状では、北朝鮮の局地的な挑発を誘発する余地を与えてしまうという。

 他方で移譲反対派は、作戦権の移譲と米韓連合作戦体制の解体は、核・ミサイルをはじめ、非対称的な脅威を増してきた北朝鮮の軍事力に対して、効果的な対応を困難にすると主張する。反対派は、米韓連合防衛体制下における従来の北朝鮮の軍事的挑発はアメリカへの挑発をも意味したため、挑発を抑制的なものにとどめることができたと評価する。そのため、作戦権が移譲され、挑発の対象が韓国軍のみに限定されることで、北朝鮮が冒険的な軍事的挑発に踏み切りやすくなることを危惧している※3。  

「韓国防衛の韓国化」の課題

 結局、同問題の争点は、韓国軍が独自で韓国防衛を担うことは可能なのか、すなわち「韓国防衛の韓国化」は可能なのかという問いに集約することができる※4。これはまた、マクロな次元では作戦権の移譲後における米韓連合作戦の運用問題として、ミクロな次元では韓国軍独自の作戦遂行能力の問題として理解できる※5。無論、作戦権の移譲時期が事実上白紙状態に戻ったとはいえ、米韓同盟の再調整と韓国軍の現代化政策の遂行を通して上記二つの問題への対処を試みる、米韓両国間の協議は今後も続くだろう。こうした情勢に加えて、財政削減の圧力の下でアジアでのリバランシングを企図するアメリカとしては、朝鮮半島における安全保障においてはまず韓国軍が主体的な役割を果たし、その上で米韓同盟がアジア太平洋地域の安定のかなめ(linchpin)になることへの期待を表明している。

 これまで米韓両国は、作戦権の移譲後の米韓同盟の運用方式に関する研究を続け、2013年5月の米韓国防長官会談では、作戦権移譲後の米韓連合指揮体制として、米韓連合戦区作戦司令部の創設を検討することに合意していた※6。連合戦区作戦司令部体制下では、韓国軍が司令官を、米軍が副司令官を担当し、平時の北朝鮮の脅威管理と戦時の軍事作戦において韓国軍が主導的な意志と能力を発揮することで、対等な米韓同盟の実現を図るものであった※7。作戦権移譲の再延期を公式発表した今回のSCM共同発表文では、「条件に基づく戦時作戦権の移譲」への推進が明記されており、韓国軍が朝鮮半島および域内の安全保障環境に安定的な機能を果たすことを移譲の前提としている※8。

包括的な戦略同盟としての米韓同盟と日米韓協力の必要性

 以上のように、戦時作戦権移譲の目処が立たない中での延期決定がなされたとはいえ、今後の米韓同盟において、韓国軍による韓国防衛の機能拡大という、これまでの方針が急激に転換されるとは考えがたい。ただし、作戦権移譲の再延期がアメリカの対韓コミットメントを自動的に保障する訳でもない。実際、今回のSCM合意においても、韓国軍独自による北朝鮮の核ミサイル対応能力の向上するために、米韓同盟の相互運用が可能なKill-Chainと韓国型のミサイル防衛(KAMD)を2020年代半ばまでに発展させることが再確認されている。

 このような「韓国防衛の韓国化」の実現は、対北抑止の向上により朝鮮半島および北東アジアの安全保障秩序の維持を可能にすると同時に、日米韓協力の可能性を常に内在している。北朝鮮の核・ミサイル脅威に対応するための日米韓相互の情報共有の必要性は再度議論するまでもない。そして昨年5月の「米韓同盟60周年記念共同宣言」で宣言された包括的な戦略同盟※9としての米韓同盟は、従来の軍事同盟関係に加え、米韓FTAの締結により経済関係、社会・文化・人的交流等も深化させ、より広い範囲における米韓協力の構築を図っている。米韓同盟の最大の懸案事項であった戦時作戦権問題が一段落したことで、今後の米韓関係においては包括的な戦略同盟をいかなる形で実現するかが主要な課題となる。それゆえに、日米同盟との密接な連携による北東アジアの秩序維持や、多国間安全保障枠下での日米韓協力の必要性が再び浮上するだろう。

  • ※1韓国軍作戦権の米韓司令部への移管により、国連司令部は停戦協定の管理のみを担当することになった。
  • ※2チョン・キョンヨン「戦時作戦権転換の正常推進と米韓同盟のビジョン」『軍事論壇』第74号、2013年夏、151頁。
  • ※3作戦権移譲後の北朝鮮の脅威に関してはソ・ジュンソク「戦時作戦権の転換に備える韓国の安全保障対案–脅威と脆弱性の減少を中心に」『軍事論壇』第65号、2011年春、285-305頁。
  • ※4ユン・ヨンミ「戦時作戦権転換と韓国の安全保障の当面課題」『戦略論壇』第16巻、2012年12月、36−57頁。
  • ※5ユン・ヨンミ、 前掲。
  • ※6連合ニュース、2014年9月4日。
  • ※7 チョン・キョンヨン、前掲、167—168頁。
  • ※8韓国国防部発表、2014年10月24日。全文はhttp://www.mnd.go.kr/user/newsInUserRecord.action?newsId=I_669&newsSeq=I_8014&command=view&siteId=mnd&id=mnd_020400000000
  • ※9韓国外交部発表、2013年5月8日。全文は http://news.mofa.go.kr/enewspaper/mainview.php?mvid=1519